The Assassin from The Past(6)
「今度はこっちのターンだね」
「いいえ、私のターンよ」
アイリスが抜いた刀は瞬き一つで鞘へ戻る。
「月神流攻壱型【烈風】!!」
仮面女の一人のソードをへし折り、そのまま胴を切りつける。仮面女は数メートル飛ばされ地面に転がり仮面が剥がれる。
それとほぼ同時、一歩踏み込み俺もライトソードを抜刀した。
「朱雀流攻壱型【椿】!!」
もう一人の仮面女のソードを根元から折り、さらに猛一撃を加える。仮面女はその衝撃で仮面が外れ仮面も女も地面に転がる。
そしてその顔を見てぞっとした。
「同じ顔だと!?」
仮面女はどちらも全く同じ顔だったのだ。
ただそのことを深く考えている余裕はない。
遠方からの射線、狙撃だ。
――――キィン、――キィン!!
銃弾をソードで弾き飛ばす。着弾四秒半、軽く千メートル以上の距離からの狙撃だ。対処のしようがない。何か楯になるものに隠れなければ一方的に不利だ。
「アイリスとイリスは隠れろ!!」
俺が隙を作る。さらに飛んでくる二発の銃弾狙いは俺の後ろだ。
「朱雀流守弐型【水仙】!!」
相手の射線に立ち二連撃で叩き落とす。さらに前進し頭のおかしい女に一撃を加えようとした。
「そんな直線的な攻撃ではダメよ、これで十分」
頭のおかしい女は右の人指し指一本だけを前に出した。
そしてライトソードを一本の指の爪で受け止める。
「何だと!?」
「どういうこと?」
俺が驚いたと同時に頭のおかしい女も驚く、どういうことだ!?
――――――――ドォォォ――――ン!!!!
カチッと言う音が聞こえたかと思ったら既に俺は吹き飛んでいた。
「宗助くん!!」
「兄さん!!」
二人の声が微かに聞こえる。頭がまだ追いつかないが至近距離で爆弾が炸裂したのだろう。間違いなく死んだと思ったが、俺はまだ生きている。
空中に浮いている間に左の鞘のアンカーを空へ射出し、その圧縮空気の反作用を利用して体の向きを変え地面に着地し、それと同時に射出したアンカーが鞘へと戻る。
制服は焦げてワイヤー繊維がむき出しの状態だが、体へのダメージはそうでもなかった。熱よりも爆風によるダメージの方が大きい。
「それくらいでは死なないのね。私を楽しませてくれているのがよくわかるわ。次はどこが爆発するのかな~?」
笑っている頭のおかしい女は無傷だ。理由は分からない。それに爆発と言っても煙は比較的少なく、黒煙も一瞬で消えたような気がする。
もう一つ疑問がある。指一本で剣撃を防いだことだ。どちらも能力によるものだとしても関連性が見出せない。
俺は爆風で飛ばされたことで間合いを取ることに成功する。
「何か見えたか?」
「いいえ、兄さん」
イリスは首を横に振る。
「アイリスはどうだ?」
「ごめんなさい、わからなかったわ」
申し訳なさそうに首を横に少しだけ振った。
「わからないなら、もう一回見せてあげるわ」
その瞬間にどこからとも無く追い風が吹いたような気がした。
カチッ、――――――ドォォォ――――ン!!!!
そしてその爆発は連鎖する。道路の並木が次々に爆発していく。木片が飛散しそれらから二人を守るように立ち背中で受けた。
「奴の能力がわからん」
風が吹いたのが偶然か否かの判断は付かないが確かに爆発前に追い風つまり女へ向かった風は吹いた。推測の域を出ないが風を操る能力である可能性もある。
「アイリス、風に気をつけてくれ!!」
「風? 風なら私も操れるわ!!」
アイリスが左手を空高く上げる。
「――――大気流動(Aero-Dynamics)!!」
アイリスを次第に取り巻く空気が左手に収束しようと渦巻く。
「アイリスは能力持ちだったのか!?」
「あれ、言ってなかった?」
俺は「言ってねぇよ」と心で叫びつつその風の勢いに圧倒される。能力者として覚醒しているようだったが、まさかステージ2までとは思っていなかった。遺伝的な能力ではなく固有能力を持っているということはあの事故の時に相当量の超粒子(Hi-particle)を浴びたことになる。
アイリス左手の一点に集めた台風のような風を解き放つ。
「能力まで持っているのね。本当に日本支部は調査が甘いわね、でもその程度じゃあダメ、三十点だね」
そのまま直撃を受けるも無傷だ。
アイリスはさらにコンバットナイフを投げつける。
「――――エアーシュート!!」
ナイフが空中で高速回転し真っ直ぐに女へ飛んでゆく。これは一般的な投擲とは異なり放物線は描かない、一直線だ。
俺はその女の後ろに全速力で回り込む。案の定アイリスの攻撃を防ぐため俺の行動をスルーする。
「それも三十点、もう少し頭を使ったら?」
顔面目掛けて飛んだ亜音速のナイフを回転しているにも関わらず素手で白刃取りして来る。
「……強い」
「自分の力に自信を持つのは結構だけど、私から見たら弱すぎなのよね♪」
アイリスはこの攻撃手段ではダメだと悟り後退する。それと同時に俺が後ろから攻撃を加えるためライトソードを抜刀する。
「はぁ…あなたもバカなの? 考え方が単純すぎるわね」
「くっ、黙れ」
今度は振り向きもせずに女の背中に触れるか振れないかの距離で風圧により吹き飛ばされる。
「見えない壁がある」
「あなた何者なの? エクステリアの分際で」
俺の方を少しだけ振り返りそう呟く。その顔は明らかに不機嫌だ。この優勢な余裕を見せてもいい状況だが女はこちらを睨む。
「エクステリアで悪かったな、能力者!!」
「そうね、能力者なことは分かっても、何の能力かは分からないみたいね」
頭のおかしい女はそう嘲笑った。