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02_襲撃

 車が止まったことを認識した瞬間、翼は瞬時に動いた。

 心桜の腕を引き、自分の後ろへ立たせると、迷いなく傘を広げる。


 黒い覆面を被った男が2人、後部座席から飛び出て心桜に手を伸ばす。

 

「邪魔だ!」


 そう言って傘を振り払おうとした男に対して、翼が次にとった行動は――


 ――漆黒の木刀を男の脳天に打ち込んだ。


「……は?」

「え?」

 

 死角からの一撃にただ崩れ落ちる男。

 その突然の光景に、もう1人の男も、背後にいる心桜も呆けた声を出している。

 

「……仕込み傘か。姑息な真似を」


 車の運転席から出てきた大柄な男が舌打ちとともに翼を見据える。


「死にたくなかったらそこの女を差し出せ」

「……お嬢様、下がっていてください」

「は、はい」


 翼はそうやって柄のない傘を広げたまま心桜へ渡す。傘は妨害にも投げ物にも対応できるため、一先ず背後の心配はいらないだろう。

 それよりもこの拉致計画の先導を任されていると思しき運転手の男は、他2人と比べて明らかに雰囲気が違う。

 翼は手首に巻いている緊急信号のスイッチを押し、正面の男に向き直る。


「おい」

「……分かりました」


 その短いやりとりで、男2人は腰からナイフを取り出した。明確な殺意を目にした心桜が背後で短く息を呑むのを感じ、翼が一歩引くことでさらに後ろへ下がらせる。


 (あとの1人は間違いなく経験者か)


 ナイフで刺殺することに躊躇いがない鋭い眼光を見て、翼は一層身を引き締め木刀を握り直した。


「お前が木刀を奪え。後で俺が刺し殺す」

「っ、はい……」

「いくぞ」


 合図と同時に男2人が走り出したその瞬間、大柄な男が腕を振りかぶってナイフを投げつけてくる。


(避けれない――)


 後ろに心桜がいるというのがあるが、それよりも刺し殺すと印象付けられていたのが大きいだろう。

 ただ注視はしていたため、腕が反射で動き、木刀でナイフを打ち落とすことには成功した。

 しかし木刀を振りぬいてしまい振り返せない。ナイフとのリーチ差があるため木刀の奪取を最優先で狙われたと察する。ナイフの速度も翼が当てられるように加減されていたんだろう、まんまと相手側の動きに乗せられてしまっている。

 もう1人の男がそのまま翼との距離を詰め、木刀をはたきおとすため、腕にナイフを振りかぶったところを目でとらえた。


「がっ!?」


 その空いた胴体に蹴りを入れる。蹴りの勢いのまま、男は後ろへ倒れ込んだ。

 腕を振り抜いた状態だったため、その反動で脚を前に突き出すことで瞬時に反撃に成功し、的確に急所を突いた。命令された相手は素人のようなので、これでかなりの時間が稼げるだろう。


 そしてもう1人の男を見やれば、すでに翼の懐に入り、拳を一閃していた。


「っ――」


 凶器は持っていないが、体重の乗った一撃に、腹部を伝って衝撃が体を突き抜ける。

 そのまま逆の拳で追撃を狙うさまを捉え、片腕で顔をガードする。

 男はこれで決める気だったのか顔を的確に狙ってきたので、ガードに成功し、その勢いのまま翼は一歩下がる。


 確実に拳が入ってしまった腹部をおさえ、膝をつく。


「やめて!」


 背後から心桜の静止の声が響くが、膝をついた以上、男からの追撃は免れない。おそらく頭上から意識を刈り取る殴打が飛んでくるだろう。

 空いた一歩を詰めるように、男の足が前に伸びた。


 だが翼はすぐさま顔を上げて、男の顔を見やる。

 膝をついたのはブラフだ。


「なっ!?」


 男の目に驚愕が映る。

 腹部を押さえていた逆の手で木刀を振り上げる。


 攻撃態勢に入っていた男の間合いよりも長く、早く、木刀が男の顎を捉える。


 獲物を伝って確かな手ごたえを感じながら、男の拳を受け流す。

 とどめの一撃に意識を持っていかれていたのだろう、防御する間もなく男の急所に命中し、脱力したまま前へ倒れた。


(危なかった……)


 この中でも強敵と思しき相手の意識を刈り取り、ようやく一息をつく。

 残る襲撃犯は腹部に蹴りが入ったダメージにまだうずくまっており、ひと先ず確保は難しくない。

 その背後に近づき、近くに落ちていたナイフを遠くへ蹴り飛ばす。


「……あとはあなたで終わりだ。すでに応援も呼んでいる。大人しくしていろ」

「く、そが……」


 口汚く吐き捨てられたが、司令塔の男が昏倒しているためか、目に覇気はない。呼吸もままならない状態なので、すぐには動けないだろう。

 反撃の意思がないと判断し、心桜に歩み寄った。


「お嬢様、大丈夫ですか?」

「……わ、たしよりも、あなたが」

「私は問題ありません」


 いまだに衝撃が抜けないのか、体だけでなく声も震わせながらも、翼の体を心配する心桜。問題ないといいのけた翼に対して訝しげな視線を向けている。

 大柄の男の一発を見舞われて、当然ながら無事でいられるわけがない。あの男も膝をつくことがブラフなわけがないと思っていただろう。

 しかし翼は生まれながらにして護衛に特化した訓練が施されているため、殴打の痛覚に耐性がある。事後となった今は痛みはあれど、痛みに慣れているためさして支障はない。

 それを心桜に説明する間もなく、別の車が近くに止まり、中から出てきた女性が翼に話しかける。


「283、ご苦労。あとはこちらで対応する」

「はい」

「……その腹部、次はないと思え」

「申し訳ございません」


 番号を呼ばれた女性に一言告げられ、翼は頭を軽く下げる。

 それ以上はないのか、女性はこちらから視線を外し、他に車から出てきた数人と襲撃犯に近づいて行った。

 現場の収拾はあちらでつけてくれるだろう。他に目撃者が出て変に目立つ前に帰宅すべきと心桜の持っていた傘を受け取る。


「それでは帰りましょう」

「……あの人たちは?」

「小宮家のものです。襲われた際に私が呼びました。援軍とお嬢様の避難のためですが、今回はそこまで時間がかからなかったので、現場の事後処理をやることになると思います」

「警察は……」

「襲撃の後続を断つ意味でも情報を自分たちで早く抜かないといけませんので。犯人の身柄をこちらでおさえておきたい、といった感じです」


 さあ行きましょう、と翼が声を掛けると、気を持ち直したのか心桜も歩み始める。

 ここに留まり続けるのも良くないので、足早に帰路を辿るが、張り詰めた空気は残り続けた。

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