「最終章・第一部:光と影の胎動③」
第三話:命への誓い
朱華の、父としての誓いの言葉。それは、雪藍の魂を、深く、熱く揺さぶった。
彼は、まだ涙の乾かぬ雪藍の顔を、そっと両手で包み込む。彼の瞳は、これまでのどの夜よりも、深く、そして神聖な光を湛えていた。
その瞳に見つめられ、雪藍は吸い寄せられるように、その唇に応える。
口づけは、激しいものではなかった。
彼は、彼女の額に、瞼に、頬に、まるで祈りを捧げるかのように、何度も、何度も、優しく唇を落としていく。それは、彼女という存在そのものを慈しみ、祝福する、神聖な儀式のようだった。
寝台の上で、彼は、宝物を扱うかのように、一枚、また一枚と、雪藍の衣を丁寧に剥いでいく。
「…雪藍。医者は問題ないと言っていたが…もし、少しでも身体に障るようなら、すぐに言うのだぞ。
今のお前の身体は、お前だけのものですらない。俺と、そして、この国の宝なのだから」
その、どこまでも優しい声に、雪藍はこくりと頷いた。
やがて、月光の下に現れた、柔らかな白い肌。
朱華は、その完璧な美しさに息を呑むと、彼女の平らな腹部に、そっと、ひざまずいた。
そして、その場所に、祈るように、自らの額を押し当てる。
「…雪藍。かつて、お前は自らを『器』だと言ったな。…だが、今のお前は、俺たちの未来そのものを宿す、世界で最も尊い、聖なる器だ」
その、震える声。
「…ここに、俺たちの愛の証が…。信じられぬ…。お前は、俺に、国や玉座以上のものを与えてくれたのだな」
その言葉に、雪藍の胸は熱くなる。
(…このお腹には、新しい命が。そして、目の前には、ただひたすらに私を愛してくださる、愛しい人が…)
彼女は、朱華の髪を優しく撫でながら、母となる喜びと、一人の女として愛される喜び、その両方で胸がいっぱいになるのを感じていた。
「…大丈夫です、朱華様。私も…あなたに、触れてほしいのです。母としてだけでなく、あなたの妻として…」
その言葉が、朱華の最後の躊躇いを消し去った。
その夜の交わりは、どこまでも穏やかで、満ち足りたものだった。
朱華は、雪藍の腹部を大きな手で優しく包み込み、決してそこから手を離さなかった。
ゆっくりと、深く結び合わされ、互いの体温を感じ合う。それは、ただの快感を求める行為ではない。
これから父となる男と、母となる女が、そして、まだ見ぬ小さな命が、三位一体となって、互いの存在を確かめ合う、魂の交歓だった。
やがて、ひときわ深く結ばれた瞬間、二人の身体は同時に震え、光に満ちた優しい絶頂が訪れる。
それは、嵐の前の静けさの中で交わされた、未来への、静かな、しかし絶対的な誓いだった。
事が終わった後も、二人はただ、互いを抱きしめ合っていた。
朱華の手は、ずっと、雪藍の腹の上から離れることはなかった。
二人の、そして、まだ見ぬ小さな命の、新しい物語が、静かに始まった。




