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「乙女たちの夜話と、それぞれの恋路」

その夜、静月殿の、雪藍の私室は、華やかな笑い声と、ほのかな花の香りに満ちていた。

雪藍と侍女三人組は、寝所とは別の、彼女がくつろぐための部屋で、一日の出来事を報告し合いながら、お茶を楽しんでいたのだ。


「それで、碧葉!凛様とは、どうなのですか!?」


口火を切ったのは、やはり葵だった。彼女は、キラキラした目で、主役である碧葉に詰め寄る。


「もう、お手は繋がれたのですから、その先は…!その先はどうなのです!?」

「葵っ!そのような、はしたないことを…!」


碧葉は、顔を真っ赤にして俯いてしまう。菫が「まあ葵ったら」とたしなめながらも、夢見るような瞳で追撃した。


「でも…わたくしも、少しだけ気になりますわ。凛様は、どのようなお言葉を、碧葉に…?」


二人の質問攻めに、碧葉がタジタジになっているのを見て、雪藍が優しく助け舟を出した。


「二人とも、そのくらいにしてあげなさい。恋というものは、胸に秘めている間が、一番甘く、そして美しいのですから。ね、碧葉」


その言葉に、碧葉は「雪藍様…」と、感謝の眼差しを向けた。


そこへ、政務を終えた朱華と、護衛の任を終えた凛が、私室にやってきた。

部屋の華やいだ雰囲気と、まだ頬を赤らめている碧葉の様子を見て、朱華はすべてを察する。

彼は、悪戯っぽく笑うと、雪藍の肩をぐっと抱き寄せた。


「…どうやら、乙女の秘密の話の邪魔をしたようだな。ならば、俺たちは寝所に下がるとしよう。…雪藍、今宵は、お前が俺にだけ教えてくれるのだろう?乙女の秘密とやらを」

「しゅ、朱華様っ!」


雪藍の抗議も聞かず、朱華は彼女を連れて、甘い雰囲気で寝所へと向かっていった。


その様子を見ていた凛もまた、意を決したように碧葉へと向き直る。


「…碧葉。月が、美しい。少しだけ、共に歩いてはくれないか」


その、不器用だが真っ直ぐな誘いの言葉に、碧葉は、恥ずかしそうに、しかし嬉しそうに、こくりと頷いた。二人は、夜の庭園へと、静かに散歩に出かける。


残された葵と菫は、二組のカップルの後ろ姿を、感極まった様子で見送った。


「きゃーっ!見ましたか、今の凛様の、お誘いの言葉…!」

「ええ…。まるで、恋物語の一場面のようでしたわ…」


二人は、主たちの幸福な恋の行方に、自分たちのことのように胸をときめかせていた。


寝所に戻った朱華と雪藍は、先ほどのガールズトークを肴に、甘い会話を交わしていた。


「…それにしても、あの凛がな。あの碧葉という女は、大したものだ。弟の、あんな顔を引き出せるとは」

「ふふ。凛も、恋を知って、少しだけ人間らしくなりましたわね。…あなた様のように」

「ほう…?俺が人間らしくないと?」


朱華は、そう言うと、雪藍を寝台の上へと優しく引き倒す。


「ならば、今宵は、ただの『雄』に戻ってやろうか。…あの小僧(凛)が、まだ知らぬ、本当の夜の顔を、お前にだけ見せてやる」


彼は、雪藍の顔の横に手をつき、その瞳を覗き込む。


「まあ…お手柔らかにお願いいたしますね、殿下」


雪藍が悪戯っぽく微笑み返すと、朱華はたまらないというように、その唇に深く、蕩けるような口づけを落とした。


一方、月下の庭園を散策する凛と碧葉。

凛は、初めて繋いだ時とは違い、今度は少しだけ大胆に、碧葉の指に自分の指を絡めていた。


「…昼間、姉上たちと楽しそうだったな。お前の笑い声が、書庫まで聞こえてきた」

「わ、若君こそ…。殿下と、何をお話しに…?」

「…秘密だ。だが、いつかお前にも話す。俺の、すべてを知ってほしいから」


その、あまりに真っ直ぐな言葉に、碧葉の心は蕩けてしまう。


凛は、朱華に言われた言葉を思い出して、何か気の利いたことを言おうとする。「…碧葉。その指は…」しかし、言葉が続かない。

彼は、気取った言葉を言うのを諦め、ただ、正直な気持ちを口にした。


「…すまない。兄上のように、気の利いたことは言えない。…だが、その…月明かりの下で見るお前は…綺麗だ、と思う」


その、あまりに不器用で、しかし心の底からの言葉に、碧葉の胸がいっぱいになる。

彼女は、繋がれた凛の手に、そっと自分の指を絡ませた。


「…若君…。私には、それだけで…十分すぎるほど、でございます…」


その言葉を告げた瞬間、碧葉の中で、これまで必死に抑えつけていた想いが、堰を切ったように溢れ出す。


(…もう、ためらうのはやめよう。この方の、まっすぐな想いに、私も…)


彼女は、意を決すると、繋がれた手をそっと引き、背伸びをして、凛の頬に、柔らかな口づけを落とした。

凛は、その柔らかな感触と、花の香りに、驚きと、未知の甘い感覚に、完全に固まってしまう。

その灰色の瞳が、大きく見開かれた。

碧葉は、自らがしたことの重大さに、はっと我に返る。

途端に、顔から火が出るように熱くなり、真っ赤になって後ずさった。


「も、申し訳ございません、若君!わ、私、何を…!お、お忘れください!」

「…忘れられるものか」


ようやく声を取り戻した凛は、慌てて彼女の手を掴んだ。


「…嬉しかった。…だから、その…次は、俺からだ」


凛の、不器用だが力強い「次の約束」の言葉に、碧葉はさらに顔を赤らめるしかなかった。

その光景を、遠く離宮の窓から、朱華と雪藍は、微笑ましく見守っていた。


「やるではないか、我が弟も」

「ええ。…本当に、良かった…」


静月殿の寝所では、深く結ばれた夫婦が。

そして、月下の庭園では、これから愛を育んでいく、初々しい恋人たちが。

二組の幸せな影を、優しい月だけが見守っていた。

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