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GENERATION☆DESTRUCTION!!  作者: Yuki乃
EP13 After Dating
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After Dating(4)

                ~Iris Side~

 人ごみの中を掻き分けるように進め兄さんの少し後ろを着いて行く私は時々兄さんを見失いながらも進んでいた。

 兄さんはリアさんとの会話に夢中であまり私のことに気にかけている様子はない。当然と言えばそれまでだけど、少しだけ不思議な気持ちになる。

 だけど時々後ろを見ているのでやはり気にかけてはくれているようでした。

 初めての場所で少しだけキョロキョロと余所見をしたのが悪かったのでしょうか。背丈の大きい大柄の男性とぶつかり私は尻餅をついてしまう。ぶつかった男性は優しそうな年配の方で私のことを心配してくれたが「大丈夫です」とそれだけ答えてその場を後にする。それでもその男性は心配そうな顔をしていたが、特に気にしなかった。

 兄さんを見失ったことに気づいたのはそれから間もなくでした。

「……」

 私は何も言えずに人ごみのど真ん中に立っている。立ち止まっていると人にまたぶつかりそうだったので、少し早足で兄さんとリアさんを探すがその姿は見当たらない。

 迷子になってしまったようだ。

 連絡手段を考えたが、携帯電話を持っていないし兄さんやリアさんの電話番号は把握していない。頭の中でグルグルと考えたが連絡手段は見つからない。

 変に移動しても私を見つけにくくなるだけなのでビルの壁際で静かに待つ。

 やがて私の前に一人の少女が立っていることに気づいて身構える。

「一人で何をしているの? 転入生」

 金髪のツインテールの長い前髪で意図的に左目と緋色のマフラーで口元を隠し、真紅の右目は私を見た。身長は私より少し高いくらいで小柄の女子生徒だ。

 私と同じ制服を着ているので月代の生徒だろう。しかし諜報員などどこにでも居る。

「……誰?」

 私は会ったことがない。だが私を知っている口ぶりだ。

 何者かはわからないけど、私を狙っている人間は星の数ほどいるだろうし、その場から一歩も動かないが能力を使用するため構える。

「ユークリッド」

「……」

 私は無意識に少し睨んだのかもしれない。私のデータベースから推測すると七十五パーセントの確立で日本人である。にもかかわらず名前が明らかな偽名であるため信用などできるはずもない。それに目的もわからない。

「警戒心、強いのね。でも良い傾向。……少なくても敵ではない、……なぜなら迷子のあなたに手を貸しに来たのだから」

「何が目的ですか?」

「……目的…、……そう、強いて言うならあなたに会うこと?」

「……」

 私は益々良く分からなくなる。

「こんなところに居てはあなたのマスターは来ない。あなたは美咲タワーに行かなければならない。そうしないと会えないのだから」

 この人は私が何も語らなくてもまるで兄さんとの会話を全て聞いていたかのように目的地を言い当てる。それだけではない。私はマスターのことを「兄さん」としか呼んでいない。にもかかわらず確かに今マスターと言った。

「気になることは着いてから」

 私は頷かなかったが、彼女の後を追うように美咲タワーへと向かった。

 その場から逃げなかったのは、なぜだか私自身もわからないが、逃げられないと脳が勝手に判断したためだろうと推測する。それと彼女の存在に興味を持ってからかもしれない。

 二人は無言のままで数十分、美咲タワー付近まで到着する。タワー前にある噴水の近くにベンチがある。

「待っていて」

 彼女を警戒しているはずだが、敵意を感じないせいだろうか? 私は素直にベンチに座って彼女が戻って来るのを待ってしまう。

「これはあげる」

「何?」

 缶ジュースを買ってきた彼女は私の分も手渡す。缶から伝わる温かさえを感じながら彼女を見つめる。

「ココアだ」

「そうではありません。どういうつもりですか?」

「温かいでしょ?」

「……」

 ベンチに座った二人の間に一瞬の沈黙が訪れるがカコンッとブルタブの音がそれを打ち消す。

「まだ警戒しているようね、あなたのマスターが来るまでまだ時間がかかる。それまで話、……しましょう」

 彼女はココアを一口飲む。

 それに釣られた私もココアのプルタブを引いた。

「あなたの疑問に答えてあげる。私はユークリッド・フォン・シュトラーゼ、あなたと同じ守護科の生徒よ」

 少しだけラフな口調になる。

 ミルクココアを一口飲む。

「あなたは何者ですか? これから起こる事象を知っている口ぶりでした」

「私はあなたと同じ能力者、何ができても不思議ではないでしょ?」

 未来予知できる能力と推測できるが、ユーははっきりとは言わなかった。

「なぜ私たちを知っているのですか?」

「知っている理由はいくつかあるわ。強いてあげるなら学園のデータベースへのアクセス権限を持っているから、……かしら? あなたたちのことは転入の経緯を含めて全て知っているわ」

