表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

63/100

「姉上のお買い物は、誰が護衛する?」

章1:贈りものの計画


穏やかな昼下がり、雪藍は静月殿の一室で、そっとため息をついた。

傍らには、侍女である碧葉、葵、菫が控えている。


「…朱華様は、近頃ずっと政務でお忙しいご様子。凛も、まだ宮廷の暮らしには慣れぬでしょう。

お二人の心が、少しでも安らぐような贈りものをしたいのです」 


雪藍の言葉に、侍女たちの顔がぱっと華やいだ。


「まあ、素敵ですわ、雪藍様!」


雪藍は微笑むと、計画を打ち明けた。

朱華様には、執務中に心を鎮められるよう、特別な配合の香木を。

そして、まだ自分の物が少ない凛には、肌触りの良い上質な絹で、新しい普段着を仕立ててあげたい。

そのための材料を、自分の目で見て選ぶため、彼女は「お忍びでの市場へのお出かけ」を計画していたのだ。


その計画をどこからか聞きつけた凛が、すっと雪藍の前に現れた。


「姉上。そのお出かけ、俺がお供します。城下の輩から、姉上を完璧にお守りします」


その真剣な眼差しに、雪藍が「ありがとう」と微笑んだ、その時だった。


「いや、待て」


執務を終えた朱華が、部屋に入ってきた。


「妃の護衛は、夫である俺の役目だ。凛、お前は留守を頼む」


「…姉上の護衛に、兄上のお許しは必要ありません」


火花を散らす二人を見て、雪藍は困ったように笑うしかなかった。


「…では、三人で参りましょうか」


こうして、少し奇妙な、三人でのお買い物デートが始まった。


章2:護衛対決と、かんざしの攻防


城下の市場は、活気に満ちていた。

雪藍が人混みに目を輝かせていると、その右腕を朱華が、左腕を凛が、それぞれがっちりと掴んでガードした。


「しゅ、朱華様、凛…これでは、歩けません…」


「黙れ。はぐれたらどうする」


「姉上、危険です」


二人の声が、綺麗に重なった。


一行は、美しい簪を売る露店で足を止める。

凛が、銀細工の、繊細で趣味の良い簪を指差した。


「…姉上。こちらの銀細工の方が、姉上の髪の美しさを引き立てるかと」


「いや、雪藍にはこちらがいい」


朱華が手に取ったのは、瑠璃と宝石で飾られた、豪華絢爛な簪だった。


「国一番の宝には、国一番の宝石を」


「…華美すぎます。姉上の本来の美しさを損なう」


「俺の妃を飾るのに、華美すぎるということはない」


二人は、簪を挟んで火花を散らす。困り果てた雪藍は、

結局、「お二人のお気持ちだけで十分ですわ」と、どちらも受け取らずに、そっとその場を離れた。

残された二人の男は、少しだけ気まずそうに顔を見合わせるのだった。


章3:本当の贈り物と、家族の帰り道


簪の攻防で少し疲れた三人は、川辺の茶屋で一休みすることにした。

朱華と凛が、まだ少し気まずい雰囲気でいる中、

雪藍が「実は…」と、今日こっそり買っておいた二人への贈り物を、それぞれの前に差し出した。


朱華へは、彼が執務中に心を鎮められるよう、特別な配合の香木。

凛へは、彼が読んでみたいと言っていた、難しい歴史書。


「…お二人とも、今日はわたくしのために、ありがとうございました。これは、ほんのお礼です。

…わたくしには、高価な簪よりも、お二人がそばにいてくださることの方が、ずっと嬉しいのですから」


予想外の贈り物と、その言葉に、朱華も凛も、完全に不意を突かれた。

自分たちが彼女に何かを与えることばかり考えていて、彼女が自分たちのために何かを用意してくれていたことに気づき、感動で言葉を失う。


帰り道。

朱華は、照れくさそうに、しかし以前よりもしっかりと雪藍の手を握っていた。

凛は、少しだけ距離を置いて後ろを歩きながら、贈られた本を、宝物のように大事に抱きしめている。

その横顔には、これまで見せたことのない、穏やかで、満足そうな笑みが浮かんでいた。


その光景は、誰が見ても、温かい「家族」そのものだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