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「凛と碧葉の恋物語」:第4部「切ない告白と涙の拒絶」

碧葉に自身の特別な想いを間接的に伝えて以来、

凛の心は、もはや後戻りできない情熱に燃え盛っていた。碧葉の瞳に宿った戸惑いと、それでも彼の言葉を受け止めてくれた姿が、凛に告白への決意を固めさせた。この感情は、もう隠し通すことはできない。


凛は、碧葉への告白を決意してから、ひどく落ち着かない日々を過ごしていた。夜は眠りが浅く、書物を手にしても内容が頭に入らない。

いつ、どこで、どのように想いを伝えるべきか、何度も何度も頭の中でシミュレーションを繰り返した。

手のひらには常に汗が滲み、鼓動は荒々しく胸を打ち鳴らしていた。しかし、この情熱を碧葉に伝えなければ、彼の心は張り裂けてしまいそうだった。


ある日の夕刻、雪藍の元へと書物を届けに行った碧葉が、帰り道で凛に呼び止められた。

人気のない中庭の片隅、夕陽が石畳を赤く染める中、凛は、いつもよりずっと真剣な表情で碧葉を見つめていた。彼の声は、わずかに震えていたが、その瞳の奥には、揺るぎない覚悟と、彼本来の聡明さとは異なる、激しい情熱が宿っていた。


「碧葉。少し、時間をもらえるか」


碧葉は、そのただならぬ雰囲気に、胸騒ぎを覚える。


「は、はい、若君」


碧葉の返事に、凛は一つ深く息を吐いた。


「碧葉…。そなたを、したっている」


その言葉は、まるで夕焼け空に響く鐘の音のように、碧葉の心臓を強く打ち鳴らした。凛のまっすぐな視線が、碧葉の心を貫く。


「姉上への親愛とは異なる、異性への、恋慕れんぼの情だ。そなたを想うと、胸が締め付けられ、

他の誰とも笑い合って欲しくないと思ってしまう。

そなたの全てが、私にとって何よりも尊い」


凛は、絞り出すように言葉を続けた。彼の真剣な告白が、碧葉の心に深く、深く突き刺さる。


「どうか、私の隣にいて欲しい。この身分や立場を、私が必ず乗り越えてみせる。だから…」


凛は、碧葉の手をそっと取り、その白い指先に、熱い自分の指を絡ませた。


碧葉の瞳から、一筋の雫が、はらはらと溢れ落ちた。彼女は、凛の真摯な眼差しと、自分を包み込むような温かい手に、どれほど心が揺さぶられているかを感じていた。凛の情熱が、彼女の心を甘く震わせる。

碧葉の心は、目の前の凛に飛び込みたい衝動と、決して許されない現実との間で激しく揺れ動いた。

凛への想いは確かにそこにある。

しかし、それと同時に、宮廷の厳しい現実と、二人の間の埋めようのない身分差、そして五つという歳の差が、鉛のように重くのしかかった。


「わ、若君…っ」


碧葉は、涙で潤んだ瞳を必死に凛の顔に向けた。


「…若君のお気持ち、本当に嬉しゅうございます。

わたくしも………若君には、この上なく惹かれております」


碧葉の声は、震え、途切れ途切れだった。

その本心が滲み出る言葉に、凛の胸は一瞬、期待で膨らんだが、次の瞬間、その期待は打ち砕かれた。


「…ですが、私など、若君には…釣り合いませぬ。

若君には、この国の未来を背負う御身として、

もっと、年相応の、そして身分相応の、姫君がいらっしゃいます…!」


碧葉は、溢れる涙を拭いもせずに言葉を続けた。


「わたくしは若君より五つも年上でございますし、

ただの一侍女。この恋は、決して許されるものではございません。わたくしのような者が、お傍にいては、若君の御迷惑になるだけです…!」


碧葉は、凛の手からそっと自分の手を引き抜くと、後ずさりする。


「…どうか、お忘れください。わたくしのような者は、若君のお心にお仕えする資格など…」


碧葉は、それ以上言葉を続けることができなかった。彼女は、凛への想いを胸に秘めながら、彼の胸を張り裂けそうなほど痛めつけることを知りながら、苦渋の決断を下したのだ。


凛は、碧葉の言葉と、彼女の潤んだ瞳に宿る深い悲しみに、全身の血が凍り付くような絶望を感じた。


「馬鹿なことを言うな、碧葉!身分も、歳など、私には関係ない!私はそなたが良い!私が必ず、そなたに釣り合う立派な男に成長してみせる!だから…!」


凛は碧葉の手を取ろうとしたが、碧葉は首を横に振り、そのまま逃げるように駆け出してしまった。


「碧葉…っ!」


凛の叫びは、夕暮れの中庭に虚しく響き渡るだけだった。彼は、その場に立ち尽くし、碧葉が去っていった方向を、ただ呆然と見つめるしかなかった。

彼の胸には、初めて味わう、激しい絶望が渦巻いていた。


その日の夜、雪藍は凛の私室を訪れた。

いつもは整然としているはずの部屋は、どこか乱雑で、凛の姿が見当たらない。

雪藍は、ふと、窓の外の庭を眺めた。満月が静かに輝く中、凛が中庭の片隅で、膝を抱え込むように座っているのが見えた。


雪藍は、すぐに彼の元へと駆け寄った。


「凛!どうしたの、一体…」


凛は、姉上の声に顔を上げた。その瞳は、赤く腫れ上がり、絶望の色で染まっていた。


「姉上…っ」


凛は、雪藍の姿を見ると、堪えきれずに涙を流し始めた。彼が、ここまで感情を露わにすることは、雪藍の知る凛の姿からは想像もできないほどのことだ。


「…碧葉に…振られてしまいました…」


凛は、震える声で、ようやくそれだけを告げた。

雪藍は、凛の言葉に息を呑んだ。弟の心が、こんなにも深く傷ついていることに、彼女は胸を締め付けられるような痛みを感じた。


(…凛が、こんなにも本気だったなんて…)


雪藍は、凛の背中にそっと手を回し、優しく抱きしめた。


「…大丈夫よ、凛。…全て、姉上が何とかするわ」


雪藍は、弟の背中を優しく撫でながら、その夜、朱華の書斎へと向かった。彼女の胸には、弟への深い愛情と、二人の恋を成就させてあげたいという強い願いが溢れていた。凛の絶望を目の当たりにし、碧葉への彼の想いが、想像以上に深く真剣なものであることを痛感した雪藍は、この事態を朱華に相談するしかないと決意したのだ。このままでは、凛の心が壊れてしまう。


朱華は、自らが過去に身分を越えた恋に苦悩した経験がある。きっと、凛の気持ちを理解してくれるはずだと、雪藍は信じていた。朱華の書斎の扉を叩く雪藍の手は、凛の未来への希望で震えていた。

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