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24話

 三人は三様に鍵穴を探して歩き回った。なかなか自分が思う場所に進むことができないが、三人がバラバラに動くことによって防御魔法を攪乱しているらしく、先ほどよりはマシだった。それでも壁や床は白い石で作られているので色のついているものは目立つというのに、一向に鍵穴を見つけることができない。


 三人が絶望しかけた時、アリューシャが高い声を発した。


「これを!」


 神殿内に設置されている多くの彫刻の中に、ベルトの中心にアメジストで縁取られた鍵穴を持つものがあったのだ。


「置物も対象ってことか」

「とにかく急ぎましょう」


 フレイリスが鍵穴にアメジストの鍵を差し込む。そして九十度回してからさらに奥に押し込み、そこから九十度下に回す。カチリと音がすると、彫刻が紫色に輝いて左側から体前半分が開いた。


「こんなふうに開くのですか……」


 アリューシャが驚いている。彫刻をくぐり、向こう側へ。宮殿のどこかわからない廊下に続いていた。


「さて、次はルビーの鍵穴だね」


 セラとアリューシャがうなずく。だが、その考えはすぐに否定された。後方から音が聞こえ、振り返った三人が見たものは黒い蜘蛛の集団だった。


「セラ、なんとかしろ」

「キリがありません。逃げながら鍵穴を探すほうがいいです」


 セラの言葉で三人は駆け出した。


 蜘蛛たちは合体を始め、近づくほどに大きくなってくる。やがて人間の身長の倍ほどになった。さらに足が十二本もある。


「フレイリス、鍵穴です!」

「青か?」

「黒です! 早く」


 フレイリスが慌ててオニキスの鍵を取り出して、セラが指し示す場所に向かう。そして鍵を差し、回した。黒い光が扉を象り、開く。三人は中へ飛び込み、急いで閉じた。


「セラの推測通りだね」


 目の前に広がるのは厳粛な空気が漂う霊廟で、ズラリと棺が並んでいる。


 ガチャンと甲高い音がして、左右に据えられている衛兵の石像が動き出した。片方は赤い甲冑、もう片方は青い甲冑をまとっている。


「セラ、姫、青い鍵穴を探して」


 言うと鍵を渡し、セラは剣を抜いた。二人が駆け出す。


「人型なら、ちったぁやりやすいってもんだけど、二対一ってのは分が悪いかな」


 衛兵も剣を抜く。フレイリスが一度剣を振ってから構えると、赤い甲冑が踏み込んできた。


 ギン!


 鋭い鋼の音が響く。太刀筋と刃の触れ合いからフレイリスは一度退いた。


(強いな。ヘタに踏み込んだらバッサリやられてしまう)


 すかさず太刀筋を変えた。斜めに構えていた剣を地と垂直にし、まっすぐ相手に向ける。赤い甲冑の衛兵は相対して動かない。そこへ脇から青い甲冑は斬り込んできた。


 体を捻って頭を下げ、青い甲冑の攻撃を避ける。下から間合いに入り大きく踏み込んで剣を振り上げた。だが、見事にスカを食らった。体勢が崩れるが、床に手をついて宙返りをする。そこへ赤い甲冑の衛兵が襲ってきた。


「ちっ」


 反転して剣で防ぐ。刃が十字に重なってぶつかった。膝をついているフレイリスには不利な体勢だ。なんとか振り払おうとするが、先手先手と、行く手を阻まれて身動きができない。立ち上がろうとした矢先に足を払われた。


「ざけんな!」


 突かれた剣を素手で握った。剣先が胸にかすったが、まったく無視。フレイリスは右肩を突き出すようにして突進した。そのまま剣を突く。だが、紙一重でかわされた。


(こいつら、ことごとくあたしの先手を取る)


 相手は石像だ。魔法で動いているのはわかっている。


(倒せずともセラが鍵穴を見つけるまで引っ張れれば)


 青い甲冑の衛兵が動き、その真後ろに赤い甲冑の衛兵が逆に剣を動かす。右、左と体を捻って剣先から逃れ、距離を保ちながら走った。二体の衛兵がフレイリスを追う。走り回って衛兵を攪乱していると、アリューシャの叫び声が轟いた。


「剣士様! こちらへ!」


 見つけたのだ。身を屈めて体の角度を変えると、フレイリスは衛兵たちに斬りかかり、二体がよけた間を駆け抜けた。二人がいる場所を目指す。棺の蓋が青く輝き、開いている。


「フレイリス! 早く!」


 アリューシャに続き、セラも開いた棺の中に入る。フレイリスもそこへ飛び込もうとして三つ編みにしている髪を掴まれた。


「フレイリス!」


 動きを封じられ、青い甲冑の衛兵が斬り込んできた。


「あっ」


 背中に剣先が当たり、フレイリスの白いマントが裂ける。フレイリスは振り向きざま、衛兵が掴んでいる髪を切った。赤みがかった金髪が広がってたなびく。


「早く!」


 背後からセラの怒声。声に向かって走り、棺の中にダイブした。体が落下を感じたのは一瞬。フレイリスは自分がしっかり立っていることを自覚した。


「なんと麗しい」


 セラの言葉で我に返り、目の前にそびえる荘厳な祭壇を見上げた。すべてが水晶でできている。正面の祭壇に一体の女性の彫刻があり、そこから左右に六体ずつ男女の彫刻があるが、これも水晶で造られていた。


「中央の女神像はクレイシャでしょうね」


 セラが答える。


「ってことは、スタファーシャ十二神か」

「ええ、そうでしょう」


 額のサークレットやティアラ、身につけている衣装や手に持っている道具から、どの神かわかる。フレイリスはゆっくりと進み、クレイシャの隣、腰の高さで両手を開いている女神の前に立った。


(母神ユノー。主上に力を与えし女神。我が守り神)


 フレイリスは目を閉じ小さくかぶりを振った。ここに心を取られてはいけない。


「核を探そう」

「いえ、剣士様。核はあれだと思います」


 アリューシャが指をさす先はクレイシャの手の部分だった。右手を上に、左手を下にして構えている場所には大きな水晶があって、中央がキラキラと煌いている。


『剣士よ、その核を壊すのです』


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