表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

100/100

「最終章・第三部:黎明の産声③」

第三話:真実の絆の物語


あれから、三年。

璃州国には、穏やかな日々が戻っていた。北の脅威は去り、朱華は皇太子として、父である皇上を支え、国に新たな繁栄をもたらしていた。


静月殿の庭には、いつも子供たちの楽しげな笑い声が響いている。


「こら、(れい)様!お待ちくださいませ!そちらへ行ってはなりませぬ!」


侍女の葵が、少し腕白(わんぱく)な兄王子を、半泣きになりながら追いかける。

黒曜石の瞳を持つその子は、父である朱華によく似て、幼いながらも凛々しい顔立ちをしていた。


「まあ、葵ったら。瑠璃るり姫様が、驚いてしまいますわ」


碧葉が、まだよちよち歩きの妹姫を、優しく抱き上げる。

瑠璃色の瞳を持つその子は、母である雪藍の面影を宿し、生まれながらにして、花の香りに敏感な、不思議な才を持っていた。


「ふふ、二人とも、本当に元気ですこと」


雪藍は、縁側でお茶を飲みながら、その光景を、どうしようもないほどの愛おしさに満ちた瞳で見守っていた。


「全くだ。俺の妃の時間を、あの二人に奪われてばかりで、少し妬ける」


隣に座る朱華が、わざとらしく拗ねてみせる。

そして、雪藍の肩を抱き寄せると、その唇に、甘い口づけを落とした。


少し離れた場所では、凛と碧葉が、その光景を微笑ましく見守っている。

十八歳となった凛の灰色の瞳には、もはや氷の影はなく、ただ、家族を見守る青年の、穏やかで温かい光だけが宿っていた。


「姉上も、兄上も…本当に、お幸せそうだ」


その呟きに、碧葉はこくりと頷き、凛の手に、そっと自分の手を重ねた。

凛は、その温かい手を握り返すと、視線は幸せそうな家族の姿に向けたまま、静かに、しかし確かな決意を込めて、碧葉にだけ聞こえる声で囁いた。


「…碧葉。…俺も、いつか、お前との子を、兄上のように、この腕で教えてみたいものだ。剣の、使い方を」


その、あまりに不器用で、しかし、これ以上ないほど真摯なプロポーズの言葉に、碧葉は息を呑んだ。

彼女の瞳から、一筋、幸せの涙がこぼれ落ちる。

彼女は、何も言わず、ただ、繋がれた凛の手に、ぎゅっと力を込めて応えるだけだった。


その日の夕刻。

庭では、朱華が息子の黎に、木剣の手ほどきをしている。

雪藍は、娘の瑠璃を腕に抱き、その様子を眺めていた。

瑠璃は、雪藍が髪に挿した白梅の花の香りを嗅いでは、きゃっきゃっと嬉しそうに笑っている。

凛と碧葉が、その隣に寄り添い、侍女たちが、楽しげに菓子を運んでくる。

それは、血の繋がりを超えた、「本当の家族」の、完璧な肖像画だった。


やがて、朱華は稽古を終えると、雪藍の隣に腰を下ろした。

彼は、雪藍の腕の中にいる娘を覗き込み、そして、自分の足元で剣を振るう息子を見つめる。

その瞳は、国の未来を見据える王のものではなく、ただ、愛する家族の幸福を噛みしめる、一人の男の顔をしていた。


彼は、雪藍の肩を抱き寄せると、子供たちを腕に抱いたまま、その唇に、静かに、しかし深く、口づけを交わした。

夕陽が、彼らの姿を、黄金色に染め上げていく。


「ここからが、我らの本当の物語の始まりだな」


その朱華の言葉に、雪藍は、最高の笑顔で、こくりと頷いた。

偽りの罪にまつわる物語は終わり、ここから始まるのは、真実の絆で結ばれた、永遠に続く、愛の物語。

その確かな予感を胸に、二人は、ただ、静かに、幸せの時を分ち合うのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