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Causal flood LacusAgri  作者: 山羊原 唱
8/18

六話 〝青年〟

 第一調査隊壊滅から三年後、第二調査隊と〝イング〟の双子艇〝フレイア〟がラクスアグリ島に辿り着いた。


 シンが「女性がラクスアグリ島に入ると異常者になる」と報告したため、第二調査隊は男性だけで編成された。


 フェイジャースレサーチャーは三名。

 ローレンス・ジョゼ(五三歳)

 カイン・ジル・フォーレン(四七歳)

 ソーマ・フォルステライト・ティム(三〇歳)


 軍人は軍医を含めて三名。

 そして精密兵器が三騎。軍人の判断で起動できるようにされた特別な三騎だ。

 第一調査隊よりも武装に特化した第二調査隊は。


 三日で全滅したと言われた。



一日目。

 第一調査隊が全滅したと言われ、島の脅威を調べるべく、軍人の下見が先に行われた。


 軍人二名はすぐに洞窟の入口まで辿り着いたが、中に踏み入る前にある音に気が付いた。

「…子供の声じゃないか?」

 洞窟を囲う森林の深くから、子供の笑い声が聞こえたのだ。

 両者は顔を見合わせ、気配を殺してその声の方へ向かった。


「おい、まさか…」

 目の前の光景に軍人二名は声を震わせる。

 青い蝶を追いかけまわして遊ぶ、二、三歳くらいに見える二人の子供がいた。

 鏡映しのようにそっくりで、違うところといえば瞳の色くらいだ。

「〝フレイア〟。この距離であの子供の生体信号を読み取れるか?」

 軍人は小型端末を子供の方に向けた。数秒して、〝フレイア〟が端末の画面にある画像を表示した。

〝イング〟で撮られた双子の胎児の3Dエコー写真だ。

「限りなくこの生命体に近い、だそうだ」

 一人の軍人がもう一人にも見せる。二人は苦い表情を浮かべ、最悪の推測にいきつく。


 第一調査隊を壊滅させた罪人は死んでいなかったのだと。


 軍人の一人が静かに銃口を向ける。照準は瞳が緑色の子供の方だ。

 しかし、もう一人の軍人が手で制止した。アセンションを取り出して音が出ないように体に含んだ。

 聴覚や気配察知能力を高め、周囲に〝敵〟がいないか警戒する。

「彼女が都市所属の軍人相手にどう生き残ったのか分かるまで、あの子供らは生け捕りにした方が良い」

 周囲に脅威がないと頷くと、銃口を向けていた軍人は装備をゆっくり下げ、子供たちに近づいた。



 その様子を、遠くから〝母親〟が観察している。

 木々に張り巡らせた金糸が音に振動して、子供や軍人の声が彼女の耳に届く。

 目を閉じて集中しながらも、やっと見つけた子供たちに呆れていた。

(…全くあの子たちは。洞窟から出ないでって言ったのに。今度はどこの抜け道から出ちゃったのかしら。子供の視点って把握しきれないものね)

 〝母親〟…遊び盛りの子供たちに手を焼くミュウ・朝香・スウィフトだ。

 呆気なく捕まった子供たちは「はなせ」だの「おかーさーん!」など叫んでいる。

 軍人を殺そうと思っていたミュウだが、軍人が発砲を中断したことで手を止めた。

(向こうは私がカルロスを殺したと思っているはず。沈没都市所属の軍人を殺せるだけの〝手段〟があると)

