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「凛と碧葉の恋物語」:第5部「公認の恋人、そして未来へ」

雪藍が朱華の書斎を訪れたのは、深い夜のことだった。凛の絶望的な姿を目の当たりにした雪藍は、一刻も早く朱華に助けを求めたい一心で、迷わず彼の元へ向かったのだ。雪藍から凛と碧葉の事情を聞いた朱華は、深く息を吐いた。


「やはり、そうであったか。凛が書庫に足繁く通うようになってから、薄々感づいてはいたが…」


朱華の言葉に、雪藍は静かに首を振った。


「朱華様。凛は、心から碧葉を慕っています。

その想いは、偽りのないものです。私も、かつて身分を越えた恋に苦しみました。だからこそ、凛の今の気持ちが痛いほど分かります」


雪藍は、自らの経験を語り、朱華の瞳をまっすぐに見つめた。


「碧葉も、凛を想っていながら、身分差と歳の差を理由に身を引こうとしたのです。二人は、同じくらい苦しんでいます」


朱華は、雪藍の言葉に、ゆっくりと目を閉じた。

かつて自分が雪藍と出会い、その身分も家柄も超えて愛し合った日々が脳裏をよぎる。

確かに、自分も周囲の反対や、世間の目を恐れた時期があった。しかし、雪藍の真摯な愛が、その全てを乗り越えさせたのだ。


「…そうか。凛の想いが、そこまで深いものだとはな」


朱華は、目を開けると、雪藍の手にそっと自分の手を重ねた。


「分かった、雪藍。お前がそこまで言うのなら、

私も二人の背中を押してやろう。だが…これは、凛らにとって、容易な道ではないぞ。身分を乗り越えるには、それ相応の覚悟と努力が必要だ」


「はい。しかし、凛ならば、碧葉と共に、必ず乗り越えてくれると信じています」


雪藍は、朱華の言葉に、安堵と感謝の表情を浮かべた。


翌日。

朱華は凛を自らの執務室に呼び出し、雪藍は碧葉を書庫で待たせた。


「凛。雪藍から話は聞いた。そなたの碧葉への想い、そして碧葉がそなたを拒んだ理由もな」


朱華は、静かな声で語りかけた。

凛は、俯いたまま、何も答えることができなかった。


「身分差も、歳の差も、この宮廷において、容易に乗り越えられる壁ではない。だが、私は知っている。

真実の愛が、どれほど大きな力を持ち、どれほどの困難を乗り越えられるかを」


朱華は、凛の顔を上げさせた。


「凛。お前の碧葉への想いは、真実か?

そして、碧葉を守り抜き、共にこの困難を乗り越える覚悟はあるか?互いを信じ、支え合うことが何よりも大切だぞ」


凛は、その問いに、力強く頷いた。その瞳には、昨夜までの絶望の色は消え、碧葉への揺るぎない決意が宿っていた。


「はい…!碧葉を、心から愛しています。必ず、守り抜きます!」


同じ頃、書庫では、雪藍が碧葉に語りかけていた。


「碧葉。凛が、どれほどそなたを想っているか、

知っているわね」


碧葉は、俯いたまま、何も答えられない。


「凛は、昨夜、涙を流してあなたへの想いを訴えたの。あの子が、あんなにも感情を露わにすることは、私の知る凛の姿からは想像もできないほどのことよ。そして、朱華様も、私たち夫婦の経験を踏まえて、

二人の仲を認めてくださったわ」


雪藍の言葉に、碧葉ははっと顔を上げた。


「殿下が…?わたくしのような者を…?」


「ええ。身分や歳など、真実の愛の前には些末さまつなことだと。…碧葉。あなたは、凛の想いを、受け止めてあげてほしい。彼を信じて、共に歩む勇気を持って」


雪藍の優しい言葉に、碧葉の瞳から、再び涙が溢れ落ちた。しかし、それは、もう悲しみの涙ではなかった。凛への愛おしさと、朱華と雪藍の温かい心遣いへの感謝が、碧葉の心に満ち溢れていた。


朱華と雪藍は、改めて二人の再会の場を設けた。

場所は、凛と碧葉にとって思い出深い書庫の、日の光が差し込む一角。


凛は、碧葉の前に立つと、深く頭を下げた。


「碧葉。昨日は、済まなかった。だが、私の気持ちは変わらない。そなたが、身分や歳を理由に私を拒むのなら、私がその全てを乗り越えてみせる。必ず、そなたを守り、幸せにする。だから、どうか…私の隣にいて欲しい」


凛の言葉は、まるで初夏の風のように、碧葉の心を優しく包み込んだ。碧葉は、震える手で、凛の顔に触れた。


「若君…」


碧葉は、凛の澄んだ瞳の奥に、自分へのまっすぐな愛と、未来への揺るぎない決意を見た。もう、迷いはなかった。


「…はい。わたくしで、よろしければ…この身、喜んで若君のお傍に…ずっと、お仕えさせてください…」


そう告げると、碧葉は、凛の胸にそっと顔を埋めた。

凛は、碧葉の華奢な体を、壊れ物のように優しく抱きしめた。碧葉もまた、彼の背中にそっと腕を回し、顔を彼の胸元に擦り寄せる。その背中を、何度も何度も撫でる。碧葉の温もりと、淡い花の香りが、凛の心を安堵と至福で満たした。


「碧葉…!ありがとう…!愛している…」


凛の耳元での甘い囁きに、碧葉の頬が熱くなる。

凛は、そっと顔を上げ、碧葉の潤んだ瞳を見つめると、その頬に、優しく口付けを落とした。


「んっ…!」


碧葉の小さな吐息が、凛の唇に触れる。

二人の間に流れる時間は、宮廷の喧騒から切り離された、甘く、尊いものだった。

そして、凛は碧葉を抱きしめたまま、耳元でそっと囁いた。


「もう二度と、私の前から逃げないでくれ。そなたは、私のものなのだから」


碧葉は、照れながらも、凛の腕の中で深く頷いた。


その日から、凛と碧葉は、朱華と雪藍の公認のもと、晴れて恋人として愛を育み始めた。

もちろん、宮廷中がこの報せに騒然となった。


「あの凛様が、侍女の碧葉と…!?」

「身分違いも甚だしいと、最初は皆がざわめいたわね。でも、殿下と妃殿下が認められたと聞けば、誰も何も言えなくなったわ」


侍女たちの間では、碧葉への驚きと祝福、そして淡い羨望の声が飛び交った。


「まさか碧葉が!でも、若君とあんなに素敵なお二人なら、心から応援したくなるわ!」と、葵が興奮気味に言えば、菫も「まるでおとぎ話のようだわ…!」と目を輝かせる。


葵と菫は、最初こそ驚いたものの、凛と碧葉が幸せそうに寄り添う姿を見るうちに、心から二人の幸福を願うようになっていた。


凛は、もう隠すことなく、書庫や庭で碧葉の手をそっと握ったり、彼女の髪を優しく撫でたりするようになった。時には、広間で少し親密に談笑する二人を見て、「あらまあ」「きゃあ!」と、侍女たちが顔を赤らめる光景も珍しくなかった。

碧葉もまた、彼の愛情に包まれ、以前よりも一層柔らかな笑顔を見せるようになった。


彼らの恋は、身分や歳の壁を乗り越え、静月殿に新たな温かい光を灯した。

二人の未来は、朱華と雪藍の祝福、そして宮廷の人々の見守る中で、希望に満ちたものとなるだろう。

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