第百六話 白い獣を止める
白い魔物が吠える。
空気が震えた。
北門の防護に。
細い亀裂が増える。
「魔力を吸わせるな!」
リディアが叫ぶ。
魔物の周囲から。
光の粒が集まっている。
草から。
土から。
防護からも。
色と一緒に吸い上げていた。
「門から離す!」
ガレスが踏み込む。
魔物が前脚を振る。
剣で受けない。
身体を沈め。
爪の下を抜けた。
刃の腹で後脚を払う。
巨体が傾いた。
だが倒れない。
◇
「外へ出られれば。」
トーマが防護を叩く。
「東から回るには遅い。」
レインは白い濁りを見る。
門を開けば。
魔物が入る。
閉じたままなら。
外の二人だけで止めることになる。
【防護魔力:流出継続】
【流出箇所:北門中央】
「中央から吸われてる。」
「そこを切れるか?」
トーマが尋ねる。
魔力だけを切った時の感触。
身体は覚えている。
けれど。
学院の防護まで切れば。
守るものを壊す。
「切らない。」
「じゃあ?」
「流れを変える。」
◇
「セレス。水を門の両側へ。」
「中央ではなく?」
「うん。」
左右の石柱へ。
水が細く伸びる。
「トーマは上から風を。」
「下へ押す?」
「左右へ分けて。」
二人の魔力が動く。
北へ引かれていた流れが。
門の中央を避ける。
完全には止まらない。
それでも。
魔物へ集まる光が減った。
「今です!」
リディアの水が地面から立ち上がる。
魔物の視界を覆う。
ガレスの剣が。
白く染まっていない角の根元を打った。
魔物が横倒しになる。
◇
立ち上がる前に。
ロイドが走った。
新しい訓練盾を両手で持っている。
「戻れと言ったはずだ!」
「戻りました!」
「なら、なぜいる!」
「盾を替えました!」
「そういう意味じゃない!」
怒鳴りながらも。
ガレスはロイドの前へ出る。
魔物の尾が振られた。
ロイドは盾を地面へ立てる。
まともに受けず。
斜めへ流した。
衝撃で膝をつく。
それでも盾は離さない。
「今度は白くなってません!」
「自慢するな!」
◇
ミリアも補助門の近くに残っていた。
前へは出ない。
傷ついた教師の腕へ。
回復の光を重ねている。
強い魔法ではない。
それでも。
戦う者を一人、戻している。
「ガレス先生!」
治療を終えた教師が走る。
二人で魔物の左右へ回った。
逃げ道を塞ぐのではない。
白い残留がない土へ誘導する。
「レイン、見えるか!」
ガレスが叫ぶ。
何を。
聞き返さなくても分かった。
白化していない場所。
まだ魔力が残る場所。
【個体中心部:非白化領域あり】
「胸の奥!」
「斬ればいいのか!」
【白化領域との接続:継続】
斬る。
その言葉に。
雪原の神崎が重なる。
「違う!」
「なら、どうする!」
「外側の流れを切って!」
命を。
中心ごと断つ必要はない。
◇
ガレスが剣を引く。
魔物の胸へは向けない。
身体の表面を走る白い筋へ。
刃先だけを触れさせた。
一筋。
二筋。
白い光が途切れる。
魔物の身体から。
周囲へ伸びていた流れが止まった。
「下がれ!」
リディアの水が押し寄せる。
魔物を包まず。
白い光だけを土へ流す。
セレスの水も。
門の内側から重なった。
トーマの風が水を散らさず。
一つの方向へ押した。
◇
魔物の白さは消えない。
けれど。
広がる動きが止まった。
巨体が地面へ伏せる。
息はある。
「倒した?」
ロイドが尋ねる。
「止めただけだ。」
ガレスが剣を下ろす。
「それでいい。」
レインは門越しに。
動かなくなった魔物を見た。
倒さずに止める。
今は一体だけ。
世界を支える神崎へ。
同じことができるとは限らない。
それでも。
剣を向ける以外の答えを。
三人だけではなく。
皆で作ることはできた。




