First Session(11)
アイリスは日本刀を、三年武田はソードを装備している。
「よろしくお願いします」
真剣な表情へと変わったアイリスが礼儀正しくお辞儀する。
「一年か、まあ、せいぜい楽しませてくれや」
舐めた顔したあの武田とか言う奴を今すぐにでも叩きのめしたくなるがここは堪える。挨拶一つまともできない奴が次席とは……。それに年下相手だからと高をくくっている。
「両者準備はよろしいですね」
「はい」
「ああ」
武田はソードを手前に軽く構え、アイリスは抜刀体勢で静止する。あの体勢どこかで身を覚えがあるな。
「――――始め!!」
武田が前進し間合いを詰めるが、この時点で俺もイリスも勝敗が見える。イリスの予測は的確だった。
「月神流、――――隼!!」
――――ギィィィ―――ン!!!
銃弾と銃弾がぶつかったようなもの凄く甲高い金属音がした後に武田が持っていたソードの先端が吹き飛び宙を舞う。
……いや、浅い。イリスも少しだけ眉をひそめる。
武田は少し慌ててバックステップで距離をとり体勢を立て直す。
「月神流、――――鷹!!」
一歩踏み込み、今度は逆にアイリスが間合いを詰め振り上げた一撃はソードで防がれるが相手はさらにバックしたため両足が宙に浮く一瞬を見逃さなかった。
「月神流、――――鵆!!」
相手のソードは下からの攻撃を防いだ影響で顔をよりも上に上がっており、アイリスはかなり低い姿勢からの突きで腹を突こうかという瞬間だった。
「――――念導力(Psychokinesis)!!」
武田の高く振りあがったソードが高速で振り下ろされる。
――――ギィィ――ン!!!
アイリスの刀が振り下ろされたソードの力で地面にめり込む。かなりに力がかかっていたようだ。
「よくも俺に能力を使わせたな!!」
切れ気味の武田はそのままアイリスに切りかかる。アイリスの刀の刃は体育館の床にめり込んでおり抜ける気配はない。
「――――刀を捨てろ!!」
俺の叫びにアイリスはバックステップでソードの先端ギリギリを制服に掠める。
しかしそれも束の間、武田はさらに一歩踏み込み切りかかる。反射的に下がるしかないアイリスは一瞬の内にフィールドの外に追いやられる。
剣術以外に特殊な体術を見つけていなければ勝ち目はないだろう。だがまだ諦めるには早いぞ、アイリス。
焦った表情のアイリス、その刹那の時間で冷静に戻り、大きく目を見開いた。
「月神流、――――雀!!」
鞘を両手の水平持ちでソードを防ごうとすることは無謀だが、しかしそれだけじゃない。
鞘を支えていた左手を瞬時に離し、左側に傾いた鞘を滑る武田のソード、アイリスは上から押し潰される力を右側に移動する力に変換し体一個分右に動いた瞬間に低い姿勢で前転移動する。武田はそれに追従できず、今度はソードが床に突き刺さる。さらに前転で武田の右横をすり抜け刀までダッシュし床に突き刺さっている刀のグリップを思いっきり蹴り上げた。体育館の床をバキバキに割った刀は床に対して垂直に持ち上がる。まるで聖剣にように佇むその刀を軽々と引き抜き、鞘に戻した。
一方、武田は念道力で力一杯突き刺したソードを引き抜くのに時間がかかっており、アイリスが刀を奪取するのを阻止するところまで手が回らない。
アイリスが刀を取り戻したところで両者は場所を入れ替えて再び対峙する。
「一年生の癖に中々やるじゃないか、だが次は手加減しないぜ」
「次は当てます」
見苦しい武田の言い訳を耳に入れず、刀に全神経を注ぐ。
アイリスの中で最初に一撃は外したことになっているようだ。確かに狙い通りではなかったかもしれないが……。
最初の型をやるつもりなのだろう。最初と同じ構えで瞳を閉じて動きを止めた。
「舐めやがって、俺に同じ手が二度と通用するかよ!!」
「念導力(Psychokinesis)」
武田は跳躍と共に重力が半減したかのように浮き上がる。まるで月の上にでも居るかのように三メートル近く飛び上がり、今度は重力が数倍にでもましたかのような勢いでソードを振り下ろす。弾道予測するレベル、……つまり亜音速でソードが振り下ろされる。
「月神流、――――隼!!」
見開いた瞳は確実に目標を捕らえていた。
―――――――ギィィィィ――ン!!!!!
金属同士とは思えない轟音が体育館に響きわたり、根元から切断されたソードの刃は空中で高速回転し、体育館の床に突き刺さった。
「――――そこまで!!」
「勝者、一年守護科、アイリス・アンジェ・アトランティカ」
「勝ったの? ……やったー、やったー♪」
アイリスが大喜びでその場でぴょんぴょんウサギみたいに跳ねた。
一方武田は顔を真っ青にして退場する。様見ろと心の中で思ったが、絶対顔に出てるな、これは……。
イリスが「私の言った通りです」と言わんばかりの雰囲気を漂わせている。もちろん無表情なのだが……。いや、お前もアイリスがやらかした時、顔で出てたぞ。
試合が終わった後もアイリスの喜びは止まらず、嬉しそうに俺たちのほうへと駆け寄ってくる。
「宗助くん、やったー、勝ったよ!!」
「よくやったなアイリス」
「そうでしょ、そうでしょ、もっと褒めて♪」
俺は既に正気ではないのでイリスを褒めるようにアイリスの髪をそっと撫でる。
「ちょっとくすぐったいけど、いい気持ち」
ちょっと熱っぽく顔を赤くしたアイリスは気持ち良さそうに目を細めた。
それからしばらくして、回りの視線が気になり始めたので、つま先立ちしていたアイリスをそっと下ろす。
「ちょっと恥ずかしかったね」
「ああ、だが上級生しかも次席相手に勝てたのは凄いことだしな」
あれだけはしゃいだのには理由はあって一対一での初試合で初勝利だったようだ。
それから試合は進み、俺の番がやってくるが同じ一年相手に開始十秒で完勝してしまったので試合内容は割愛したい。
「次、小宇坂イリス対リリス・シュヴァルツバルト。第三フィールド」
そのコールに俺とアイリスは少し驚いてお互いに見合わせた。
「奇跡的だな、こりゃ」
「頑張ってね。イリスちゃん」
「……了解です。アイリスさん」
イリスは表情には見えないが気合十分で第三フィールドへ向かった。