第百二十二話 倒さない剣
訓練場に。
三つの人形が置かれた。
一つは黒。
一つは白。
最後の一つは。
半分だけ白い。
「どれを斬る。」
ガレスが尋ねる。
「白いもの。」
トーマが答えた。
鞘が肩へ飛んだ。
「痛っ。」
「見た目で決めるな。」
◇
リディアが人形へ魔力を流す。
黒い人形の中だけに。
強い光が集まった。
白い人形には何もない。
半分白い人形からは。
細い糸が地面へ伸びている。
「止めるべきものを選んでください。」
セレスが水を広げる。
光の流れが見えた。
「黒は自分で魔力を集めてる。」
「白は止まってるだけだ。」
「半分のは、外とつながってます。」
三人の声が重なる。
レインは。
半分白い人形へ向かった。
斬るのは人形ではない。
地面へ続く糸。
刃が触れる直前。
糸の位置が変わった。
◇
「動くのかよ。」
トーマの風が追う。
糸は風へ絡み。
今度はトーマの腕へ伸びた。
「止めろ!」
ロイドの盾が遮る。
糸が盾の縁を回る。
ミリアの光が。
トーマの腕を包んだ。
「触れていません。でも近いです。」
レインは剣を引いた。
追えば。
糸は仲間の方へ逃げる。
なら。
逃げる先を減らす。
「セレス、地面全部じゃなくて三方だけ。」
水が人形を囲む。
一か所だけを空ける。
「トーマ。そこへ弱く。」
風が。
糸を開いた場所へ押した。
ロイドの盾が。
仲間との間を閉じる。
糸は一本の道しか選べない。
レインの剣が。
その先で待っていた。
◇
光が切れる。
半分白い人形が倒れた。
斬った跡はない。
「もう一度。」
ガレスが言う。
「できたのに?」
トーマが抗議する。
「次も同じ動きをすると思うな。」
二度目。
糸は二本になった。
三度目。
白い人形にも魔力が入った。
四度目。
黒い人形が倒れ。
助ける対象に変わった。
色だけでは。
敵も味方も決められない。
◇
日が傾くまで。
五人は繰り返した。
最後の訓練で。
レインの剣は。
どの人形にも触れなかった。
三本の糸だけが切れ。
すべての人形が立っている。
「剣を使ったのに。」
ミリアが人形を確かめる。
「誰も倒れてません。」
「それでいい。」
ガレスは。
初めてそう言った。
倒さない剣は。
弱い剣ではない。
斬れるものの中から。
斬るべきものだけを選ぶ。
倒すよりも。
ずっと多くを見る必要がある。
雪原で。
神崎へ剣を向ける時も。
レインは。
その人だけを見てはいけない。




