Northern Land(7)
朝起きると体少し重い、何かデジャブを感じるが、イリスが俺の上に抱き着いて寝ているからだ。目覚ましより今日も早く起きてしまう。
そしてイリスは六時半のアラームと同時に目を覚ました……が、そのまま目を瞑ってしまった。昨日は一時くらいまで荷物の片づけなり色々していて寝るのが遅くなってしまったから無理もない。しかし問題なのはそこではないのだ。
「……ん、んっん」
イリスを避けてベッドに寝かせようとしても俺の腕を掴んで離さないことにある。
「イリス、起きてくれ」
「……ましゅたー、おはようございましゅ」
「おはよう、そろそろ離してくれるか?」
「了解です、マスター」
瞬間的に覚醒したのかいつもの無表情で機械的な声に変わるが、小さくあくびをして目を擦っている。
冬の北海道の朝はとても寒い。イリスは毛布に包まったままベッドに座って俺を見つめたまま一歩も動かない。
俺は直ぐに着替えて朝ごはんの準備をすると言っても大したものは用意できない。俺は自炊をしたことがないからだ。とは言え簡単なものなら作れる。昨日の内に買っておいた卵と牛乳と砂糖でパンと言ったらフレンチトーストしかない。無論、昨日突然食べたくなったからだ。
「イリス、できたぞ」
「はい、マスター」
二人での朝食は初めてでお互いに無言で食べ続ける。会話をするためには俺から話しかける必要がある。イリスから話しかけてくることは必要最低限のことだけだ。与太話一切しない。
俺は特にしゃべることもないので無言のまま、てっきりこのまま朝食が終わるのかと思ったときだった。
「マスター、質問いいですか?」
「ん!! どうしたイリス?」
少し驚いて喉を詰まらせそうになったが、気合で飲み込む。
「マスターと私は兄妹なのですか?」
「急にどうしたんだ?」
「いえ、マスターがアイリス・アンジェ・アトランティカへ説明するときにそう仰っていたので……」
なぜかアイリスがフルネームなことは置いておくとして、俺は少し考える。
「俺たちは実の兄弟ではないけど、戸籍上はそうなる予定みたいだから便宜上では兄妹ということの方がいいだろう。その方が一々説明する必要も無くなるだろうし」
「ではマスターは兄なのですね?」
「否定はできないが、義理の兄だな正確には」
「では兄さんと読んだほうが自然ですね」
「それはちょっと待ってくれ」
イリスの言っていること自体は間違っていないが、知っている人からして見れば幼女を兄と呼ばせている変態扱いされる可能性が高い。
「その話は一端保留にしないか?」
「なぜですか? 『マスター』と呼ぶと周りに不自然さを与えてしまいます。マスターはこの関係を知られたくないのでは?」
イリスの言っていることは正論で人工少女(Artificial Maiden)のことは知れ渡るのはまずい。
「仕方ない、学園ではそういうことにしよう」
俺は何を言われても諦める事にした。
「了解しました、マスター」
朝食を終え、俺たちはアパートを出た。