第百三十五話 消えた退路
休んだ時間は短い。
それでも。
霧は動いていた。
五人が通った場所へ。
白い木が並んでいる。
ロイドが付けた印も。
見えなくなっていた。
「道が消えた。」
トーマが呟く。
◇
レインは鐘を取り出す。
二度鳴らした時に作った退路。
泥の道。
三本の細い根。
その先にあるはずの森が。
霧の向こうにない。
「戻れないってこと?」
セレスが問う。
「今の道では。」
戻る方法まで失ったと。
決めるには早い。
◇
「二度、鳴らすか。」
ロイドが言う。
退路の確保。
まだ確保できていない。
「三度なら撤退だ。」
「撤退する道がないのに?」
ミリアの言葉に。
誰もすぐ答えなかった。
合図は。
鳴らせば叶う願いではない。
決めた行動を。
五人で同じにするためのものだ。
◇
「まず、戻る道を探す。」
レインは鐘をしまう。
セレスの水を細く伸ばす。
霧へ入った水は。
戻ってこない。
トーマが風を送る。
霧が一瞬だけ割れた。
向こうに見えたのは。
森ではない。
白い地面。
月明かりのような光。
そして。
剣を持つ誰かの背中。
◇
「レイン?」
セレスの声。
見えた背中は。
自分と同じだった。
過去の世界線で。
一人で雪原へ走ったレイン。
姿はすぐ霧に隠れる。
【利用者記憶との接続を確認】
【現在位置との照合:不完全】
過去の景色か。
進む先にある景色か。
クロニクルも決めなかった。
◇
「見えたものを話して。」
セレスが言う。
レインは隠さず伝えた。
一人で走る自分。
白い地面。
月のような光。
「じゃあ、同じ道にはしない。」
トーマが霧へ背を向ける。
退路が消えても。
過去と同じように。
一人で先へ進む理由にはならない。
五人は輪を崩さず。
別の出口を探し始めた。




