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2.初仕事の勇者

こんにちは。一話を読んで2話目に来てくれた方に感謝。

「うっ...何だ、もう朝か。」


 窓から差し込む光を受けて、俺は目を覚ました。体を起こし、大きくあくびをする。


「はぁ...昨日は飲みすぎた。」


 体が重い。だが仕事を休むわけにはいかない。ギルドを訪れる冒険者は減ってはいるが、完全にいなくなったわけではない。それに昨日セインさんは言っていた、明日また来ると。俺はだるい体を起こし、身なりを整えて、仕事場へ向かった。ギルドに着くと、既に正面入口は開いており、中から声が聞こえる。


「今日はメイヤーに先を越されたか。一ヶ月ぶりだな。」


ギルドの中に入ると、受付でメイヤーが、男と話している。


「...よし。これで依頼の受注完了っす。頑張れっす。あ、先輩おはようっす。久しぶりに私に負けましたね。」


俺は苦笑する。


「昨日は飲みすぎたんだよ。いつもなら負けてな、ってセインさん。ずいぶん早いですね...。その背中の剣、重くないです?」


 セインは朝早くから来たようだ。彼は初心者用のダサい兜を着け、彼の服の下から、はみ出したチェーンメイルが見える。腰には短剣を差し、背中には、大きな剣を背負ってある。


「あぁ、オレクさん。どうも。大剣って、でかいはでかいですけど、案外鍛えれば気にならなくなるもんですよ。では、俺はこれで。」


 昨日一緒に飲んでいた、それどころか俺よりも飲んでいたと言うのに、彼は全然疲れているようには見えない。これが冒険者の体ということか。彼がギルドを出てから俺はメイヤーと話す。


「あの人俺より4つ上の26だけど、何て言うか、元気だな~。」


「何すか急に、おっさんみたいなこと言わないでください。」


「いやいや、昨日町で偶然会ってさ。夜遅くまで一緒に飲んだんだよ。俺は朝起きたときめっちゃダルかったのにな~。それにあんなでかいの背負ってるし。」


「...そもそも次の日に影響が出るくらいの量を飲まないでください。はぁ、この話は終わりっす。ほら先輩。遅れたんすから、今日は先輩が朝の事務をやってくださいよ。」


「あいよ。」


 俺達は一時間程度で終わる事務作業を終えて無言になる。俺たちの考えていることは同じだ。どうかセインさんが無事に帰ってきますように。


・・・・・・


「ふぅ、ようやく集め終わったか。ここら辺って結構ポーションの材料生えてるな。」


 俺は目標量の薬草を集め終える。こんな風に採集依頼をこなしたのは10年ぶりだ。俺も駆け出しの頃は、こんな小さな依頼をチマチマとこなしたものだ。懐かしさを感じながら、俺は次の薬草を探す。あと二種類だ。


「次の薬草は確か、あっちの丘か。」


俺は渡された資料を参考にしながら薬草を探す。

 しばらくして、最後の一種類も、もうすぐ目標量に到達する。


「あと少しだ。ここら辺にあるのとったら足り...」


 近くの草むらがざわめく。俺は腰の剣を抜いて構える。姿は見えない。魔物か、ただの動物か。少しの沈黙のあと、草むらから鈍く光るナイフが飛んできた。俺はそれを間一髪で交わす。投げられた方向を見ると、奴らは遂にその姿を現した。ゴブリンだ。数は2体いる。


「ゴブリンか。ふぅ...落ち着け、今の俺でも2体ぐらいなら問題ないはず。」


「グギィィ...ギギ、キヒヒヒ。」


 ゴブリンは目の前の冒険者を見て、邪悪な顔で笑っている。俺は一気に距離を詰める。まさか一直線に接近してくると思っていなかったのか、ゴブリン達は一瞬たじろぐ。その隙をついて、俺は一匹の体を引き裂く。


「グギャ!」


体を切られ、汚い悲鳴を上げて一匹が倒れた。その姿にもう一匹は怒りを露わにする。


「...どうせ今まで何人も人を殺してきたんだろ。自分の仲間が殺されることぐらい覚悟しとけ。」


 冷静さを失ったゴブリンが大きな剣を掲げて突撃してくる。俺はそれを軽くいなし...たはずだったが、剣の衝撃を真っ向から受け止めてしまい、衝撃で腕が痺れ、剣を手放してしまった。


