After Dating(2)
「一つ気になったことがあるんだけど」
リアが唐突に聞いてくる。
「なんだ?」
「イリスちゃん、前会った時より懐いてるよね?」
こいつかなり鋭いというか……、俺が鈍いだけのかもしれないがちょっとした変化に気づくようだ。
「なぜ、そう思った?」
「だって今日来た時、手繋いでたでしょ?」
「ん? ああ、そうだな。人ごみだと逸れたら困るだろ?」
イリスは身長が低いので見失うとまず見つからないだろう。ただここで一つ言っていないことは俺から手を繋いだわけではないということだ。これはイリスからの提案だったのだ。俺はそういうことにあまり気づかない性質だから仕方がない。
「でもイリスちゃん嬉しそうだったよ?」
「そうか? 俺は無表情にしか見えなかったが……」
「迷子になると迷惑がかかるので手を繋いだだけで他意はないですよ、リアさん」
自分のことを横で話されてむず痒くなったのだろうか?
ずっと無言でハンバーガーを食べていたイリスが突然会話に割って入る。
「そう? 別に恥ずかしがるようなことじゃないでしょ?」
「別に恥ずかしがってなんかいません」
イリスの口調が少し強くなる。ちょっとだけ向きになっているのかもしれない。
そんな姿が少し微笑ましい。
「それに宗助も嬉しそうだったよね」
「……俺もか?」
ついに俺にまで飛び火したがイリスから何か言ってくれるようになった事に対して嬉しかったのもまた事実だ。
「嬉しくないと言えば嘘になるな」
「意外だね、否定すると思ってた」
「そんなことで嘘ついてもしょうがないだろ」
「兄さんはどうして嬉しいのですか?」
イリスが俺の顔を覗き込むように見ながら言う。
『どうして』と来たか。
「さあ、どうしてだろうな?」
俺は適当にはぐらかしたが、イリスが人間として日々成長している姿に喜びを感じたのかもしれない。
イリスは少し不満そうだったが、追求して来ることはなかった。
「そういや、ニルが金無いって嘆いていたなあ」
「どうせ車に使ったんでしょ?」
「タイヤに金が吸い込まれたらしい。あいつ夏タイヤしか持ってなかったんだってな」
「タイヤってそんなにするの?」
「話を聞くに俺らが今月貰った支給額の倍はしたらしいな、まだ2週間はあるってのに」
「ニルは経済観念とかなさそうだしね」
車が随分と金のかかる趣味なようで、普段乗せてもらっている分何かペイバックした方が良いのだろうか?
特に何と言ってはないが、話し込んでいる内に十三時を過ぎようかという所だ。
昼食を終え向かうのは平凡な人ごみには似合わない物騒な店だ。
ハンバーガー屋を出て直ぐのビルの地下にそれはある。かなり奥まった場所にひっそりと佇んでいるため探すのに少しだけ苦労した。
店構えは武器ではなくモデルガンや防弾チョッキの模造品などを取り扱っているサバゲーショップとかプラモデル屋とか表向きはそういう店のようだ。店の名前も『モデルショップ タケウチ』だし……、鍛冶やとは裏向きのようだ。おそらく副業なのだろうが、どちらが副業かはわからない。
「長月さんの紹介で来た小宇坂という者なのですが?」
「ああ、聞いているよ。詳しい話は中でしょうか?」
中年くらいで優しい雰囲気の店員に連れられカウンターの奥の部屋へ移動する。
適当なパイプ椅子に腰掛ける。中は簡易的な冶具がある程度なのでここで作っている訳ではなさそうだ。工房はまた別の場所にあるのだろう。当たり前だが鍛造にはかなり大掛かりな炉が必要になるため、こんなオフィス街のど真ん中では適さないだろう。
「見た目はこんな店だが、私は刀鍛冶をやっている者でね、長月くんとは十年以上の付き合いになる。今日は刀の新調できたのかな?」
「いいえ、ソード自体はほぼ新品だが、予備を作っておこうかと」
「少し見せてもらってもいいかな」
「どうぞ」
俺はライトソードをベベルトから外して手渡す。受け取ったソードの鞘から十センチほど抜いた後に元に戻した。
「なるほどとても良いできだ」
「左右一本ずつ、予備を作りたいのだが可能だろうか?」
「可能だとも、ただ作業の都合上二日ほど剣を借りることになることと、製作には最低でも半月かかりそうなのだが、それでも構わないかい?」
「構わない」
製作自体には一週間もかからないそうだが、今月は既に複数に依頼が入っているらしく順番待ちになるようだ。
目立って何か差し迫る案件もないだろうし2日くらいはどうということはないだろう。
問題は製作費用の方だろう。もう既に気になっているだろうが値段の方は一本当たり十万程度、二本で二十万しないくらいはかかるが背に腹は変えられない。ニルのタイヤも結構な値段がするが、俺の武器も大概だ。
それでも刀にしては破格の値段と言えよう。ものにも寄るが百万を超えるものを多くある。
イリス件で資金はあると言ってもどうにかできないものか……。後で学園からの補助がでないか調べるとしよう。
俺はレフトソードを預けて店を出た。