First Session(2)
守護科の教室は一から五年まで一つにまとめられているのだが、俺たち三人以外に姿はなく、七席×五列で並べられた机が余計に教室の物足りなさを加速させた。
それに異様なまでの静寂が少し寂しい。それに加えて空き教室として長らく使われていなかったのだろう。壁や天井は経年劣化しており補修はされていない。
アイリスは窓側で前から五番目の自分の席に座る。
「席は特に決まってないから好きなところに座っていいよ」
「適当だな」
「守護科の実質的な生徒は私だけだからね」
ちなみにアイリスの席も自由に選んだだけで、誰かの席でもない。
「私は外を眺めるのが好きだからここを選んだんだよ」
「そうか、じゃあ俺はここで。イリスはどうする?」
俺はアイリスの横の席に座る。そしてイリスが俺の膝に座ろうとする。
「イリス、何してるんだ?」
「私の席は兄さんと同じでいいです」
しれっとした顔で座ろうとする。
「そういえば、イリスちゃん。『マスター』じゃなくて『兄さん』って呼ぶことにしたんだね」
「アイリス、その話は後だ。イリス、席はたくさんある。俺は俺とアイリスが座っている席以外で好きな席を選べと言ったんだ」
「しかし、生徒会室では膝の上に座っても良いと言っていました」
「それは短時間だったからだ。俺はイリスを膝に座らせたままで授業を受けるのは無理だ」
「ダメですか? 兄さん」
「ダメだ」
「……」
何とか聞き分けたようで、俺の隣の席にしぶしぶ座る。
イリスが席に座ることで気づいたが、身長が全然足りておらず、座ると机に上から首くらいまでが出る高さで机に教科書を置いても見れない。それもそうだろう。イリスの身長は百三十センチないくらい、大体小学校の低中学年の身長だからだ。
「それでどうして昨日の今日で呼び方を変えることにしたの?」
どうしても気になって仕方が無いようだ。
「一つ確認だが、なぜ俺たちがここに転校してきたのか。詳しい話を聞いているか?」
「理事長と九条先輩からある程度は聞いているよ。でもそれはあくまでも転校の理由だけで、人工少女とか保安庁の詳しいことは知らないわ」
「なるほど、それなら問題ないな」
俺は今までの経緯を追って話す。
「そういうことだったんだね」
「ああ、だが最後にもう一度確認しておくが、この話は他言無用だ」
今までの経緯を話す上で話した注意事項を念押すように言う。
「そんなこと、わかってるよ。私が大事なこと言いふらしたりするように見える?」
そう微笑しながら言った。