「まずっ...!」


 ゴブリンは俺のミスを見逃さず狂ったように、剣を振り続ける。俺の体は俺が想像していたよりも遥かに衰えていた。今の俺はゴブリン相手にすら全力で戦わないと行けない。


「クッソ!こんな簡単に死んでたまるか!」


 俺は冷静に奴の動きを観察し、でたらめに剣を振る奴の動きを見切り、剣を蹴り落とす。剣を拾おうとする奴に、俺は全力でタックルをかまし、馬乗りになる。動けないよう押さえつけ、頭を何回も殴った。


 しばらく殴り続け、気付けばゴブリンの体から力が抜けていた。俺は近くに落ちていた奴の剣を喉元に突き刺し、その場に座り込んだ。


「はぁ、はぁ...あぁもう、くそ。ほんとに一から始めなきゃ行けねぇじゃねぇか。」


 俺は力の抜けた自分の体をどうにか起こす。ゴブリンが2体で行動していた。大抵、ゴブリンは5体以上で共同生活をしているが、数が10にも満たない時、奴らは単独で行動する。2体で行動していたってことは、どこかにある奴らの巣の中には、10匹以上いるということ。


ここはテーネにも近い場所だ。もし近くに巣穴があるのなら町が危険に晒される。早く伝えなくては。俺は薬草の入ったかごと、さっき落とした自分の短剣を拾い、テーネヘ向かった。


・・・・・・


 受付で座って暇していると、メイヤーが物凄い勢いで俺のもとに走ってきた。


「せんぱいセンパイ先輩!!これ今日のギルド新聞っす。ここ、ここ見てくださいっす!」


 彼女が興奮しながらギルドが毎月発行する新聞を見せてくる。彼女が指した場所の見出しを読む。

“隻腕の勇者ステラル一行、ついに魔王四天王の一体を討伐”


「...ま、まじかこれ!遂に四天王撃破か...魔王は配下も含めて強大だって話だけど、勇者がここまで強くなってきているなら、数年後には魔王を倒してるかもしれんなぁ。」


 つい5年前まで、勇者はまだまだ未熟で、勇者パーティと呼ばれてはいたが、実際は勇者介護パーティだったと言う。そんな勇者も最近は急激に成長し、遂にこの大戦果を挙げた。これは人々の希望になるだろう。


「この調子でさっさと魔王倒してくれんかなー...。ここが潰れる前に。」


「ちょっと、せっかく明るい話題なのに、無理矢理暗くしないでくださいっすよー。」


突然ギルドの扉が開く。慌てて準備を始めると、セインさんが早足で受付までやってくる。


「これ、採取した薬草で、これはゴブリンの耳。採取中に遭遇したんだ。」


彼が出してきたゴブリンの耳をみて、疑問に思う。


「セインさんは遠くまでいったんですか?ここら辺のゴブリンは一応一ヶ月前ですけど、ある冒険者が近くの洞窟を掃討してくれましたが。」


「なるほど。近くに洞窟があるのか。ならまたそこに住み着いたのかもしれない。」


「こ、こんな短期間にすか?そんな話今まで聞いたことないすよ。こんなことなら、洞窟の入り口塞いでもらえば良かったっす。」


「まだ推測です。取り敢えず、確認しないといけないですね。」


これは大変な話だ。ゴブリンは弱いが、冒険者がほとんど訪れないこの町では、撃退は簡単なことではない。しかし、セインさんに頼むのも難しい。


「セインさんが遭遇したというのが真実なら、その洞窟にゴブリンがまた住み着いた可能性は十分にあります。しかし、その...依頼が出ていないので報酬の方が...。冒険者だって生活があります。報酬なしでの討伐はあなたも気乗りしないのでは、と。ここは誰かが依頼を出すまで」


「それだと被害が出てしまう。大丈夫です。きっとうまくできますよ。」


俺の話は彼に遮られてしまった。しかし、駆け出しの方がいくらゴブリンといえど、巣穴に入ることは危険だ。俺はどうにか説得しようとしたが、結局説得しきれず彼は洞窟に向かって出発してしまった。


「あぁ、行ってしまった。洞窟の場所教えなきゃ良かったかなぁ。」


「まさかあの人に英雄願望があったとは。まぁまだ26。男の人ってそんなもんっすよね。」


メイヤーは少し辛辣だが、俺も似たようなことを思っている。だが結局彼は行ってしまった。あとは彼の無事を祈るしかないだろう。雨が降ってきて、俺たちは急いで中に入る。急に降りだした雨は、洞窟に向かう彼を暗示するように思えた。




2話読了してくれた方に感謝。

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