After Dating(6)
日が暮れるのもあっと言う間で、時刻は十七時前だか既に日が落ちてきている。
俺たち三人はイリスを中心に仲良く手を繋ぎながら来た道をゆっくりと歩きノースランド美咲まで戻ってきた。
途中で何回か二度見されたが、若いのに大きい子供がいるように見えたのだろうか?
それともリアとイリスが外国人だから珍しかっただけだろうか?
観覧車は既にライトアップされており、近くに来るとその美しさを際立たせる。どうせ空いているだろうと思っていたが、意外にも列ができており少し驚く。
「どこにでもこれくらいの物はあるだろうに……」
「混んでるのには別の理由があるのよ」
リアが大きな胸を張る。リア自身あまり自覚がないが、異性に対してフレンドリーだが異性としての魅力も大きい。非常にギャップの強い存在だ。俺も少なからずそう思っている。あまり自分の魅力に気づいていないのだろう。
「美咲タワー前の公園がライトアップされているようです。そしてこの観覧車からみると地上絵にようになっているようです、兄さん」
「何でイリスが知ってるんだ?」
こんなことには興味なさそうなのに……。
「公園に広告が張ってありましたよ」
「ソウスケ見てなかったの?」
「……あの時はイリスのことで頭がいっぱいだったから、そんなの見るようにねぇよ」
「……兄さん」
前からイリスがギュッと抱きついて来る。
「ソウスケ♪」
リアがふざけて後ろから抱き着いてくる。
「お前ら何やってんだ?」
イリスはともかくリアまで、しかもかなり大きなマシュマロが背中に押しつぶされて形がはっきり分かるくらい押し付けられている。
「何照れてるの?」
「うるさい、さっさと並ぶぞ」
「は~い」
それから五分くらいで観覧車に乗ることができた。よく考えると冬でも営業できるって何気にすごい様な気がする。中は肌寒いもののヒータでも入っているのだろう。外気よりかは暖かい。一周数分程度だろうが、ここまでやっているのも珍しいだろう。
観覧車程度で何はしゃいでいんだかと思ってが、実際に乗って見ると辺りを一望でき悪くはない。
俺の横にイリス、向かいにリアが座っている。最初3人で同じ場所に座ろうとしたのだが、流石にアンバランスなのでリアに移動してもらった。本当はイリスも反対側に座った方が良いのだが手を繋いだまま離さないのでこうなった。
特にイリスは公園のライトアップに釘付けだ。
「ソウスケも楽しそうだね」
「まあそうだな、イリスも嬉しそうだし」
イリスは少しだけこっちを振り向いて「そうですか?」と言わんばかりに首を少しだけ傾げた。
「何か兄妹というよりは親子だよね」
唐突だったが、確かに兄妹とは便宜上の扱いで、実際は養子縁組のような関係だろうとは自分でも思っている。
「歳的にはそうだろうけど、俺に父親は無理だろ性格的に」
「いや、そんなこともないと思うよ。口は悪いけど、ソウスケ根はいい人だからね」
「適当なこと言いやがって、そんな訳ないだろ」
少し口調が強くなる。
「いいえ、兄さんはとても優しい人間です。私を助けたのがその証拠では?」
「そんなつもりねぇよ。偶々だ、その場の気分だよ」
「兄さん、嘘が下手ですね」
イリスが少しだけ寄り添った。適当なこと言って誤魔化せる相手ではないようだ。
「お前ら、今日は俺を苛めたい日なのか?」
「いいじゃん、いいじゃん、それよりもう天辺だよ」
少し風が強くゴンドラが左右に少し揺れる。しかしながら吹雪いてなくて良かった。公園のライトアップがよく見える。
「猫か狸か、よくわからんな」
「あれは猫ちゃんでしょ、何さ狸って」
「あの奥にあるのは雪の結晶ですね」
イリスが指差す先には無数の雪の結晶を象ったイルミネーションだ。木との上に橋渡ししているのだろう。それにしても中々の距離があるがはっきり見える。
「随分凝ってるな」
「数少ない観光スポットだからね」
「詳しいな」
「まあね」
観覧車が一周し地上へ戻ってこようかという時だった。観覧車の軸が軋む音がゴンドラの支持部分を伝わって響く。その瞬間にゆっくりと観覧車が止まる。地面までは三メートル前後、窓から下のほうを覗くと首をかしげた店員が電話ボックスみたいな操作室から出てきたこちらを見上げた。
どうやら店員も状況を理解していないらしい。それから直ぐに観覧車が緊急停止した旨を伝えるアナウンスが流れる。観覧車の中が冷え始めるが、それは異様なスピードで熱が奪われている。ゴンドラの窓ガラスについた水滴が急激に氷の粒へと変化する。
「熱が奪われているのか?」
さっきまでできていた人の列がなくなり建物内へと戻っていく姿が見える。
「脱出できそうか?」
「窓を破りますか、兄さん」
この狭いゴンドラ内でそれをやるとガラスの破片で少なからず怪我することになるだろう。
「それは最終手段だ。このままだと数十分で凍死するぞ」
「本当に寒くなってきたね」
リアは悠長でこの緊迫した状況を理解していない。イリスは既にかなり寒そうで俺にべったりくっ付いている。防寒着として九七式外套のみで後は中に冬用の制服を着ているだけだ。俺もそこまで厚着じゃないのでそんなに長くはもたない。
「こいつでヒンジを飛ばすしかないな」
――――キーン、キーン
二突きで二個のヒンジを弾き飛ばし落下しそうになった扉を掴んで中に引き入れた。
「おお、ナイスキャッチ」
ここで扉を蹴り飛ばして脱出すればさぞ格好がつくだろうが、下に居る人の上に落下しては危ないのでやらなかった。
「さっさと降りるぞ、イリス来い」
「兄さん?」
よくわらず惚けているイリスを抱き上げて、両鞘のワイヤーアンカーをゴンドラに引っ掛けて急降下し無事着地する。
「兄さん、能力を使えば降りられます」
「それは知ってる」
イリスはもう一度首を傾げた。
その後イリスだけズルイといいながらリアが降りて来る。
状況が掴めないがこの場から立ち去るのが正しい判断だろう。何にしろ俺たちが狙われた可能性がもっと有力なのだから……。