第百二十九話 二度の鐘
白い木から離れても。
ロイドの盾には跡が残った。
ミリアが触れる。
「広がってはいません。」
「なら進める。」
ロイドは答えた。
レインは鐘を見た。
二度は退路の確保。
まだ鳴らしていない。
退路があるか。
確かめていないからだ。
◇
南へ続く道に。
倒れた木がもう一本見えた。
「通った時は立ってた。」
トーマが言う。
「後ろでも動いている。」
セレスの水が土へ染み込む。
白い筋が。
来た道を横切っていた。
戻れないわけではない。
ただ。
同じ速さでは戻れない。
「迂回を探そう。」
レインが言う。
「今から?」
「帰る時では遅い。」
◇
五人は少し東へ回った。
木の間に細い道がある。
白い草は少ない。
けれど。
泥が深い。
セレスが水を引き。
ロイドが盾で足場を押さえる。
トーマは折れた枝を運んだ。
レインが先に渡る。
最後にミリアが。
全員の足を確かめた。
「走る時は、一人ずつですね。」
「走らずに済む方がいい。」
トーマが笑う。
誰も否定しなかった。
◇
道の向こうで。
レインは鐘を二度鳴らす。
退路の確保。
音は森に吸われた。
北門から返事はない。
「聞こえたかな。」
ミリアが尋ねる。
「届かなかったかもしれない。」
レインは正直に答える。
学院へ知らせるための鐘。
同時に。
五人が同じ道を覚えるための鐘。
「左に白い木。右に泥の道。」
ロイドが復唱する。
「泥を抜けたら、細い根が三本。」
セレスが続けた。
「戻る時は、俺が先に枝をどかす。」
トーマが言う。
◇
レインは南を見る。
門は見えない。
先生たちの姿もない。
それでも。
戻る時に何をするかは。
一人ずつ言えた。
退路とは。
地面に残る道だけではない。
五人の間に残る約束でもあった。
鐘をしまい。
レインは北へ向き直った。




