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「最終章・第三部:黎明の産声①」

第一話:命の奔流


朱華の凱旋から数時間後。静月殿は、歓喜の祝賀ムードから一転、緊迫した空気に包まれていた。


「医者を!早く!」

「お湯の用意を!」


侍女たちの、悲鳴に近い声が飛び交う。

雪藍は、寝所の一室へと運ばれ、その扉の前を、産婆や医師たちが慌ただしく行き交っていた。


「殿下!これより先は、血の穢れのある場所!男子禁制にございます!」


老医師が、朱華の前に立ちはだかり、深く頭を下げた。

しかし、部屋の奥から聞こえる雪藍の苦しげな声に、朱華は顔を蒼白にさせる。


「黙れ!」


彼の、王としての気迫に満ちた一喝が、廊下に響き渡った。


「我が妃が、命を懸けて双つの命を産もうとしているのだぞ!伝統が何だ、穢れが何だ!雪藍が一人で戦っているのに、俺がそばにいてやらんでどうする!」


彼は、制止する者たちを、燃えるような瞳で振り払う。


「…道を開けよ。これは、夫としての、勅命だ!」


朱華は、驚きに固まる者たちを後目に、ためらうことなく、雪藍のいる部屋の扉を開けた。


中は、湯気と、薬草の匂いと、そして、命が生まれようとする、凄絶なまでの熱気に満ちていた。

汗で髪を濡らし、荒い息を繰り返す雪藍。その姿に、朱華の胸は張り裂けそうになる。

彼は、ためらうことなく彼女のそばに駆け寄ると、その手を、固く、固く握りしめた。


「雪藍、俺がいる。俺が、そばにいるぞ…!」

「しゅか、さま…!」


雪藍の瞳から、涙がこぼれる。

そこから、二人の、長く、そして壮絶な戦いが始まった。


痛みと戦う雪藍の手を、朱華は片時も離さなかった。彼女が汗を流せば、濡れた布で優しく拭い、彼女が声を上げれば、その耳元で、励ましの言葉を囁き続けた。


「そうだ、雪藍、上手だ…!」

「俺の声を聞け、俺だけを見ろ…!」

「お前は、強い女だ…!俺たちの、子らのために…!」


時間は、永遠のように感じられた。

陽が落ち、月が昇り、そして、再び東の空が白み始める。


雪藍の苦悶の声が、ひときわ高く響き渡り、そして、ふと、途絶えた。

代わりに、部屋の中から、赤子の、か細く、しかし力強い産声が響き渡った。


「――オギャー、オギャー!」


その瞬間、朱華は、膝から崩れ落ちそうになるのを、必死で堪えた。


(…まず、一人…!)


涙が溢れ出すが、彼はまだ、完全に安堵することはできない。

部屋の中の緊張が、まだ続いているのが伝わってくるからだ。

誰もが、息を殺して、次の奇跡を待っていた。朱華も、産婆も、皆が固唾をのんで、雪藍を見つめる。


やがて、最初の産声に重なるように、もう一つ、別の赤子の声が、凛と響き渡ったのだ。


「――オギャー!」


その二つ目の産声を聞いた瞬間、張り詰めていた空気が、一気に歓喜で弾けた。

朱華は、今度こそ、その場に崩れ落ちそうになりながら、嗚咽を漏らした。


(…二人とも、無事に…!)


やがて、産婆が、湯で清められた二人の赤子を、朱華と雪藍の元へと運んできた。


「おめでとうございます、殿下、妃殿下!お世継ぎとなる王子様と、愛らしい姫様!見事な、ご双子様にございます!」


朱華は、震える手で、雪藍の手を握りしめる。

雪藍は、疲れ果て、しかし、この上ない幸福に満ちた笑顔で、彼を見つめ返した。

二人の頬を、喜びの涙が、止めどなく流れていく。

夜明けの光が、新しく生まれた二つの命と、固く結ばれた夫婦の愛を、温かく照らしていた。

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