卒業式の帰り道
登場人物には、名前も性別も設定していません。あなたが、あなたの大切な人を思い浮かべて読んでくたられ嬉しいです。
通い慣れたいつもの道。いつもは大好きなあの人と一緒に歩いた道を、今日はひとりで歩いている。春の足音はすぐそこまで来ているはずなのに、頬を撫でる風はまだまだ冷たい。
卒業式の帰り道。
よくふたりで立ち寄った公園へ足を運ぶ。
ベンチに座りぼんやりと池を眺めていると、
水面に浮いた落ち葉がふたつ、ゆらゆらと近付いたり離れたりしている姿が目に留まる。
まるで自分たちのようだなぁ…なんて思った。
春に出逢って、たちまち恋に落ちた。
接点を探しつつ、少しずつ仲良くなった。
勝手に自信をなくし、少し距離をとった。
やはり諦めきれず、気持ちを伝えた。
想いが通じ、二人の距離が縮まった。
声が聴きたくて、顔が見たくて、触れたくて…
自分がこんなに欲張りな人間だったのかと驚いた。
つまらないことで嫉妬して、背を向けたこともあったけど、その度に嫉妬心を打ち消すほどの愛を伝えてくれた。
毎日逢えるのがあたりまえだった。そんな日常がずっと続くと思っていたが、これからは別々の道を歩むのだ。どんなに強く想っても目標が違えば進む道も変わる。ごく自然なことだ。わかっている、頭ではちゃんと理解している。だけど心が追いつかなくて、子どもみたいに逃げ出した。
空を見上げれば自分の心とは正反対のすがすがしい青空が広がっている。
まだ、友だちと話してるのかな。
自分が先に帰ったことに気が付いたかな。気付かなくていい。もうしばらく友だちと笑っていて欲しい。キミには笑顔が似合うから…
重い腰を上げ、池の畔をゆっくりと歩く。
ふたつの落ち葉は水面が揺れる度に距離を変える。
「これ以上離れるなよ」
なんて無意識に呟いていた。
突如、強い風が吹いた。思わず縮こまった瞬間、ふわっと暖かいものに包まれた。
「!!!」
一瞬驚いたがすぐに理解した。大好きな大好きな、あの人の体温だ。背中から抱きしめられ耳元で囁かれる。
「やっぱり…ここにいたんだね……」
きっと、走って来てくれたのだろう。
呼吸でそう伝わる。
「ごめん…なんか…さびしくて」
そう、さびしかったのだ。
毎日逢えなくなることが、こんなにもさびしく耐え難いなんて今まで知らなかった。気が付けば涙がポロポロ溢れていた。
「大丈夫!毎日逢えなくても気持ちは変わらないから。これからもずっと大好きだから。」
その言葉を信じて前を向いて進もうと思う。
ふと池の落ち葉が目をやると、先程の突風でふたつが重なっていた。
なんだか気持ちが軽くなった。
大好きな人と離れるのは、不安でさびしいけど、大切な人と一緒になれる日を心の支えにして、楽しくがんばって過ごしたいものです。