First Session(5)
リリスは俺たちの返事も聞かずに堂々と座り足を組んだ。
「俺はまだ良いとは言ってないんだが?」
「別にいいじゃない。よく考えればあなたの許可は要らないわ」
「許可を求めたのはお前だろ」
リリスが俺のことを睨んだので俺も睨み返す。
「ちょっと、ちょっと、喧嘩しないで、リリスさんも宗助くんも落ち着いて」
一触即発の雰囲気にアイリスが割って入る。イリスは無表情のままではあるものの瞬発的に動けるような体制を密かに取っているように見える。
「……それで、何の用だ?」
「随分な扱いね。偶々見つけたから様子を見にきただけよ」
俺は基本的に生意気な女が気に入らない。
「お前に気遣われなくても問題なくやれている。それより小さいのに高飛車な態度は直した方がいい。生意気なガキだと思われるぞ」
「あんたも大概じゃない。人のこと言えないでしょ。それと小さいは余計よ。……というか、私以外もみんな変わらないじゃない」
確かにイリスは小学生くらいだし、アイリスもリリスとそんな大差ない。
「そんなことよりあんたたちも演習に参加するらしいじゃない」
「そういうことになってる」
「だったら勝負しましょう。あなたと私、どっちが強いか」
「俺は別に構わないがどういうルールでやるんだ?」
「そうね……」
リリスは少し考える。
この演習は、他の学科の生徒同士がランダムで選ばれ、一対一で戦闘を行う。
一人の生徒に対し、複数回行われる.
単純に勝利数で数えてもいいが、相手によりバラつきがあるだろし、直接対決はくじ引きの運がなければあたらないだろう。演習は俺が予想しているよりも大規模で、一人当たりの戦闘数が少なそうだし……。
「じゃあ、実技の学科順位を基準にして、より弱い相手に負けた方の負けってことでどうかしら?」
「ということはお互いに全勝なら引き分けってことか」
「そうなるわね」
「じゃあ、引き分けはほぼ確実だな」
「随分な自信ね。あなたの能力は無能力者には効果がないし、模擬戦では役に立たなそうなのに」
「確かに俺の能力は実戦でしか基本的に使いものにならないが、実戦経験が多い以上、負けはしないだろうさ。そういう意味では小宇坂も負けなしはほぼ確定だろう」
「そんなに実戦経験があるように見える?」
「そりゃあわかるだろ」
些細なことからでもわかることだ。例えば歩き方一つにしても一般人とは異なる。無意識的にスニーキングを意識した動きになったり、視線の動かし方や武器の構えなどからも内輪でチャンバラしている人とは異なるのだ。
「鋭いわね」
「普通だろ」
「参加するのは三人ともなのかしら?」
「いや、俺とアイリスだけだ」
「いいえ、私も参加します。兄さん」
さっきまで黙っていたイリスが唐突に言う。
「何言ってんだ。何かあったらどうするんだ?」
「私は戦えます。兄さん」
「いいんじゃないかな。宗助くんが心配する気持ちも分かるけど、イリスちゃんも実戦を経験している訳だし、それにイリスちゃんまだ何か言いたげだよ」
イリスはそっと立ち上がりリリスを指した。
「リリス・シュヴァルツバルト、あなたの兄さんへの暴言は私が許しません。次に会う時は確実に排除します」
テーブル越しにイリスVSリリスの構図が出来上がる。アイリスが「わぁ」と可愛く驚いているが、それ以上に俺が驚いている。
あのイリスがそんなことを言うとは誰も思うまい。
「良い度胸ね……わかったわ。じゃあ、午後の授業で会いましょう。その時は私も本気で行くから!!」
リリスは購買で買ったサンドイッチを急いで食べると「覚えておきなさい!!」とビシッと俺たちを指して足早に去って行った。
嵐が過ぎ去るとイリスは椅子に座り直して体格に見合わない大きなどんぶりでご飯を頬張った。
それからしばらくして教室に戻り、少し早めに射撃演習場へと向かったのだった。