黄金で造られた脚
投稿遅くなってしまい申し訳ありません。今日からいつもの投稿頻度に戻ると思います
銀髪の少女の高らかな宣言が店内へと響き渡る。打って変わって静まり変える面々。
男は、その姿をじっと見ていた。
「……そうか」
暫く考えた末に出てきた感想は、それだけだった。
「存分に讃えるがいい!その双眸に我の美貌を焼き付けることを許そう!」
銀髪の少女は得意げに続ける。この世界の住人は皆自己主張が激しい。或いは、人格を暴かれるゲームで暮らすとは、究極の自己開示なのかもしれない、そう男は思った。
「なんだ?そんなにじっと我の顔を見つめて……はっ!もしや貴様、この偉大なる御姿に見蕩れているな!我の強大なるオーラに言葉も出ないか!そうであろうそうであろう!」
「あんまり騒いだら追い出すエビ」
「そんな!!?」
エビが冷淡に告げる。その一言であからさまにシュンとなってしまった少女は、おずおずと席に腰かける。
「……で、このうるさいのは、エビの友人エビ。今日は用事があって呼んだエビよ」
「エビとは創世記以前からの知り合いである!」
「一回黙るエビ」
エビの話によると、このゲームを始める前からの友人らしく、いわゆる腐れ縁、と言うやつらしい。仲はいいのだろうか。
「あーしが振り回されて、汚ねぇ床に叩きつけられた件がまだ終わってねぇです」
「同情するエビ。自業自得エビ」
モニカは不満そうに鼻を鳴らす。だが抗議は諦めたのか、服の裾を払って座り直す。ようやく店内に落ち着きが戻った。
「ところで、なんの用で呼んだんだ?」
「よくぞ聞いてくれた!!これは今から一年前に遡り……」
その瞬間、厨房から出てきたエビの拳骨が銀髪の少女の頭に刺さる。鈍い音がした。余りの痛みに悶絶する少女。痛覚のフィードバックを切っていないのか、と男は不思議そうにその光景を眺めていた。
「用ってのはコイツが付けてる義足についてエビ」
「義足……?」
エビは少女の首根っこを引っ掴むと立ち上がらせる。そしてそのロングスカートを思い切り捲った。
「きゃあっ!」
「うわっ」
少女の嬌声とモニカの声がハモる。そこには、ビカビカと光り輝く、黄金で造られた脚があった。
「な、な、な、何するのであるか!!幾らエビとはいえこの我に何たる不敬────」
「なーに一丁前に照れてるエビか。いつも全裸で戦ってるくせにエビ」
「お主に言われたくはないわぁ!」
もう見慣れてしまったが、エビは基本的に服を着ない。今は水槽に入っていないのもあり、その肢体を顕にしている。このゲーム、登録者の実年齢に合わせて認知フィルターがかけられるらしく、モニカには白一色の身体に見えているが、男にはガッツリ、リアルな描写で見えている。
「……高そうな義足だな」
「こいつは金なんか払ってないエビよ」
「どういうことでやがりますか」
男が漏らした感想に、エビは即答する。まぁ聞け、と、少女のロングスカートを剥ぎ取ると、その義足をむしり取ってしまう。
「我の扱い酷くないか!!?」
「これ、見てみるエビ」
端っこで丸くなってめそめそしている少女を他所に、エビはそのもぎ取った義足を男に手渡す。まるで人間の脚をそのまま黄金で固めたようなリアルな造形。そして、太腿に刻まれた文字。
「……DREAM MONSTER?」
「!?今なんて言いやがりました!?」
在り来りな単語の組み合わせ。それにモニカが反応する。
「知ってるのか?」
「そりゃあ……この世界で一番腕のいい義体職人がいる店でやがりますから……」
身体欠損が当たり前のようにある世界。義体を作る者も大勢いる。その中で最も腕がいいと断言されるとは、余程の名声がないと成り立たない。
「エビの頭も、モニカの右眼……つまり、シャーロックの義眼も、この店で造られたエビ」
「それ義体だったのか……」
「ちょ!どういうことでやがりますか!!初耳でさぁ!」
「聞いてなかったエビか?」
モニカは慌てて自分の義眼を取り外す。その裏にはやはり小さく、DREAM MONSTERの文字。
「ほ、ほんとに……けど、有り得ない話でさぁ……この店で義体を作る金で、戦車が三台は買えちまいます……」
「そんなに、か……?」
「普通は、そうエビね」
モニカはシャーロックが金欠だった、と言っていた。間違ってもそんな代物を買えるような経済状況ではなかったと。だが、その言葉にエビが意味深に告げる。
「お前に金がないことは知ってるエビ。借金しろとかいう話じゃないエビよ」
「なら……?」
「そこの店主は変わり者でな!!特殊なルートで依頼をした者が、ある条件を満たすと無料で義体を作ってくれるのである!!」
いつの間にか復活した少女が補足する。片脚で器用に近づいてくると、男の手から義足を奪い、自分の脚に取り付けた。
「ま、灰墓に殺させたお詫びと思ってくれていいエビ。そのカードを見せれば、伝わるエビよ」
エビはそう言って一枚のカードを投げつける。それは片面に金の刺繍で、ピエロが描かれた黒いカード。
「なんでエビちゃんそんなの持ってるでやがりますか!!」
「拾ったエビ」
エビは適当なことを言って手を振った。カードの入手経緯を話す気は無いようだ。
「このカードだけ持ってっても意味が無いエビ。以前にその店で義体を作ったことのあるプレイヤー一人以上の紹介が必須エビよ」
エビは面倒くさそうに説明を続け、その視線を銀髪の少女へと向けた。
「だから、案内人としてコイツを呼んだエビ」
「うむ!!我が華麗にエスコートしてみせよう!!」
男の胸中に一抹の不安が過ぎる。ろくな事にならない、と本能が告げていた。しかし、失った左腕は、どこかで補填をしなければならない。戦闘中も日常生活も不便を感じていた。
「……この店の場所は、どこだ?」
意を決した男が尋ねる。
「ブラックヒル。鬼札っていう企業のテリトリーエビ」
「はぁ!!???」
モニカが叫ぶ。男は、自分の身に、更なる混沌が迫っていることを、この時はまだ知らなかった。
読んでいただきありがとうございました。次回の更新は23時頃を予定しています




