かぼかぼかぼかぼかぼ〜南瓜の悪夢〜
朝起きたら、他の問題児のベッドを南瓜が占領していた。
「……うん?」
ユフィーリアは我が目を疑った。
家族同然の付き合いを持つ問題児の仲間たちが、何故かベッドに南瓜を残して忽然と姿を消している訳である。何の悪戯だろうか。
しかもただの南瓜ではなく、収穫祭で見かける橙色の南瓜である。三角の眼窩とギザギザの口まで再現された、見事なジャックオーランタンであった。そんなのがベッドにドカンと乗っているので「何の悪戯だ?」と首を傾げたくもなる。
「どこ行ったんだ、あいつら」
ユフィーリアはベッドを占領するジャックオーランタンを無視すると、
「エド、ハル、アイゼ、ショウ坊。どこ行った? 起きてるのか?」
そう呼びかけながらベッドから出る。
――ゴトン。
重たいものが落ちるような音が、背後から聞こえてきた。
音に驚いて振り返ったユフィーリアが見たものは、先程までベッドを占拠していたジャックオーランタンが何故か今度は床を転がっている光景だった。ユフィーリアの呼びかけに対して応答するかのように、三角の眼窩とギザギザの口が特徴的な顔面をこちらに向けている。
悪戯にしては性格が悪すぎる。ユフィーリアが幽霊や妖怪、心霊現象といったものを苦手と知っての狼藉か。これはもう正座で説教確定である。
「おい、驚かせるのもいい加減にしろよ」
そう言って、ユフィーリアはベッドの下を覗き込んだ。アイゼルネならばともかく、魔法の使えない問題児男子組が何のタネもなく南瓜を動かすのは不可能である。
透明な糸でも仕込んでベッドの下に潜り込んでいるに違いない。そしてユフィーリアの反応を見てニヤニヤしていることだろう。見つけたら尻に氷柱を叩き込んでやる所存だ。
ところが、
「いない……?」
ベッドの下はもぬけの殻だった。誰もいなかった。
どこに隠れている気配もなく、南瓜だけが何故か床に転がっているという謎の展開に、ユフィーリアも混乱してしまう。これは一体何の冗談だろうか。
いつも悪戯ばかりしているユフィーリアに対する嫌がらせとして、学院長のグローリアが考えたことだろうか。それとも副学院長のスカイだろうか。誰が考えたにしても性格が悪すぎるったらない。
「おい、冗談は止めろ。どこで見てるんだよお前ら」
ユフィーリアが苛立ち混じりの口調で言うと、
――ゴトン。
床に落ちていた南瓜が、何もしていないのに転がった。
当然だが、ユフィーリアの自作自演ではない。こんな馬鹿なことをする訳がない。
ではどうして南瓜が動いたのか。ジロリとこちらを見据えているし、呼びかけたら反応するのは南瓜である。
もしかして、
「お、お前ら……?」
ユフィーリアが南瓜に呼びかけると、
「かぼ」
「かぼ!!」
「かぼ♪」
「かぼ〜……」
高さの違う声音で、南瓜が喋った。
「お前ら、何だってそんな姿に!? 誰の魔法だ!?」
「かぼかぼ」
「かぼ!!」
「かぼかぼ♪」
「かぼ」
「一斉に喋るな!! 全然分からん!!」
というか、南瓜の言語って「かぼ」だっただろうか。喋る訳がないだろう、あんなお野菜が。
4個のジャックオーランタン、もとい問題児の仲間たちはゴトゴトと揺れながら「かぼかぼ」と何事かを主張してくる。彼らが何を言いたいのか全然分からない。
どこかの誰かによる呪詛とも考えて魔法の解除を試みるが、不思議なことにそんな雰囲気が一切ないのだ。つまり何の力も働かずに彼らは南瓜になってしまったのだ。
ユフィーリアは非常に申し訳なさそうに、
「悪い、お前ら。なんか知らんが解決できん。そのままの姿で過ごしてくれ、どうせ時間経過でよくなるだろ」
そんなことを言うと、南瓜がゴトゴトと音を立てて転がってきた。
「かぼ」
「かぼかぼ!!」
「かぼかぼぼ♪」
「かぼかぼー!!」
「痛い痛い痛い、ぶつかるな仕方ねえだろ解決できないんだから!!」
南瓜どもが体当たりをしてきて、堪らずユフィーリアは居住区画の寝室を飛び出した。こうなったら逃げるが勝ちである。
慌てて居住区画を通過して用務員室の扉を開けると、橙色の群れがそこに鎮座していた。よく見ると全部ジャックオーランタンであった。
ユフィーリアが用務員室へ繋がる扉を開いた途端、用務員室を占拠していた南瓜たちが一斉にこちらへ顔を向けたのだ。三角の眼窩とギザギザの口が特徴の、収穫祭ではお馴染みになったジャックオーランタン。これだけいると壮観を通り越して恐怖しか湧いてこない。
「かぼ」
「かぼかぼ」
「かぼかぼ」
「かぼかぼかぼ!!」
何かを訴えるように「かぼかぼ」と鳴く南瓜たちに、ユフィーリアはとうとう悲鳴を上げた。
「な、な、何なんだよおおおおおおおおおおおおおおおおおあああああああああああああああ!!!!」
そして自らを追いかけてくる南瓜の群れから逃げ出した。
☆
「うーん……うーん……南瓜……南瓜が追いかけて、うーん……」
そんな苦しそうな寝言が、用務員室に落ちる。
寝言の発生源はユフィーリアだ。用務員室の隅に置かれた長椅子に横たわり、呑気にお昼寝の真っ最中である。ふかふかな毛布に包まり、これまたふかふかなクッションを枕にし、胸元では用務員室のアイドルであるツキノウサギのぷいぷいが湯たんぽの役割を果たしている中で、何か悪夢に魘されているのだ。
耳を傾けると、大体夢の内容が予想できる。大方、南瓜に追いかけ回されているのだ。どうしてそんな悪夢を見るのか。
魘される敬愛すべき上司を静かに眺めるエドワード、ハルア、アイゼルネ、ショウの4人は互いの顔を見合わせた。
「何の夢を見てるのぉ?」
「南瓜!?」
「今年は南瓜のタルトにしたけれド♪」
「いやこれ起こした方がいいですよ。ユフィーリア、とうとう煙管まで握り始めちゃった」
悪夢に魘されるあまり、とうとう雪の結晶が刻まれた煙管を握りしめて魔法を発動しようとするユフィーリアを止めるべく、ショウは愛する旦那様を起こしてあげるのだった。
《登場人物》
【ユフィーリア】ふわふわの毛布にふかふかのクッション、湯たんぽにぷいぷいという最高の環境にいるにも関わらず悪夢を見た魔女。何で南瓜が追いかけてくるんだよ、何の恨みがあるんだよ!!
【エドワード】何か知らないけど上司が魘されてるんですけれど。
【ハルア】南瓜? 何で南瓜?
【アイゼルネ】おねーさん、何もしてないわよ。
【ショウ】とりあえず起こさないとまずい。このままだと寒いのにお部屋が氷漬けになる。




