The Assassin from The Past(1)
あれから数日が経つ。あの事件は一応生徒会に報告したが、特に向こうが知っていることもなく、情報は追って連絡するといわれてからまだ連絡はない。事件以降何か変わったことはないが、イリスに何かあっては遅いので外出はなるべく控えている。
それにしても俺たちのことを知っていたのはもちろんだがアイリスのことまで知っておりそれと俺を関連付けてきたことに驚いている。なぜそのことを知っていたのか、この情報はごく一部の人間にしか知らされていない。ましてや俺の心情を読んだかのような発言をしていた。「本命はアイリス」という言葉、俺の中にしかないはずだが、確かにそう言っていたのだ。何らかの能力を使っている可能性があるにしろ、俺自身に作用する能力は全て無効化されるはずだ。それを考慮すると……。色々と頭の中を廻らせ考えるが答えには辿りつかない。
そんな俺の様子を俺の膝の上に座ってテレビを見ているイリスが時々顔色を伺っているのがわかる。
「考えごとですか? 兄さん」
「ヒスイとかいう女のことが気になってな」
「あの状況で見つかっていると考えると、既にここも見つかっていると思われます」
「確かに、そう考えると対策のしようがないな」
「なので考えるのではなく、備えた方が良いかと……」
イリスの言うことは最もだ。俺も一旦この話は置いておこうと思ったときだった。
――――ピンポーン!!
インターホンの音に二人でビクッとなる。警戒し過ぎだろう。
ドアホンのカメラに写っていたのはアイリスだった。慌てて通話を押す。
「あ、宗助くん、ちょっと今いいかな?」
「大丈夫だが、ちょっと待って欲しい」
俺は通話を切った瞬間に服を脱いだ。
「兄さん?」
「イリス着替えろ、アイリスだ」
「了解、兄さん」
イリスはつなぎの猫耳が付いた寝巻きのままで、俺はジャージと完全にくつろいでいるタイミングで俺は慌てるがイリスはシレッとしている。
イリスは一枚脱げばパンツ一丁なのでそこから制服を着だす。いつもなら脱衣所で着替えて来いと言うところだが、今はそんな場合ではない。一大事だ。
俺は速攻で着替えて髪型を整える。
イリスの着替えを少し手伝い、玄関へ走る。
カチャンッとサムターンを回して解錠し、扉を開けた。
「すまん、待たせた」
「だ、大丈夫? 汗かいているよ?」
「大丈夫だ、上がってくれ」
アイリスがちょっと首をかしげながら上がっていく。
イリスは何事もなかったかのようにいつも通りだ。
お茶を出して茶の間のテーブルに置いた。
「これ良かったらどうぞ」
アイリスが気を利かせてお菓子を持ってくる。
「そんなの気にしなくていいのに、それで今日はどうしたんだ?」
「急にごめんね。用事というか、その、何ていうか」
「?」
俺とイリスが首を傾げる。
「最近、同一犯と思われる事件が多発してるでしょ。それでイリスちゃんの護衛役として急遽、私が選任されたみたいなんだよね」
「……は? どういうことだ?」
「私も驚いちゃったよ。前任の人が怪我で入院中だから退院までの期間を任されたんだけど、そういう専門の知識は全然ないから、これからどうしようか相談に来たんだけど」
「前任って月代のことか?」
「そうだったと思う」
どうしようか相談と言っても難しい。そもそも護衛の経験がないのにやれと言われてできるものでもないだろうに……。こういうことは経験者から学ぶに限る。
「よくそんな無茶振りされたのに引き受けたな」
「最初は驚いたけど、せっかくのチャンスだから無駄にしたくなくて……、ああ、今のは忘れて!!」
「チャンス? 何のチャンスなんだ?」
「な、なんでもないよ」
頑なという訳でも雰囲気的になさそうだし、もう一押しするか。
「アイリス」
「な、何?」
「教えてくれないか?」
アイリスをジッと見つめるとそっと目を逸らしたりこっちを見たりしてくる。可愛いな、俺は当初の目的を忘れかける。
「そんなに知りたいの?」
「ああ、アイリスのことをもっと知りたいんだ!!」
「そ、そんなに言うなら仕方ないなぁ。ただみんなと仲良くなれるチャンスかなって思って、ずっと一人で授業を受けていたから友達とかあまりいなくて、それでイリスちゃんのことで一緒にいれるなら、みんなと居れる時間を増えるかなって思って」
そういうことか、ならば俺ももっと積極的に動かなくてはいけないな。
「わかった、じゃあ護衛の件はリアにも話しておこう」
「リアさんに?」
「あいつはああ見えても護衛に関しては得意なんだ。だから相談にのってくれるだろうさ」
そうは言っても狙撃メインなので、遠方からの護衛専門だが……。護衛の基本は押さえているだろうし大丈夫だろう。