Remember(10)
それから二年後、俺は高校生となった。
二年前のあの日の彼女がくれた予言という力は確実に存在しているのだろうということを理解する。
なぜか、それは俺が入学した学園で能力者に出会ったからだ。
LEGEND月宮高等学園、それが俺の入学した高校だ。
しかし、普通の学園とは到底言えない。
この学園は超能力者を育成するために作られた組織でありLEGENDという民間軍事会社(PMC)が設立した学園である。
おかしなおことを言っていると思わるかもしれないが、それが事実だったのだ。
能力者とそう言われている人たちはこの世界に存在している。
彼らは念力やテレパシーなどの様々な力を自在に操る。ステレオタイプな想像をしてもらっても構わない。だが、ステレオタイプな能力者像の中で唯一ことなることが一つある。
それはこの世界の摂理、法則を捻じ曲げるような異端の存在ではないということである。あるいは科学的に解明された人間の新たな力というべきだろうか。
その存在を意味嫌い恐怖するものやその力を悪用しようと企むもの、様々な捉え方をする人たちで溢れ返っている。
ただし、能力者とは進化した人類ではあるが、それは古い人類にとっては脅威であり、その存在は国家によって情報統制されており、一般人がそれを知ることは極まれなことだ。
国家は能力者に由来する世界の不安定を回避すべく保安庁と呼ばれる組織を立ち上げた。
その目的は至って単純だ。能力を使用するもの管理統制することだ。保安庁は自らの組織の戦力として能力者を利用している。国家に従う能力者は良い能力者、従わない能力者は悪い能力者として裁く、そういう組織なのだ。
この話を聞くとかつて大日本帝国にあった秘密警察を思い出す人もいるかもしれないが、その直感は正しい。
なぜなら、保安庁は秘密警察の後継となる組織なのだから、そして保安庁は今も能力者を能力者によって駆逐している。
だが、そうすると対抗する勢力が現れるのは当然の摂理だろう。
この学園はそんな力を正しく行使し、その者たちを保護することを目的とした、ある意味では箱庭のような側面も持っているのだ。
そう、LEGENDは能力者の自由と安全を保障するために作られた組織なのだ。
この学園は五年制の高等教育機関に分類され、軍事部、警護部、守護部の三学部に別れている。
軍事部には強襲科、狙撃科、研究科、工学科、情報科、通信科、救護科、国際科の八学科があり、警護部は警護科、警察科、警備科、検察科の四学科ある。
最後の一つ、守護部は各学科の入学希望者の中から優秀な生徒の集めた学部である。
つまりエリート中のエリートのことで、一人で一個大隊クラスの任務をこなすことが出来る者もいる。
また、守護科はその特殊さ故に入学した時から学費を免除どころか給料が支給される場合もあるそうだ。
更にその上には専攻科という制度が存在し、守護専攻、戦略戦術専攻、兵器研究専攻の三専攻に分かれる。
そして二年専攻することで大学卒業の資格を取ることができる。
更にこの学園が特徴的なのは圧倒的な敷地面積というべきだろうか。
全てのことが学園の中で完結できると言っても良いほどに充実しているのだ。
学園の面積は東京ドーム二百個分に相当しており、大体九十万平方メートルくらいある。
正確には学園がそこにあるというよりは軍港に学園があるというのが正しい言い方である。民間軍事会社(PMC)であるLEGENDが保有する陸海空軍施設であるLEGEND横浜司令部の敷地内に学園があるということだ。
敷地内には学園の他に中等部と士官学校、ショッピングモール、コンビニ、フードコート、運動場、公園、学生寮や社宅、他にも様々な設備は統合されている。
そのため、あらゆることが敷地内で完結できるようになっているのだ。
俺が受験したのは軍事部国際科だ。
ここが一番受かり易かったからというのが理由だ。
国際科は、文字通り世界中のあらゆる国で活動できるように、言語的にも海外の習慣などを習う。
海外での諜報活動などの時に、怪しまれず現地住民のように行動できるようにするためだ。
そのため英語を基本として、他の国の言語を喋れる者が優遇される。
また、他国間での共同作戦時に、言語による障害が起きないように通訳を行うのも仕事の一つで、主に英語と日本語の双方向の通訳が求められる。
俺は一般入試ではなく、推薦入試を受けて見事合格した。
合格出来た要因としては俺が日本語とフランス語を喋ることができ、英語も得意ではないが日常会話程度は出来たことと、もう一つは日本に飛び立つ前に『静かに戦慄を奏でる者』から貰った双剣のおかげだ。
入試には現在使用している武器を持ち込んでも良いと書かれていたので、見栄を張るためにベルトに付けて行ったのだが、これが案外好評だったのだ。
一見古めかしく見えるが、刃がかなり鋭利でエッジが純銀製らしく、とにかく高価なものであったようだ。それに歴史的価値も高いらしい。
結局、詳細は分からなかったが、どうやらこの双剣には何か秘められた能力があることだけは分かった。
それに加えて筆記試験がなかったことも幸いしている。
学力は低い方ではなかったのだが、ないに越したことはなかったというべきだろう。
よって推薦入試を難なく突破した。
こうして俺はこの学園に入学できたのだ。