 冷徹な心構えと、都合の良い希望を抱いて、ミュウは愛しい我が子をひとまず見送った。



 三名のフェイジャースレサーチャーは潜水艇の拠点が見える範囲で島を散策していた。

 第二調査隊で一番若いソーマは青い蝶の様子に首を傾げた。

「報告書では人間を怖がらないとあったのに」

 青い蝶は第二調査隊を避けるように飛んでいる。大型蝶で羽の動かし方はゆっくりだが、明らかに人を嫌がっていた。

 そこへ、目がぱっちりとした明るい雰囲気のローレンスがやってきた。

「もっと笑いかけてみたらどうだ?ソーマの不愛想は筋金入りだから」

 ぽんぽん、と肩を叩かれ、ソーマはバカバカしいとため息をついた。

「蝶が人の表情を怖がっているとでも?いつもにこやかな貴方に寄ってこないんだから、無意味だよ」

「でもソーマ。見て。カインの残念な姿を。クールな二枚目で、研究室断トツで女性に人気のあるあの彼が。俺達の中で一番蝶に嫌われてる」

 気ままに散歩しているカインに飛び火し、そんな彼は改めて自分の周囲を見渡した。

「ほんとだ。僕が近づくと遠くにいる蝶も逃げてる」

 いっそ感心している彼をよそに、ローレンスが「花には好かれるのにねぇ」と軽口を叩いた。三人とも暇を持て余している。


 空がオレンジ色になる頃。下見に出ていた軍人二名が帰還した。

 ぎゃーぎゃーと喚く双子を連れて。


 夜。第二調査隊のメンバーが食堂に揃う。

 椅子には双子が縛り付けられていた。

 本部から明確な指示を受け、軍人は研究員に伝える。

「第一調査隊の壊滅経緯はご存じだと思うが、その原因となる人物が生きている可能性が浮上しました」

 軍人はつ、と視線を双子に送る。

「ミュウ・朝香・スウィフト。第一調査隊壊滅時に処刑対象として沈没都市に認定されている。そのため、我々は任務続行のためにもスウィフト隊員の処刑実行を急ぎます」

 頭の痛い話にローレンスはこめかみを抑えながら「一点だけ」と人差し指を上げた。

「第一調査隊が全滅と言われたのは、結局スウィフト隊員の生命信号も消えたから、と聞いている。妊娠経過的にまだ出産時期ではなかったことから、妊娠したままこの島で衰弱死したのだろうと。生命信号は〝イング〟が受信した情報だったはずなのに、辻褄が合わないんだが」

 ローレンスの疑問に、軍人はお手上げだ、と首を軽く振った。

「分からない。そもそもその〝イング〟の姿も見当たらないので今はなんとも…。でもなんであれ、こんな文明一つない島でこの歳の子供だけでは生きられないはず。今言えることとしては、スウィフト隊員が〝イング〟を所持している可能性が高い、ということでしょう」

 先ほどまでは元気よく喚いていた双子は、大人の緊迫感を次第に怖いと思い始めたようで今は静かだ。

 憐れに思ったソーマは「…大人しくしているし、解いたらどうだ?」と軍人に尋ねる。

 それに異を唱えたのは、ローレンスだった。

「ソーマ、よせ。同情していい命じゃない」

 動き出す前に腕を抑えられたソーマは、ローレンスの冷たさに目を剥いた。

「た、確かにスウィフト隊員には大きな嫌疑がかかっている。でも、この子たちはそんなこと知らないだろ」

「分かるだろ。妊娠の報告を受けていてなお、彼らがスウィフト隊員の処刑を命じられているということは、子供も含まれているんだ。かわいそうだが、俺達の任務とその子供たちの命じゃ重大さが釣り合わない」