「……」

「納得したみたいね」

「はい、ですがあなたが私に係わろうとする理由がわかりません」

「それは言っても理解できないかもしれないけど、私とイリス、あなたは似た境遇の存在だから……かな?」

「……境遇ですか?」

「そう、私とあなたの物語の結末が同じだから、……私たちは決して選ばれることのない存在なのだから……」

「……選ばれないですか?」

「そう、例えばあなたのマスターの物語のヒロインはアイリス、あなたは脇役に過ぎない。だからいくら好意を寄せても二人が結ばれることはないわ」

 突飛押しもない発現に少し戸惑う。

「あなたは勘違いしています。私と兄さんの間にあるのは信頼関係でありそういう好意ではありません」

 私は少しだけ早口で訂正する。

「そう、今のあなたはそうね。でも何れそれは好意へと変わるわ。その時にあなたは選ばれない。そして私も同じ運命にあるわ」

「……」

 私の口からは何も言えない。こんな話は聞きたくはなかった。

「そして最後は……、これだけは言わないことにするわ。最後まで希望を持ってもらいたいから……。でも運命は変えられるわ」

「あなたは何でも知っているのですね」

「そう、何でも知っているわ。でも知っているが故に希望を持てないこともある。私に残された時間は少ないわ」

 少しだけ明るい口調にうっすらと発光する紅の瞳は輝きに反して虚ろな、彼女の存在の全てが矛盾に満ちている。

「能力が制御できていないように見えますが……」

「流石ね、そう私の末路は能力の暴走による死、……唐突だけど、運命を変えて誰かが傷ついたり悲しんだりするとわかった時あなたならどうする?」

「……それは兄さんのことですか?」

「そうよ、……あなたの表情を見ればわかるわ。あなたは好きな人のためにならなんでもできるのね」

 私も知らない、知ろうとしない心の内側の覗かれたような気がする。

「私に表情なんてありませんよ」

 これ以外に反論は見たらない。

 そして少しだけむきになっていることに気がついて、私は少し俯く。そう、私は初めて自分の心の動きに気づいてしまった。でもそれはいけないことだと脳にインプットされている。私は自分の感情を拒絶した。

「あるわ。私にはわかる。そんなあなたを見られて良かったわ。あなたと私、境遇こそ同じだけど、意見は違うわね。私はそれでも運命を変えようとしているわ。どれだけの対価を払ったとしてもね……」

 私は思わず自分の顔を手で触る。人とは完全に言えない欠陥品の私に人としての感情などない。私は兵器として生まれて来たのだから……。そしてクローン、私は所詮、オリジナルの複製品に過ぎない。

「……あなたは自分のことを物のように扱っている。それはいけないことだわ」

「思考を読みましたね」

「あなたは決してものではないわ。人間よ。だからもっと人間らしさを出しても誰も叱る人はいない。あなたのマスターも喜ぶでしょうね」

 彼女は私の言葉を無視する。

「いいえ、私は物の域を出ません。兵器として生まれたクローンです。戸籍も人権もありません。それに私の寿命は短命です。体感では後十年は生きられません」

「そうね、正確にはあなたに残された寿命は2281日、でも大丈夫、良いおまじないがあるわ」

「……茶化してるんですか?」

 私は少し不機嫌になる。

「そうかもね」

 そっと立ち上がった彼女は私の目の前で少し前かがみになる。

 迫ってくる彼女に少し体が強張る。

 ……チュッ。

 一瞬何が起きたか分からなくなるが、私から離れていく彼女を前に、おでこをそっと押さえた。

 おでこにキスされた……。

「これはおまじない、あなたのテロメアが伸びるおまじない」

 そんなおまじないなどと言う非科学的なことを信用する私ではないが、私の体が少しだけ熱っぽい。これは風邪とはそういう部類ではない。お風呂に浸かっている時にような心地よさに彼女を二度見した。

「どうしたの、イリス?」

「え……ぁ……」

 よく分からないけど声がお腹から声がでない。

「……そろそろ時間ね。もう直ぐにあなたのマスターが迎えに来るわ。……私は学園の屋上に居る時もあるし、居ない時もある。何かあったら、こっそりおいで、話し相手になるわ」

「……」

「それじゃあね、イリス」

 そして彼女は一度も振り返ることなく人ごみへと消えた。私の心にモヤモヤを残して……。

 私の中に残ったのは一口飲んだミルクココアの味だった。

 ミルクココアの缶が空になる頃、見知った男が私の前に駆け寄って来たが、私は俯いてしまってまともに顔が見られなかった。

 彼女が去って直ぐに兄さんがこちらに向かって来るのが見えた。自分の中で無意識的に不安に感じていたようで、ホッとした瞬間に力が抜けてしばらくベンチから立ち上がることができなかった。

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