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「瑠璃色の瞳に誓う、砂漠の旅⑥」(旅の終わりと未来の約束)

宮殿の私室に戻ると、雪藍は朱華の上衣の腕に、わずかに血が滲んでいるのに気がついた。

「朱華様……! お怪我を…!」


朱華はこともなげに笑う。

「ああ、賊の刃が少し掠めただけだ。気にするな」

「気になります!」

雪藍は薬箱を手に取ると、彼のそばに膝をついた。震える指で衣をまくると、

そこには浅いとはいえ、生々しい切り傷があった。


「私のために、このようなお怪我を……」


「(優しく微笑み)この程度の傷、お前の心痛に比べれば何でもない。

だが…お前にこうして触れられるのなら、悪くないな。むしろ褒美だ」


「まあ…!そのような冗談ばかり仰って。…でも、あなたの痛みが、私の痛みと同じなのです。

どうか、ご自分をもっと大切になさってください」


雪藍は涙をこらえながら、震える指で丁寧に傷口を清め、布を巻く。

朱華はその姿を愛おしげに見つめ、手当てが終わった彼女の手を優しく握りしめた。

傷の痛みよりも、彼女の温もりの方がずっと強く心に染み渡っていく。


砂漠の地平が、淡い朝焼けに照らされていた。

朱華と雪藍は並んで歩みを進め、ひと晩を共にしたオアシスの都を後にする。

襲撃の緊張はまだ身体に残っていたが、互いに手を握り合うたびに心は静かに解けていった。


やがて、遠くから懐かしい香りが漂ってくる。

伽羅や白檀の香が朝の風に乗り、二人を包み込む。

雪藍は目を閉じ、深く息を吸い込んだ。


「……都の香り。懐かしくて、胸が温かくなります」

朱華は彼女の横顔を見つめ、頬にかかる髪をそっと指先で払った。


「俺にとっては、お前と一緒に帰るからこそ懐かしく感じるんだ」

その甘やかな囁きに、雪藍の頬はたちまち朱に染まった。


宮殿に辿り着いた二人を迎えたのは、近習や臣下たちだった。

雪藍の無事に安堵しながらも、視線はすぐに朱華へと集まる。

すると彼は、得意げに胸を張って声を上げた。

「盗賊どもが襲いかかってきたが、俺が雪藍を守り抜いた! 一人残らず退けてやったぞ!」


次の瞬間、容赦ない叱責が飛んだ。

「殿下! 護衛もつけずに旅に出られるなど、軽率にもほどがあります!」

「お命を何と心得ておられるのですか!」


鼻高々の笑顔は一転、朱華は肩をすくめて小さく唸った。

「……せっかく格好つけたのに、これじゃ締まらんな」

そのぼやきに、雪藍は堪えきれず小さく笑みをもらした。


叱責が一段落した後、年配の側近が心配そうに口を開いた。


「殿下、雪藍様をお守りになられたお気持ちは分かります。

ですが、殿下のお身に万が一のことがあれば、この国がどうなるか…!」


「(静かに頷き)分かっている。だが、俺にとって雪藍を失うことは、この国を失うのと同じことだ。…いや、それ以上かもしれん」


その言葉に臣下たちは息を呑む。朱華は雪藍の手をそっと握り、穏やかな表情で続けた。


「雪藍がいるからこそ、俺はこの国を守れるのだ。皆も覚えておいてくれ」


雪藍は驚きと感動で頬を染め、朱華を見つめる。二人の絆の深さを目の当たりにし、臣下たちはそれ以上何も言えなくなった。


やがて人払いがされ、二人きりになった廊下を歩く。

朱華は歩みを緩め、ふと雪藍の手を取った。


「雪藍。……怖い思いをさせたな」

「いいえ。朱華様がいてくださったから、私は怖くなかったのです」

朱華は立ち止まり、彼女を抱き寄せる。


「次からは護衛も連れて行こう。だが……お前を守るのは、俺だけだ」

低い囁きに、雪藍の心は甘く震え、自然と胸へと身を預けた。

「…はい。朱華様だけに、守られていたい」


窓の外には朝日が昇り、都の塔から香の香りが漂ってくる。

その中で、朱華はふと遠くを見つめて微笑んだ。


「いつか、また旅に出よう。今度は護衛もつけて…だが、どんな土地へ行ってもお前と一緒だ」

雪藍は驚いたように目を瞬き、やがて柔らかく微笑んだ。

「はい……どこへでも、朱華様となら」


その答えに朱華は安堵の息を吐き、雪藍の額へそっと口づけを落とした。

香り高い都に帰り着きながらも、二人の心はすでに未来の旅路へと向かっていた。


朝焼けに染まる璃州国の宮殿を背に、

二人の絆はかつてよりも強く――そして甘く結ばれていた。

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