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10話

 それから数時間。

 セラのようになにかを見つけることもなくフレイリスは戻ってきた。


 たき火を熾しているセラの横に座ると、腰にぶら下げている袋からパンを取り出す。それを軽く火で炙って二つに割り、片方をセラに渡した。


「どうも。で、どうでした?」

「特になにもなかったよ。虫が飛んでるくらいだ。時々鳥がいたけど、獣はいないね。やっぱり妖しいのだろう」

「そうですか」

「で、寝られたかい?」

「おかげさまで」


 答えつつ、セラが空を見上げる。


「始まったか?」

「おそらく」

「では、おっぱじめようか」


 火を消すと、二人は立ち上がった。そしてフレイリスは長剣を抜き、セラは杖先を前に向けて持った。


「空が妙だ」


 風が出てきたようで、木や草が靡いている。ゆっくりと世界が飴色に染まっていく。


 ザワザワと葉音がして風が強まっていることを教えてくれる。雲の流れが速くなっている。ゆっくりと帳が下りて世界が漆黒に包まれると、白く輝く大きな月が現れた。


「なんか、変だな」


 フレイリスが満月を見上げて呟くように言った。


「雲があったとはいえ、さっきまでどこにも見えなかったのに」

「急に現れた感じ?」

「そういう感じ」

「角度によって輝きが増したのかもしれませんが、確かに〝変〟という感覚は正しいと思いますよ。そしてその〝変〟は増していく」


 なにかが張り詰めている。息を殺して見ているような感覚。二人は互いに互いの緊張を感じた。


 フレイリスが右手で右耳を押さえた。キーンと高い音が鼓膜を直撃する。


「来る」

「フレイリス!」


 二人の声が重なった。同時に突風が足下から来た。セラの声すらも聞こえないくらいの風の音。マントの裾や枝や草がそれぞれ激しく靡いて騒ぐ。


 そして頭上では満月が爛々と輝いている。


「銀色だ」


 二人の頭上には驚くほど大きく、銀色に輝く月がある。周辺に漂う空気が尋常ではない。まるで月が銀色の魔法を浴びせかけているような錯覚を抱いたからだ。


(吞み込まれる。これはマズい)


 そう思うが、金縛りにあったように体が動かない。


 ザンと音足がして隣に立つセラが杖で地を突いた。その瞬間、フレイリスは硬直が解けたのを感じた。


(緊張ではなかったか。そうだよな、このあたしが緊張するなんて可愛い反応をするはずがないから)


 口角を上げて自分に向けて嘲笑する。二人の足元のわずかな部分だけを残し、地面は白い霧に覆われていた。それが風に吹かれて揺れ、靡いている。月はさらに銀色に輝き始めた。


 目を閉じたセラが聞こえない大きさの声でブツブツとなにか言っている。それが呪文であることは問わなくてもわかる。やがて彼が持つ杖の先にある、いぶし銀の竜の目が呼応するように金色に煌き始めた。


(不快さが増している。もうすぐ、本物が来る)


 そう思った瞬間、頭上から強烈な重力を感じた。


「……くっ」


 フレイリスは歯を食いしばった。


 圧し潰されてしまいそうだ。それでもセラの力に守られているのがわかる。彼の、杖を掴む手が小刻みに震えている。


 無意識に胸元で揺れているカイオスのシンボルを握りしめた。


(主上、こいつは半端ないです。お守りください)


 重力はますます強くなる。まっすぐに立ってはいられず、少しずつ前のめりに屈みがちになっていく。フレイリスは固く目を閉じ、奥歯を噛みしめて耐えた。全身から汗が噴き出して流れていく。


(まだか)


 耐えきれず、とうとう崩れた。片側の膝を地について両手をそれぞれの膝頭にやった時だった。ふっと重力が消失した。今までの苦しさが嘘だったかのように楽になった。


「フレイリス、大丈夫ですか?」

「…………」

「フレイリス」

「ああ……大丈夫、だ。けど、あと一歩、ってとこだったよ」


 はあはあと荒く呼吸しながら答える。うつむく視界にセラの手が見えた。はぁ、と大きく息を吸い、その手を取って立ち上がる。そして両眼を見開いた。


「これ、は……」

「ラシャリーヤです」



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