 ソーマは言い返そうとしたが、他の隊員の顔つきを見て押し黙る。

 理解を示した態度のソーマから手を離し、ローレンスは軍医に向き合った。

「それで、君たちはなぜこの子供たちを連れてきた?処刑の対象だろ」

「無論、最終的にはそうします。だがまだスウィフト隊員の姿を確認できていない。夜も更けましたし、子供たちがいないことに気づくはず。誘き出して迎え撃つつもりです」

 そう言うと、軍医は双子を縛り直して、片方をわきに抱えた。

「わー!はなせ!うんち!」

「ティヤッ!ティーヤー!」

 抱えられた方が知っている言葉の中で最大限の暴言を吐く。

 残された方は舌足らずに片割れを呼んで泣き出した。

 またうるさくなった双子に構わず、軍医と軍人の二名が食堂を出る前に振り返った。

「一人使って様子を見てみる。護衛を一人残すので我々の任務が終わるまで、貴方たちは〝フレイア〟で待機を」

 引き止める間もなく、彼らは子供を連れて出て行ってしまった。



 わんわんと泣く子供に、ローレンスとカインは早々に食堂から出て行き、研究室へこもった。

 研究員の護衛のために残った軍人は食堂に残り、子供の見張りを続ける。軍人は最後に残っているソーマへちらりと視線を向けた。

「私はここにいなければいけませんが、貴方まで残らなくていいんですよ。お二人のように休まれて構いません」

 声をかけられたソーマはピクリと肩を動かし、ふる…、と弱く首を横に振った。

 そして一人分の距離を空けて、子供の隣に座る。

 少しだけ視線をやると、子供の服装に違和感を覚えた。

 大人のシャツだが双子が着るとワンピースのような丈になる。紺色の無地に、簡易的な蝶のデザインが刺繍されている。

 なんだか即席で作ったようで妙な違和感を覚えさせた。




 軍医と軍人が〝フレイア〟から出て洞窟を目指す。

 瞳が緑色の子供は軍医が抱え、軍人は球体の精密兵器を一騎、腰に下げている。

 二人はアセンションを服用し、周囲に注意を払っている。動物の特性により夜目が効き、虫の音もない森でも躊躇なく進んでいく。

 軍人が敵を察知し、小銃を構えた。軍医を庇うようにして前を歩いていくと、次第に柔らかな歌声が聴こえてきた。


 洞窟への道中、敵は彼らを待っていた。

「おかーさん!」

 子供が歓喜と恐怖の声を上げる。

 ミュウが大きな石の上に腰かけ歌っていた。

 子供に呼ばれたのでミュウは歌うことをやめ、軽く手を振ってやる。

 軍医と軍人は声が届く距離を残して立ち止り、軍医が子供を胸の前に抱えてミュウに見せる。

「ご自分の立場は理解されているな?」

 軍医の確認に、ミュウはただじっとして答えない。

 ミュウが黙っていると、子供がジタバタと手足を動かして抗議した。

「おかーさん!スラ、あっちのままなの!このっ、こいつぅ!」

 一生懸命に話す子供に、軍医が「黙れ」と低い声で言い含めた。

 初めて聞く男性の気迫ある声に、子供はひゅ、と喉を鳴らして黙る。


 銃口を向ける軍人はミュウに吐き気を覚えていた。

(…なぜ、青い蝶はあの女には近づくんだ?)

