「新しい家族の誓い」
章1:逆賊の末路
凛の魂からの叫びは、祝宴の喧騒を切り裂いた。
「この笛には毒が!我が姉君と兄君…皇太子殿下と妃殿下を害そうとする、逆賊がいるぞ!」
広間は一瞬にして凍りつき、次の瞬間、怒号と悲鳴に包まれた。
「者共、出会え!」
朱華の鋭い号令と共に、隠れていた近衛兵たちが一斉になだれ込む。
反乱分子たちは、狼狽しながらも最後の抵抗を試みようとするが、もはや後の祭りだった。
覚悟を決めた凛が、震える指で、しかし正確に、陰謀の首謀者たちを一人、また一人と指し示していく。
彼らはなすすべもなく取り押さえられ、広間にはやがて、秩序と、そして重い静寂が戻ってきた。
章2:ただいま、姉上、兄上
事件が収束した後、静月殿の一室に、凛は呼ばれた。
彼は、朱華と雪藍の前に進み出ると、裁きを待つ罪人のように、静かにひざまずいた。
その顔は蒼白だったが、灰色の瞳は、まっすぐに床の一点を見つめている。
「凛。お前は、俺を殺そうとした男たちの側にいた。弁解は?」
朱華の声は、静かだったが、有無を言わさぬ重みがあった。
凛は、震える声で答えた。
「…ありません。ですが、俺は…姉上を、裏切ることはできませんでした」
その言葉に、雪藍はそっと彼の前に進み出ると、同じようにひざまずき、その視線を合わせた。
「凛。顔を上げなさい」
彼女の声は、どこまでも優しかった。
「あなたは、誰よりも勇敢でした。ありがとうございました」
凛の瞳が、驚きに見開かれる。その彼の方に、朱華がそっと手を置いた。
「そうだ。お前は、最後の最後で、我らを選んでくれた。…罪を問うつもりはない。その代わり、罰を与える」
凛の肩が、びくりと跳ねた。
「今日からお前は、俺の弟となり、雪藍の弟となる。俺たちの側で、生涯をかけて、
この国と、そして俺たち家族を守り続けろ。…それが、お前への罰だ」
罰。それは、凛が生まれて初めて与えられた、あまりにも温かく、そして甘い「罰」だった。
「…あ…」
彼の灰色の瞳から、こらえきれなかった涙が、ぽろぽろと零れ落ちる。
「う…ああ…っ」
それは、両親を失ってから、決して誰にも見せなかった、初めての涙だった。
雪藍は、その小さな背中を優しく抱きしめ、朱華もまた、その震える肩を、大きな手で包み込んだ。
「ただいま、戻りました…。姉上、兄上…」
三人の間には、血の繋がりを超えた、「家族」が誕生した瞬間だった。
章3:慈しみの夜(最終稿)
その夜。
ようやく眠りについた凛の部屋を、朱華と雪藍は静かに見守っていた。
その寝顔は、これまでのどの夜よりも、穏やかに見えた。
二人は、月明かりが差し込む回廊を、静かに並んで歩く。
「…わたくしち、親のようになったのでしょうか」
雪藍の囁きに、朱華は微笑んだ。
「かもしれぬな。だが、悪くない。…守るべきものが増えるのは、男にとっては、強さの証だ」
彼は、雪藍の手をそっと握る。
「そして、お前は今日、素晴らしい母親の顔をしていた。…その顔を、今夜は、俺だけの妻の顔に戻してやる」
静月殿の寝所に戻ると、二人はどちらからともなく、互いの衣に手をかけた。
それは、いつものような性急なものではない。一日の緊張と興奮を、互いに解きほぐし、労うような、慈しむような手つきだった。
朱華は、凛を諭した雪藍の唇に、賞賛を込めて口づける。
雪藍もまた、凛を弟として受け入れた朱華の広い胸板に、尊敬を込めて頬ずりをした。
「今日の雪藍は、まるで聖母のようだった」
寝台の上で、朱華は雪藍の柔らかな肌を、祈るように両手で包み込んだ。
「朱華様こそ。あの子を罰するのではなく、弟として受け入れた。…王の器を見ました」
雪藍は、彼の逞しい腕にそっと指を絡める。
「ならば、王の褒美だ」
朱華はそう囁くと、雪藍の唇を深く貪り、舌を絡ませる。それは、ただひたすらに甘く、優しい口づけだった。
雪藍は、彼の首に腕を回し、その愛情のすべてを受け入れる。
その夜の二人は、ただ欲望を満たすためではなく、今日という日に得た新しい家族の誕生を祝い、傷ついた互いの魂を癒し合う、慈しみに満ちた交わりを求めた。
肌を重ね、互いの熱を分け合いながら、二人の魂は静かに、そして深く結ばれていく。
事が終わった後も、彼は彼女の身体から離れず、そのまま背後から抱きしめる。
「…凛も、こうして誰かに抱きしめられて、眠るべきだったのだな」
彼の腕の中で、雪藍は幸せに満ちた声で答えた。
「ええ。…でも、これからは、私たちがおりますから」
その声は、恋人でも、夫婦でもない。
新しい家族を築いた、母の優しさに満ちていた。
朱華は、そのあまりの愛おしさに、彼女の背中に、もう一度、深く口づけを落とした。




