First Session(4)
「ねぇねぇ、宗助くん、お昼はどうするの?」
「ここって学食あるよな?」
「うん、校舎とは別の建物だけどね」
「そうなのか?」
「はい、兄さん。校門を出て直ぐ右側にある二階建てレンガ造りの建物が購買兼食堂になってます」
「イリスちゃん詳しいんだね」
「というか、何で知ってんだ?」
「パンフレットに載っていただけですが……。兄さん」
イリスがなぜか首を傾げた。
どうやら生徒会室で配られた資料の中に読み飛ばしたが学園の見取り図が添付されていたようで、それを見ていただけらしい。
「俺とイリスは何も持ってきてないから学食かな」
「私も基本学食だから一緒に行こう」
「ああ、そうだな」
学食まで数分を要する所からわかる通り以外と学内は広い。学食では少し出遅れたせいだろうか。既に食券販売機には列が出来ており、三十人くらい並んでいる。
遠目で確認できる限りAからC定食、カレーやそば、うどんなど定番メニューが並んでいるが、明らかに他の学食よりもメニューが充実しているのがわかる。その中でも目を引いたのはロコモコである。
「随分変わったメニューもあるんだな」
「そうだね。私はここしか知らないから何とも言えないけど、トッピングが充実してるとは思うわ」
確かに三十円~七十円くらいの間でサラダやから揚げ、フライドポテトなど様々なものがトッピング可能なようだ。それに加えて価格帯も定食三百円、カレー・そば・うどん二百円などかなり安いと感じる。あまり学食に行かなかったので記憶は曖昧だがLEGEND月宮高等学園ではこれより高かったような気がする。
「アイリスは何にするんだ?」
「私? 私はそうね。今日はC定食かな。カロリー低いし健康にも良さそうだしね」
ちなみに本日のC定食はささみ定食である。メインディッシュの他に小鉢でサラダと冷奴がついてくるようだ。
「イリスはどうする?」
「兄さんと同じでいいです」
またそれか、イリスは自分というものがあまりないので、何か決めるときは大抵俺の意見をそのまま取り入れる。それはイリスという人格を形成する過程で害を及ぼすかもしれないと俺は危惧している。
「イリス、自分のことくらい自分で選んでくれないか?」
「……兄さん、私は体裁上このような形になっていますが、実際は兄さんの私物ですので、意思はありません」
イリスのいつものが始まると長いし中々折れない。それにここでこの話を発展させるのは避けたいところだ。
「私物ではない。立派な一人の人間だろ、俺はそう認識している。だからイリスもその間違った認識を改めろ」
「命令ですか? 兄さん」
「ああ、命令だ。自分の好きなものを選べ」
「……了解です。兄さん」
少しの間で表情からはわからないが渋々了承という態度を取ったのだろう。俺はそう感じた。
五分くらいで捌けようやく食券販売機まで辿り着く。
俺は迷わずロコモコを選んだ。人目見たときからこいつに決めていた。俺の好きなものが詰まっているのだが、中々出している店はない。
イリスは食券販売機の前で一分くらいフリーズした後でA定食を選択した。ちなみに本日のA定食はすき焼き丼である。
学食はかなり混雑しており、席を二周くらいしてようやく三人が座れる場所を見つけた。そこは四人掛けの円形のテーブルでイリスはアイリスと隣にならないようにそっと俺の後ろに回り込もうとしていたので「ここに座りなよ」と軽く声をかける少しだけ俺の顔を見た後で素直に従った。
「終業式なのに授業がフルで入ってるとは」
「前居た所は違ったの?」
「ああ、少なくとも午後から演習が入っていることはなかったな」
「そうなんだ。午後からの演習は長期休みに入ると腕が鈍る人が多かったから、鍛えなおす意味があるみたいだよ。……とは言っても守護科は任意だから本当は参加しなくてもいいんだけどね」
守護科はかなりフリーであるような話は聞いていたが、演習すら任意とは驚きだ。
「そうなのか、じゃあアイスはどうして参加することにしたんだ?」
「勿論、自分の腕を磨くためだよ。ただでさえ付け焼刃みたいな剣術だから、少しでも鍛錬がしたくて……」
なるほど、しかし気になったのは剣術という所だ。
「アイリスは剣を使うのか?」
「そうだよ。でも自分で選んだ訳ではないんだけどね」
「なら俺と同系統って訳か」
「そうでもないんじゃないかな? 宗助くんの剣術は西洋刀で二刀流、私の剣術は日本刀だから戦い方は全然違うんじゃないかな?」
「日本刀なのか、流派とかはあるのか?」
「私? 私は月神流だよ。宗助くんは何かの流派に所属しているの?」
「俺はちょっと複雑で、大体は夏川道場で学んだんだけど、朱雀流と鳳凰流も中途半端ではあるが基礎は一通り習得しているんだ」
俺は普段夏川流と呼んでいるが厳密にはそのような流派はないのでここでは正確に答える。俺は剣術の基本を夏川道場で学び、一刀時の型を朱雀流で習得、二刀流の時の型を鳳凰流で習得したため、現状のような状態となっている。だからどこの流派かと聞かれれば我流となってしまうのであろう。何かを極めている訳ではないので……。
「宗助くんは一刀の時と二刀の時で流派を別けているんだぁ、凄いね。それに朱雀流ということはもしかしたら戦闘スタイルが似てるかもね」
「月神流と朱雀流に何か関係があるのか?」
「月神流は朱雀流を源流とする派生流派です。兄さん」
突如、横からイリスが解説を入れる。表情はわからないが何となく「そんなことも知らないんですか?」みたいは雰囲気を出している。
「何でイリスがそんなこと知ってるんだ?」
「……?」
イリスは「常識では?」と言いたげな雰囲気で首を傾げた。
「よく知ってるね。イリスちゃんは物知りなんだね」
アイリスが頭を撫でるとイリスは大人しく撫でられていた。てっきり敵対するかと思っていたが少しずつ馴染んでいるようだ。イリスをアイリスの横に座らせたのは正しかったようだ。
少しだけ和やかな雰囲気になりかけた時だった。
「ちょっとそこの席、座ってもいいかしら?」
人ごみの中押しつぶされそうになりながらやって来たのは俺たちを駅から学園まで案内してくれたリリス・シュヴァルツバルトだった。