 木々の合間を縫って月光が照らす、彼女の周囲には。

 眠っていた青い蝶がみるみる集まっていく。

 銀と青の光が溶けあいながら軍人たちを睨んでいるようだった。

 軍医は表情を消し、子供の頭に銃口を当てた。

「先に処刑されることをお勧めする。我が子が殺されるところを、見たくはないでしょう」

 蝶の羽ばたく音も聞こえそうな静寂の中、くす、と小さな微笑みが落ちた。


 ミュウは自分に飛んできた一匹の蝶を指先で受け止めた。微笑したまま、蝶から軍人たちに視線を流す。

「ひどい人たちね。子供を殺すなんて残酷なことだと思わない?」

「軍人なものですから。大陸で研究員を護衛する際も、大陸の子供が武器を持って襲ってきたら始末しますよ。同じことです」

「そうね。人を殺して(武力をもって)でも守るべきものを、沈没都市はしっかり線引きをしている。そこに故郷や年齢は関係ない。ええ。愚問だった」

 ミュウの指先から蝶が離れた。

 蝶の羽ばたきに揺れて、ミュウの指先から伸びた金糸が月光の光を受ける。

 銃口を向けていた軍人は背中を切られたような寒気を感じ、「ドクター‼」と後ろの仲間へ声をかけた、

 瞬間。

 子供の服に仕込んでいた金糸が軍医の拳銃を弾き飛ばした。

 明らかに遠隔の攻撃だ。軍人は即座にミュウへ発砲しようと姿勢を直した。

 しかし、軍人がミュウをもう一度見るより先に、ミュウが座る石の裏から紙飛行機型が機、飛来した。

 ッッボッッ‼と爆発に似た勢いで、一機の紙飛行機型は軍医と軍人の顔面を貫く。

 そして二機は隠れていた球体状態の精密兵器に。

 戦闘時になれば球体から赤茶色の液体が噴出され人型を作る。子供を守りながら二機の精密兵器を相手する前に決着をつけた。



 軍医の手がはなれ、子供は金糸のネットに着地した。

「おかーさーん!たすけてー!はずしてー!」

 傍らで人が死んでいることが分からない幼子は、もがきながら必死に母を呼ぶ。

 ミュウはやれやれと苦笑と共に流れた汗を拭い、子供を迎えに行く。

 二人分の頭部を屠る威力は中々力を込めた。あれが外れていればアセンションで強化された軍人に距離を詰められていただろう。

 死体を見せないように子供を木陰に連れていき、ぷくぷくした頬を両手で挟んだ。

「ティヤ?洞窟から出ちゃだめって言ったでしょ?悪い子はしばらくこのままね」

「やだーあ‼やーだー‼」

 やんちゃなティヤの拘束はそのままにして、ミュウはよしよしと背中をさすってやる。

(子供を殺さない代わりに処刑されろ、とか言われると思ったら。案外素直だったものね)

 心理戦にすらならず、軍人たちはかなり自分を恐れていたようだとミュウは実感する。

(まあそうよね。都市の軍人と戦える人間なんて都市の軍人くらいだし。それを上回るとすれば、いまや…)

