The Assassin from The Past(4)
~Next Day~
俺は朝六時に目が覚める。今日はアイリスと街へ出かける日だ。主の目的ではないにしろ、これは形式上デートと言えるだろう。保護者同伴ではあるが……。
「兄…さん、……ううん……」
少し動いたので俺に追従するようにイリスが体を寄せて来る。そして俺のパジャマのガッチリ掴んで離さない。
「兄さん、まだ六時です。約束の時間は十一時です。まだ寝られますよ……」
あまりにも動いたのでイリスが起きてしまう。
「まだ寝たいのか?」
「……」
意見を言っても良いかの確認なのか、じっと俺の方を無言で数秒見た後「まだ寝たいです、兄さん」と小さく呟いたのだった。
なんだろう、イリスと寝ていると何だか子猫と一緒に寝ているような気持ちになる。いや娘だろうか? 少なくとも妹という感じはしない。
表情こそ硬いが今のイリスはまるで俺に懐いているかのようにぴったりくっついて離れないし離さない。イリスの体温は高く、まるで湯たんぽのように温かく、俺に安眠を提供してくれる。冬場は良いが、夏場は寝汗をかきそうだ。
結局、二度寝して起きたのが十時過ぎだった。
そこからが大変だった、中々布団から出てこないイリスにシャワーを浴びせるまでが。
割とギリギリだったが何とか間に合う。
「今日の兄さんは張り切ってますね」
「そうか?」
図星の俺は適当に返す。
「はい、普段はあまり髪型を気にしません」
どうやらイリスにはわかるようだ。それにしても「気にしません」までは失礼だ。俺も少しは気にしている。
ライトソードよし、拳銃よし、予備弾倉よし、装備品のチェックを終え部屋を出る。
駐車場に止まっているTOYOTA 86の前で既にアイリスが待っており階段を下りているところで俺たちに気づき手を振って来たので軽く振り返す。
曇り空で雪は降っておらず、そこまで寒くはない。
「待たせたな」
「そんなことないよ、私も今来たばかりだから」
アイリスは首を横に軽く振る。
「そうか、それにしても随分と気合が入ってるな」
「そう? これが私の通常装備だよ?」
軽く左腰のベルトに吊り下げられている刀を持上げる。それに加えてスカートの裾から見え隠れするのはパンツではなくBeretta M92だ。右に拳銃、左にコンバットナイフと予備弾倉だろうか、さらに右手に指抜きのグローブをしており持ち手のグリップ力を高めるために着けているのだろう。それに加えて手の甲側には金属のプレートが入っているので小手としての役割もあるようだ。
街までは前にリアとデートした時と同様に学園前まで歩いてそこからは電車で一本である。
学園前を通りかかったときに偶然とは思えないが椎名会長が立っている。肩にはゴルフバッグみたいなでっかい鞄を背負っている。ありゃ中身はアサルトライフルだな。
「やあ小宇坂とイリス、それに守護科のアトランティカね。この雰囲気はデートかしら? 両手に花ね」
会ってそうそう笑顔で随分とベラベラ喋る人だな、それはいいが何の用だろうか?
「偶然という訳ではなさそうですね」
「あれ? アトランティカから聞いて無かったのか?」
俺はアイリスの方を見る。
「私は今日のことを事前に会長に報告しただけだよ?」
なるほど、それで待っていたのか。
「小宇坂、手短に言うわ。前回の件、どうやら大事になりそうだ。詳細は追って連絡するが、どうやら大日本帝国陸軍の残党というべきかな? とりあえず今の所、組織的な犯行ではないようだが、能力が分かっていない以上、十分に気をつけることね。何かあれば直ぐに私に連絡すること、以上。それでは良い休日を」
言うことだけ言って学園に戻って行く。春休み中でも生徒会の業務が残っているのだろうか。まあ、前回の件の後処理と言ったところか。
会長の言葉を整理するとあの軍服はコスプレではなかったようだ。組織的ではないと言った以上、保安局絡みではないようでそこは少し安心する。
「突然現れたと思ったら直ぐに去って行ったな」
「風のような人だね」
さっきまで曇りだった空から雪が降りだし、風が強くなる。
「吹雪いてきやがった」
次第に悪化していく天候に嫌な雰囲気を感じつつも駅に向かうが積雪のためダイヤが乱れており、そこから街に行くまでに小一時間を要した。