After Dating(3)
それから徒歩十五分ほどで美咲タワーが見えてくる。
かなり春休みだけあってかなりの人ごみ、イリスとははぐれないようにしなければなどと思いつつ後ろを見るとイリスが居なかった。
「おいリア、イリス知らないか?」
かなり焦っているが何とか落ち着かせようと自分の中で試みる。
「ソウスケと手を繋いでいたんじゃなかったの?」
「そのはずだったんだが」
「ダメじゃん、早く探しに行かないと―――」
「―――待てリア!!」
俺は来た道を足早に戻ろうとするリアの腕を掴んだ。
「早く見つけないと」
「俺たちまではぐれるのは面倒だ。二人で探そう」
「……そうね」
イリスは携帯を持っていないので連絡手段がないのはもちろんだが、あの身長なのでどこかに突っ立っていてもこの人ごみでは見つけるのは困難だ。
とりあえずさっきのMの付くハンバーガー屋まで戻って見たがイリスの姿を見ることはなかった。それからさらにノースランド美咲まで戻ろうとしたときだった。
「……ねぇ、ソウスケ」
「何だ?」
「そろそろ腕放して欲しいな」
「マジか」
探すのに夢中で俺は全く気づかなかったが、リアは恥ずかしかったのだろうか、頬を少しだけ赤くしながらモジモジしている。
「すまん、気づかなかった」
「別にいいけど」
ついに集合場所まで戻ってきたのだが、イリスの姿は見えない。
「どうしよっか?」
「ここで待っていても来ないだろうし、もしかしたらもう美咲タワーの方に向かっているかもしれないな」
「そうね、じゃあ私たちも向かいましょう」
正直なところ東京でこんなことになっていたら緊急事態であらゆるものを総動員しなければならないような事象だが、ここはではまだ焦るような状態ではない。ただタイムリミットは設けるべきだろう。
「今日の夕暮れまでだな」
「何が?」
リアが首を傾げる。
「イリスが夕暮れまでに見つからなければ学園に相談するしかないだろうな」
「わぉ、オオゴトになる予感がするね」
「全くだ」
自分の危機管理能力の無さに呆れえるが、何を言っても後の祭りだ。人ごみの中にイリスの姿を必死で探しながら目的地まで向かう。
俺に何か有能な能力があればこんなことにはならなかったのだろうが、生憎俺は能力を打ち消せる武器を持っている無能力者だ。
「リアは何か能力持ってないのか?」
「持ってる訳ないじゃん、ソウスケが一番知ってる癖に」
一番知っているかどうかはわからないが、特別何か役立ちそうな能力は持っていないようだ。
「焦ってもしょうがないし、ゆっくり行こうよ」
少し早歩きの俺の腕を今度は逆にリアに掴まれ振り返ると俺の腕に引っ張られて抱き寄せてしまった。
「ちょ、ちょっとソウスケ、……ダイタンだね」
「……不可抗力だ。リアの言いたいことはわかったからゆっくり行こう」
リアは少し俯きながら頷く。そんな姿に俺もリアが目を逸らす。
少しだけ間があったが、気にせず歩きだそうとするが、リアが腕を掴んだまま離さないので、どうしたものかとリアを見ると、目が合いまた逸らす。……なんだこのラブコメはと思いつつも、俺からはもちろん無言だ。
「逸れたら困るからくっついた方が良いよ」
「……俺は慣れないんだが?」
「ダイジョブだよ」
外国人的感性的にはこれくらいのスキンシップは普通なのだろうか?
そうは思うも顔は赤い。まあ俺もだけど……。
「腕を掴むのはやめてくれ」
まるで犯人を捕まえるかのごとく握っているので、痴漢でもしたかのようで嫌だ。
「じゃあこう」
リアがギュッと俺と手を握り俺の隣に静かに納まる。
「いやいや、どう考えてもおかしいだろ」
「でもはぐれたら困るでしょ?」
俺はこの状況を見られるのが嫌だとは言えなかったのでしかたなくこの形で納まる。リアは少し嬉しそうだ。
「何だかホントウにデートみたいだね」
「全くだ。変な噂にならないと良いが」
「変なって失礼だよ、……ソウスケは嬉しくないの?」
「だって恥ずかしいだろ」
それ以外にも色々あるが、言わないでおこう。
「でもデートだからいいでしょ?」
「デートとは言ったが、形式だけの話だろ?」
リアがほっぺを膨らませた。
「ソウスケの意地悪」
でも手は離さない。
「わかったから大人しくしてくれ」
周りから視線を感じたので、痴話喧嘩か何かと勘違いされたのだろう。あながち勘違いでもないが……。
リアもそれに気づいたのか少し大人しくなり、それでも手は繋いだままで無言のまま目的地まで歩き始める。