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電車内には向かないお話

前略おばあさん

作者: 奏似
掲載日:2026/03/15

10/10本目

むかぁしむかし、あるところに、おじいさんと見紛うばかりのアレなおばあさんがおりました。


おじいさん(以下略)は山へ芝刈りに。


(前略)おばあさんは川へ洗濯に行きました。


そうです、(前略)おばあさんはワンオペワープアだったのです。


そのため、(前略)おばあさんは雨が降ろうが槍が降ろうが、藪で竹が光ろうが川で大きな桃がどんぶらこうが、脇目も振らずに休むことなく働いていました。


そんなある日、(前略)おばあさんのところへ一人の娘さんが訪ねてきました。


以前助けていただいた鶴です、と娘さんは言います。


まさかの身バレスタートです。


思い返せば確かに罠にかかった鶴を逃がしたことがありました。


鳥鍋にしようか、焼き鳥にしようかと考えていた隙にするりと逃げられたのを、はっきりと、そう、今でも夢に見るほど鮮明に覚えています。


これが鴨ネギかと思ったものの、人の姿では食べるにも気が引けます。


さて困ったと思案していると、娘さんは恩返しがしたいと申し出てきます。


娘さんは囲炉裏の向こうでトランクを開くと、テキパキと機織り機、次いで配信機材を組み立てていきます。


そうです、娘さんは機織り系配信者だったのです。


決して中を覗かないで、と言う娘さんにここは私の家だと返すと、仕方ありません、映り込みにだけは気を付けてください、と言いました。


家バレだけは気を付けるように、と(前略)おばあさんも念押ししました。


それから(前略)おばあさんのもとには、どうしてか様々な人(?)が集まりだしました。


家バレ?いやいやまさか。


川で流されていたところを洗濯物に絡まって命拾いした河童。

オキニの筆を無くして困っていたところに書ければどれでも一緒だろと言ったらけだし名言と転がり込んできた弘法さま。

きびだんご詐欺に遭ったと腹を空かせた小動物たち。

姫を探しに来たが見つからないと嘆く月からの使者たち。


どうしてこうなった。


と嘆く暇もなく(前略)おばあさんの周りには人(?)が溢れるほど。


はた、と気づいたのは娘さん。そう、機織りだけに。


おばあさんがいない、と。


すると誰かが言いました。


おばあさん?ここにいたのはおじいさんだろう、と。


また誰かが言いました。


おじいさんでもおばあさんでもどっちでもいいだろう、と。


どっちでもいい訳がない、と慌てるのは娘さん。


もしおじいさんだったら、同棲ってことになる。炎上、謹慎、フォロワー激減。それは堪らない、と。


はてさて、ここにいたのはおじいさんだったかおばあさんだったか。

議論は夜が明けても続いたのでした。


え、(前略)おばあさんはどこに行ったかって?


(前略)おばあさんは山向こうの雲の下、傘杖お供に旅路の途中。


面倒を嫌って家を飛び出したのでした。


ポツリ零れる本音がひとつ。

ああ、やっぱり一人が一番さね。


そうです、(前略)おばあさんは孤独を愛していたのです。


めでたしめでたし。

お付き合いくださりありがとうございました。

ひとつでもクスリとするお話があれば幸いです。

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