第4話 魔術師、登場
町に足を踏み入れて、俺は漸くほっと息をついた。
冒険者としての初めての仕事は上手くいった。途中でトラブルに見舞われたりもしたけれど、レオが居てくれたお陰でどうにかなった。
フォレストウルフの牙と毛皮が入った革袋をぶら下げ、ギルドに戻る。
「これ、依頼されてた薬草です」
レオが受付の机に革袋と依頼書を置く。「確認します」と受付の女性は革袋を開けた。
「___はい、問題ありませんね。お疲れ様でした」
彼女はポンッと依頼書に『完了』のスタンプを押す。そして依頼書に提示されていた報酬を机に置いた。
「初めてのお仕事、いかがでしたか?何かトラブルなどはありませんでしたか?」
「その事なんですけど……」
レオがフォレストウルフの牙と毛皮を取り出す。受付の女性は怪訝な顔をしてそれを受け取った。
「これは…?」
「薬草採取中に討伐した魔物です。フォレストウルフだったんですが…この通り毛の色が通常より異なる変異種でした」
「…………これを貴方達が討伐したと」
牙と毛皮をまじまじと見つめたあと、女性は険しい顔で俺達を見る。その目には明らかに猜疑の色が浮かんでいた。俺はいたたまれなくなって下を向く。
「こいつが倒してくれました」
「っ!?レオ…」
急に話題にあげられ、俺はビクッと肩を揺らす。恨みがましくレオを見るが、彼は俺の視線なんてどこ吹く風と言わんばかりに堂々としている。
「……貴方が?」
受付の女性の探るような目に耐えられず、俺はそっぽを向く。
「た、確かにトドメを刺したのは俺ですけど……レオが頑張って抑えていてくれたお陰です。俺は大した事してないです……」
「____それは違うわ」
突然、空気を切り裂くような鋭い声が響いた。
気が付けば、俺の後ろに一人の魔術師が立っていた。機能性を重視したであろう飾り気のない黒いロープに身を包んでいる。体型が隠されているから分かりづらいが、顔立ち、口調と声色からして女性だろうか。切れ長の赤い瞳がぶつかる。
「リシアさん…!」
ギルドがざわつく。彼女_______リシアという魔術師はどうやら有名な冒険者のようだ。
リシアは周囲の視線などお構いなしに、淡々と告げる。
「そこのオドオドしている剣士が確かにフォレストウルフをた倒していたわ。私が証人よ」
ギルドがより一層騒がしくなる。「まさかそんな」「新入りだろ?」「だがリシアの言う事だしな…」ヒソヒソと話す声が聞こえる。
「討伐クエストを終えて帰っている途中、彼らの戦闘を見かけたの。
______凄まじかったわ。特にこの剣士。変異種をものともせず、あっという間に切り裂いた。到底新人冒険者とは思えない動きだった。立ち位置、筋肉の動かし方、剣の振り方、全てが完璧だったわ」
「勿論、そっちの赤茶色の彼も中々だった。変異種相手によく押さえ込んだと思うけれど………討伐まで出来たのは、間違いなくこっちの剣士のお陰よ」
赤い目が俺を真っ直ぐ見つめる。全てを見透かすようなその目に耐え切れず、俺は目を逸らした。
「リシアさんがそう仰るのなら、改めてユーマさんの実力を測る必要がありますね。今準備を___」
「ま、待ってください!」
思わず声を上げる。
「変異種を倒せたのは偶然なので…わざわざテストする必要、ないです」
俺にしてははっきりとした口調で告げる。リシアが怪訝そう眉を顰める。
「本気で言ってる?」
氷のような冷たい声で問われる。俺は小さく頷いた。
リシアは深く息を吸い込み、目尻を釣り上げる。
あ、怒らせた。怒らせてしまった。
人が怒る時の予兆。かつて散々見たその1つに否応なく縮こまってしまう。
「貴方___」
「悪いけど、ここまでにしてくれませんか。オレ達もそろそろ休みたいので」
リシアの言葉を掻き消すようにレオが声を張り上げる。彼にしては珍しく、声に力が籠っていた。
「あっ、それもそうですね。初めてのクエストでしたし…変異種との戦闘もあったのならお疲れでしょう。
今日はもうお休み下さい。ユーマさんの実力テストについてはまた後日という事で」
「すいません」
一礼して、レオが歩き出す。慌てて挨拶をしてから、彼の後を付いて行く。
「……ちぐはぐな人ね」
ポツリと呟かれたリシアの言葉が、空気に溶けた。




