「最終章・第三部:黎明の産声②」
第二話:双つの光
嵐が過ぎ去った後の寝所は、清められ、穏やかな朝の光と、安らぎを与える香の香りに満ちていた。
雪藍は、疲れ果ててはいたが、満ち足りた表情で、寝台の褥に身体を預けている。
その傍らで、朱華は、まだ濡れたままの彼女の手を、片時も離さずに握りしめていた。
やがて、産婆が、産着に包まれた二つの小さな命を、そっと雪藍の腕の中へと運んできた。
「雪藍様…」
腕の中に感じる、温かく、そして、ずしりと重い生命の感触。
雪藍は、夢中で、二人の我が子の顔を覗き込んだ。
一人は、朱華の黒曜石の瞳を受け継いだ、凛々しい顔立ちの男の子。
もう一人は、雪藍の瑠璃色の瞳を持つ、花のように可憐な女の子。
「…ああ…」
言葉にならない感動に、雪藍の瞳から、再び涙が溢れ出した。
「朱華様…ご覧ください。あなた様の子たちですわ…」
雪藍の囁きに、朱華は、おそるおそる、といった様子で顔を近づける。
その表情には、国の英雄としての威厳も、皇太子としての冷静さもない。
ただ、初めて見る我が子を前にした、一人の男の、畏れと、どうしようもないほどの愛おしさが浮かんでいた。
「…俺の手は…」
朱華が、掠れた声で呟く。
「血と、剣のたこにまみれている。こんな小さなものを…壊してしまいそうだ」
その、弱々しい言葉。雪藍は、優しく微笑んだ。
「大丈夫です、あなた。この子たちは、あなたの手を待っています」
その言葉に背中を押され、朱華は、震える手で、そっと、男の子の方を抱き上げた。
信じられないほど、小さく、温かい。自分の腕の中で、小さな命が、すうすうと寝息を立てている。
次に、女の子を。その小さな指が、朱華の指を、きゅっと握り返した。
その瞬間、朱華の心は、完全に、この双つの光に奪われた。
彼の瞳から、大粒の涙が、止めどなくこぼれ落ちていく。
「…名前を、考えねばな」
朱華は、涙声で、そう言った。
「そうですね…」
雪藍も、幸せそうに微笑む。
そこへ、凛と、侍女たちが、おずおずと部屋に入ってきた。
彼らは、寝台の上で繰り広げられている、あまりに尊い光景に、言葉を失う。
「まあ…!王子様は殿下にそっくり!」
「姫様は雪藍様にそっくりですわ!」
葵と菫が、嬉し涙に声を詰まらせる。
碧葉もまた、袖で目元を拭いながら、深々と頭を下げていた。
凛は、ただ黙って、その光景を見つめていた。
姉上と、兄上。そして、その腕の中にいる、二つの小さな命。
(…これが、俺が守り抜いた、光か…)
彼の灰色の瞳には、これまで見せたことのない、穏やかで、温かい光が宿っていた。
朱華は、腕の中に二人の赤子を抱いたまま、雪藍を見つめた。
雪藍もまた、彼を見つめ返す。
視線だけで、二人は語り合う。
(ありがとう、雪藍)
(こちらこそ、朱華様)
それは、言葉にする必要もない、完璧な愛の形だった。
静月殿の朝は、新しい家族の誕生を祝福する、最高に幸せな光に満ちていた。




