The Assassin from The Past(2)
「リアさんが得意なのはそうですが、兄さんもこういう任務かなりこなしてますよね?」
「……なぜ知っている」
「兄さんの経歴は一応全て把握しています。兄さんが教える方が適任では?」
ここでイリスが俺の背中を押すように言わなくていいことを言ってくる。
「宗助くん、そうなの?」
アイリスは疑問系だ。
ここで嘘を付いても仕方が無いだろう。
「……ああ、イリスの言っていることは事実だが、俺は教えることは得意じゃないし、リアの方が――――」
「――――そんなことないよ!!」
アイリスが少し前のめりになって大きな声で叫ぶ。
「宗助くんは変なところで自信ないけど、もっとそこは自信を持っても良いところだよ。春休み前の実習で銃の使い方を教えてくれたけど、とてもわかりやすかったし、それに、それに――――」
「――――わかった、わかったから。俺で良ければ教えるから」
アイリスが恥ずかしいことをどんどん言いそうな勢いだったのですぐに止める。
「本当?」
「ああ、本当だ」
「それで宗助くん、これからどうすればいいかな?」
とは言ってもずっと付きっ切りというわけにも行くまい。しかしそれでは護衛の意味がないだろうし困りどころだ。
「アイリスにも都合があるだろうし、できる限りでいいんじゃないか?」
「そういう訳にはいかないよ。これも立派な依頼だからね」
依頼を受けられるのが嬉しいようで、いつもよりも浮かれているのがわかる。普段はあまり依頼を受けていないのだろうか。
「気合は十分だが、始業式までは基本的に遠出はしないようにしようと思っていてな、ただ明日レフトソードを取りに街に出るからその時の護衛だけお願いするかな」
「…わかったけど」
そうは言うも少し不満そうな顔をする。
「アイリスは新学期まで予定はないのか?」
「予定はあったけど、この依頼以外は全て断っちゃったから」
「そうか、なら部屋から出る時は連絡入れるってことでいいか?」
「うん」
するとアイリスの表情は笑みに変わる。アイリスが嬉しそうならそれで良いだろう。
「それで何だけど、今日はここに居てもいいかな?」
「護衛ということでか?」
「うん、迷惑なら帰るけど……」
「いや、そんなことはない好きにいてくれて構わない。何なら部屋の鍵やるから好きに出入りしてくれ」
予備の鍵をアイリスに手渡す。
「え? ええっ? 私凄く信頼されてるんだけど……。私は宗助くんの知っている私じゃないんだよ? 大丈夫なの?」
「記憶が無くても人間の本質的な部分が早々変わることはないだろう。それに昔はお互いの家にフリーパスで入ってたしな、俺は気にしないから」
どの道合鍵を渡そうと思っていたので良い機会だろう。
「そ、そんなに信頼されるような関係だったなら、私の部屋の合鍵も今度渡すから!!」
「それダメだろ、俺の部屋は男の部屋だからいいけど、アイリスの部屋はダメだ」
これを受け取る訳にはいかないだろう常識的に考えて。
「でもそれじゃあ私も受け取れないよ。そこは信頼関係の話で男とか女とかは関係ないと思う。私は私を信頼してくれている宗助くんを信頼しているから」
アイリスも譲らない。
「イリスはどう思う?」
このままだと話は平行線なので無理やり振って見る。
するとイリスは少しだけ呆れたような雰囲気になる。そして「私ですか?」みたいな目で俺を見る。
「お互いの鍵を交換すれば良いと思います」
何の躊躇いもなくイリスは言う。
確かに緊急事態でアイリスの部屋に入るとか、そういう目的で使用することはあるかもしれない。メリットがない訳ではないがアイリスにとってデメリットが圧勝するのは言うまでもない。
ただイリスに振ったのは俺だしここは素直に諦めるしかないだろう。
「……わかった。そうしよう」
俺も渋々納得する。してないけど……。
「それじゃあ明日持ってくるね」
「兄さんとアイリスさん、夫婦みたいな仲ですね」
何だかイリスが俺たちをくっつけようとしているような気がしてならないが、あのイリスなのだから偶然だろう。
「そ、そうかな、別に普通だとおもうけど……」
「イリス変なことを言うんじゃない」
「はい、兄さん」
イリスが黙るとその場に静寂が訪れ変な雰囲気になってしまったのは言うまでもないだろう。
「アイリス」
「な、何? 宗助くん」
一瞬ビクンとなる。
「もう夕方だし飯買いに行こうと思うんだけど、ついてくか?」
「もちろんだよ。護衛だからね。……そうだ、今日は私が何か作るよ」
「いいのか?」
「うん、それじゃあ買出しに行きましょう」
俺たち三人は近所のスーパーへ買出しに出掛ける。最近は不運なことが多かったが、今日は最高に良い日になりそうだ。