First Session(3)
それから終業式のために俺たちは教室から体育館に移動した
体育館では守護科の列はないため教員と同じ後の方にいることとなった。
校長の長い話や国歌斉唱、理事長の挨拶を終え、委員会の連絡事項に移る。
その中でも風紀委員会からの連絡が異様な光景だったのだ。一瞬でヤバイ奴だと直感的に判断する。
「風紀委員長の風間だ。まず、学期の区切りごとに毎回言っていることだが、全校生徒は常に端末を持ち歩き、外出の際は警戒情報を常に確認し危険な場所は出歩かないこと。特に一般生徒が事件に巻き込まれた場合対処ができないので、遵守するように。それ以外の生徒は自己の判断に任せる。ただし何があっても自己責任だ」
まだ俺たちは受け取っていない端末だが、この端末には警戒情報なるものを受信できるようだ。アイリスの話だとこの都市は能力者が多く暮らしていることや保安局と対立するLEGENDが都市運営をしている関係上、色々と問題は起こるのだ。しかもそれは一般に起こる事件とは異なる。
そのため事前にその情報を把握することが重要になるため、端末の携帯が義務付けられている。
ちなみにLEGENDとはどこかで聞いたことがあるかもしれないが、月代および月宮学園を運営している民間軍事会社のことである。都市運営をしていると言っても美咲市の防衛を任されているのであって市議会などは普通に民主主義に基づいて選挙によって選ばれている。保安局とLEGENDが対立している理由は色々とあるようだが、一番の要因として、保安局は治安維持上の障害となる能力者を排除するが、LEGENDは能力者の保護を目的に動いているためだ。
「明日から春休みに入るが、くれぐれも羽目を外し過ぎないように、風紀委員会は今年度も定期巡視を行なう予定だ。注意を受けないような行動を心がけろ。以上だ」
三年もいる中で最後までタメ口の命令口調で言うことだけ言って壇上から颯爽と降りて行った。
「風紀委員長は随分怖がられているようだな」
「それもそうだよ。月代学園の二年警護科の主席で、一年生のときに全学年合同の模擬戦で上級生に負けなしだったらしいしね」
「なるほど、それで上級生にも恐れられている訳か」
それならばさっきの光景にも納得がいく。
それにしてもそんなの強いのだろうか、模擬戦負けなしと言っても総当りではないだろうし、偶々弱い奴と運良く当たれば中間くらいの戦績の一年生なら底辺の三年生相手に勝つことはできるだろう。
「イリスは風間を見て何かわかるか?」
「私の推測ですが、彼は無能力者でしょう。武器は近距離だと思われるため、兄さんと同じタイプの人間かと」
「なぜ無能力者だと思った?」
「私には干渉強度が低いですが零粒子(Hi-Particle)を感じる能力があります。兄さんのような零粒子(Hi-Particle)を遮断できる能力を持っているのならば話は別になります。それと近距離タイプであると判断したのは統計的なデータです」
「なるほど、確かに無能力者で模擬戦が強いなら遠距離メインはまずないだろうしな」
そうなれば近距離または中距離だが、模擬戦の形式にも寄るが基本的には体育館の半分くらいの場所で戦うことになることを考えると近距離メインであろう。
「二人とも普段から高度は会話しているの?」
俺たちの会話を聞いていたアイリスが質問する。
「いや、そんなこともないが、イリスの分析能力はかなり優秀だからな」
俺はイリスの頭にポンと手を置くと、イリスは少し俯いてしまった。褒められたのが恥かしかったのだろうか?
そんな話をしている内に朝会が終わる。
教室に戻って直ぐに授業が始まる。カリキュラムがアイリスに合わせたものになっているため、守護科らしからぬ授業となり少し拍子抜けする。
本日の一発目の授業は国語だった。
俺の前まで居たLEGEND月宮高等学園では一から二年生までで一般の高校で教える一般科目の範囲を網羅できるようなハイペースな授業を行なっていた。そのためこれから受ける一般科目の授業は全て復習になりそうだ。
勘違いしないでほしいのは守護科だけアイリスの進捗状況に合わせた授業をしているためであって、LEGEND月代高等学園でも守護科以外は同じペースのカリキュラムで行なわれている。
生徒が三人しかいないため、教師もやる気がでないのだろう。授業を前半と後半に二分割して前半で淡々と教科書の内容を説明して後半は自習というスタイルだ。無論、後半の授業は教師がいない。
さっさと帰ってしまった教師を横目に扉を閉まるのを確認する。
「……アイリス、いつもこんな感じの授業なのか?」
「そうだよ、私のためだけの授業だったからね。先生も一人相手に授業じゃ大変そうだし仕方ないよ」
「それにしても気の抜けた教師だな」
喋りに覇気がなかったしやる気を感じなかった。渋々やってるような雰囲気だ。
「まあまあ、そんなこと言わないで、別にテストがある訳じゃないから、特に困ることもないよ」
「なるほど、それなら問題はなさそうだな」
「しかし、給料を貰って雇われている以上、真面目に働くべきですね」
授業が始まる前に保健室から貰ってきた座布団三枚の上に座っているイリスが無表情で言う。
「確かに正論だ」
「……あはは」
アイリスは少し苦笑いした。
それから数学、科学、歴史と来て昼休みとなる。
それらの教師も国語の教師ほどではないにしろ、やる気がないのは明らかだった。