 茂みをかきわけ、破壊に成功した精密兵器を見つける。

 弱いものでも見るように見下ろして、彼女は〝フレイア〟へ歩み出した。



 スラは泣き疲れて項垂れていた。

 ソーマは静かにスラの様子を窺う。

 居たたまれなくなり、ウォーターサーバーで水を用意する。ストローを差してスラに与えようとした時。

「ティム隊員」

 軍人から注意を受ける。

 ソーマは「喚かれるのはごめんだろ」とささやかな説得を試みる。

 しかし、軍人はソーマの前に立ちふさがった。

「‥‥なんだ」

「ご自分の寝室に戻られて下さい。同情するだけなら罪ではありません。けれど、我々はラクスアグリ島から資源を持ち帰るためにここに来ています。未来の沈没都市のために」

「言われなくても分かっている」

「そうですか?それではその子供を処刑する際、貴方は止めないと誓えるんですね?」

 言葉に詰まったソーマに、軍人はいっそう冷ややかな目つきになる。

「誓えないのならここから出て下さい。…子供の死ぬところは、割り切っていないと後でこたえますよ」

 軍人なりの親切心は感じられた。それでもソーマは食堂の外へ足先が向かない。

 埒が明かないと軍人はソーマの腕を掴んで無理矢理追い出すことにした。

「ちょ、おい――おい!」

 ソーマが抵抗して踏み止まった、


 その時。

 ピィィィー……

 軍人の持つ端末が鳴った。

 軍人はソーマから手を離し、端末を急いで確認する。

 画面には〝KIA〟と表示されている。

 軍医ともう一人の軍人の、死亡を通知していた。

 乾いた音は次第におさまり、ソーマはハッとして「本部に連絡を!」と軍人を促した。


 軍人は少しだけソーマに顔を向けた。

「報告はティム隊員に任せます。私は子供の処刑を決行します。衛生上の問題がありますのでこれから外に出ます」

 スラを抱えるために小銃を背中に固定し、軍人は迷いなくスラに歩み寄る。

 怯え切った子供の顔を見て、ソーマは思わず軍人にしがみついて動きを止めた。

「待ってくれ!本部に報告して、子供の保護を打診させてくれ。子供は親のやったことなんて知らずに生まれてくるんだぞ。沈没都市の住民なら命の尊重くらいしたらどうだ‼」

 侮辱の言葉に軍人はソーマの胸倉を掴んでテーブルに倒すように押し付けた。

「イッ…‼こ、の…‼」

 呻くソーマの上から軍人は怒鳴った。


「そうだ‼我々は沈没都市の人間だ‼それは人間の未来を繋げる能力があると証明された人間を指す!だがこの子供らはなんだ⁉堕胎しなければスウィフト隊員は任務を遂行できない。産めば想定されていない資源が食いつぶされる。この子供らの肯定は‼理念の叛逆になるだろう‼――役に立つから――資源を残すから生きる価値があるんだ‼」


 軍人はソーマから手を離そうとしたが、今度はソーマが軍人の腕を抱き込むようにして抑えた。

 大人の男の取っ組み合いに、スラはまた泣き出してしまう。

 おかあさん、おかあさん、とむせび泣く子供の姿に、ソーマも遠慮がなくなった。

「おい‼走れるなら走れ‼左って言ってどっちか分かるか⁉この部屋を出たら左に曲がれ‼走れ‼」

「貴様…ッ」

 子供に向かって叫ぶソーマに、軍人は顔を歪ませる。

 スラは自分に叫ばれていると気が付き、椅子から転げ落ちた。小さく軽い体のおかげで両手が使えなくとも体を起こせている。

 軍人は拳銃を使えなかった。ここは食堂だ。血が散るのは衛生上、()()に差し障る。潜水艇内で処刑するのであれば殴殺が好ましい。

 だがフェイジャースレサーチャーを引き離すには肉体的な意味だけでなく、色々な規則が軍人を縛っていた。

 そうこうしている内に小さい罪人が食堂の扉に向かっていた。


「〝フレイア〟‼ドアを開けるな‼」

「〝フレイア〟‼ドアを開けろ今すぐに‼」


 軍人の命令よりフェイジャースレサーチャーの命令が優先される。軍人の言葉を掻き消すソーマの怒号は〝フレイア〟に届き、扉が開かれた。

 軍人は舌打ちをして、処罰を覚悟でソーマの身体を一度引き起こし、そしてみぞうちに拳を入れた。

 体中の酸素が口から吐き出され、ソーマはむせ返る。

 軍人はスラの距離を瞬時に詰めた。

 殺すつもりの拳を握る。


 ソーマはむせながら手を伸ばした。届くわけもないのに。


 テーブルと椅子が邪魔で、軍人とスラがよく見えない。

 その振り上げられた拳は――次第に緩くなって――軍人そのものが倒れ込んだ。


「は…」

 ソーマはまともに呼吸ができない中、事態に目を見張った。

 腹を抑えながら床を這って子供のいる場所へ近づく。

 スラは転んでしまったようで床に伏せていた。丸くなって身を守るスラの隣で、力の抜けた軍人が目を開いて死んでいる。

 軍人の容態を一通り確認する。頭には針金を通したような穴が開いており、そこから血が流れていた。

 後ろのテーブルに目をやると、金髪のような細い針金が突き刺さっていた。


 ソーマは唖然としていたが、首を横に振って理性を集める。

 呼吸を整えながらなんとか上半身を起こして、スラの拘束を解いてやる。

 ソーマは筋肉を動かせるように深呼吸を何度か行い、スラを抱えた。

「やぁだ」

「大丈夫。もう怖い場所に連れて行かないから。外に出よう」

 ソーマの抱っこが嫌だと拒むスラだが、暴れたりはしなかった。

 ソーマは壁に体を沿わせてなんとか立ち上がり、気力を振り絞って歩き出した。

「お母さんがいるんだろ?お母さんの所に連れて行くよ。ごめんな」

 お母さん、という単語にスラはパチリと瞬き、コクリと頷いた。

「おかあさん」

「うん。大丈夫。お母さんのところに行こう」

 ふらつきながらもソーマはスラと共に潜水艇から出た。




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