第六十六話 続いている役割
救護所跡まで戻った頃。
クロニクルが反応した。
【地点履歴を更新しました】
【新規観測記録を追加】
【局所補正履歴との照合が可能です】
「さっきの白い線。」
レインは足を止めた。
「ここなら、起点を見られるのか?」
【救護記録との連続性を確認してください】
柱の印。
百年前の負傷者が通った場所。
レインはガレスを見る。
「体調は。」
「大丈夫です。」
「短時間だけだ。」
「異常があれば、すぐ切れ。」
「はい。」
◇
柱へ触れる。
百年前の履歴と。
今朝の白い線が、同時に表示された。
【過去記録:役割変更対象者】
【現在記録:維持処理起点】
【識別情報を照合します】
青い線が二本。
一つへ重なる。
【一致】
レインは息を止めた。
「何が一致した?」
ガレスがすぐに尋ねる。
「百年前に役割を変えた人と。」
「今朝、補正を送った起点です。」
「同じ対象だと出ています。」
百年前。
勇者から魔王へ変わった人物。
その人物に結びついた維持処理が。
現在も続いている。
「引き継がれた可能性は?」
セレスが尋ねる。
「対象者の識別情報まで一致したのか、処理だけなのか。」
レインは問い直す。
【対象識別:一致】
【役割継承記録:なし】
「識別情報って、名前とは違うのか?」
トーマが尋ねる。
「違うみたい。」
【識別情報:対象を区別するための記録】
【名称情報:参照不能】
「誰かを見分けることはできる。でも、名前は読めない。」
「顔が見えなくても、同じ人だと分かるようなものですか?」
「たぶん。」
「たぶんを確定欄へ書くな。」
ガレスが言う。
レインは慌てて欄を分けた。
クロニクルは同じ対象だと識別した。
どう識別しているかは不明。
名前が欠けても、対象そのものとのつながりまでは消えていない。
「参照先との接続を失った表示とは、少し違いますね。」
「違いが何を意味するかは、学院へ戻って整理しよう。」
名前の謎まで、ここで一度に答えへ変えない。
「対象も同じ。」
「引き継いだ記録はない。」
トーマがゆっくり息を吐いた。
「百年前の人が、今も続けてる。」
「記録上は。」
ガレスが言う。
「その可能性が極めて高い。」
◇
まだ、一つ残っている。
「現在の役割は。」
レインが尋ねる。
【現在属性:魔王】
【対象者名:参照不能】
名前は、やはり出なかった。
けれど。
役割は続いている。
「現在の魔王。」
セレスが小さく言う。
「百年前の勇者と、同じ人。」
「完全記録の対象者と、現在属性が魔王の維持処理起点は同一。」
レインは言葉を選んだ。
「禁書庫の音声の人。」
「黒衣の負傷者。」
「雪原の男。」
「そこまで全部が同じかは、まだ照合し切れてない。」
「でも、かなりつながった。」
黒衣。
白銀の剣。
左脇腹の傷。
酷似する声。
救護所から北へ続く履歴。
勇者から魔王へ変わった記録。
そして、現在まで続く同一対象者の維持処理。
「学院へ持ち帰れる。」
トーマが言った。
「勇者が魔王になったって。」
「今の魔王と同じだって。」
「順番もだ。」
ガレスが答える。
「結論だけでは足りん。」
◇
レインは表示を閉じる前に、最後の確認をした。
「現在の維持処理が止まった場合。」
【予測には情報が不足しています】
【局所維持低下の拡大可能性:高】
【全体影響:参照不能】
世界が終わるとは出なかった。
けれど。
何も起きないとも出なかった。
今朝の白い線。
あれが広がる可能性は高い。
「倒せばどうなるかは、まだ分かりません。」
レインは三人へ伝える。
「でも。」
「倒しても大丈夫だとは、もう言えない。」
ガレスは頷いた。
「それで十分だ。」
「分からないなら。」
「分かるまで、剣を向ける理由はない。」
百年前の勇者。
現在の魔王。
二つの役割が。
一人の上で、ようやくつながった。
それでも。
その人を呼ぶ名前だけが。
まだ空白のままだった。




