1.再起の勇者
これが初投稿になります。この作品は本命2つの練習のために投稿しますが、完結させるつもりはあります。
「ねぇ...何で黙って行こうとするの?セイン。」
声のした方向を見ると、月明かりに照らされて彼女の姿が見えた。
「・・・俺はもうお前の隣で戦えない。今の俺はただの足手まといなんだよ。」
「そんなことない!」
彼女は震える声で、今にも泣き出しそうな顔をしていた。
「あなたは私と、16の時から冒険者として、勇者一行としてずっと一緒にやってきた。その経験と知識があれば、まだできることは」
「そう信じた代償が、お前の右腕だとしてもか?」
「ッ......!」
・・・
「それでも...それでも行っちゃダメだ。」
「...どうしてなんだ。もう俺は...戦えない。」
・・・・・・
「私が、お前を好きだからだ。」
~5年後~
ギルラン王国の南の辺境に、テーネという小さな町があった。
「はぁ、この依頼を張り出してからついに1ヶ月。未だに受注すらされないなんて。」
オレクは大きくため息をついた。
「仕方ないっすよ先輩。記録だと先月。ここを訪れた冒険者は41名。そして先月の依頼の総数は102件。今月はさらに訪問者は減ってるっす。...先輩。引っ越しの準備手伝ってもらっていいすか?」
薄情なこいつはメイヤー。俺の後輩だ。
「一番近くの町ですら半月。道中で魔物に襲われるかも知れないから護衛も必要だ。そんな大金をたった半年しか働いていないお前が持ってるのか?いや、そもそも護衛を頼める軍も冒険者も、この町にはいないぞ。」
・・・
「...うっ...うわーん。私のピチピチ全盛期をしけたおっさんで消費するなんて-。もう私の人生おしまいだー。」
「俺は22だ。棒読み演技ばれてるぞー。」
「じゃやめまーす。」
・・・
「はぁ...本当にどうしようか。」
こんなしょうもない会話をする以外にやることがないのだから、本当にこのギルドは解体されるかもしれない。
ギルドは世界中、ありとあらゆる都市、町、村に存在している。周辺住民から依頼を受け、それを訪れた冒険者たちに仲介するのが仕事である。しかし、このギルドには依頼は来ても、それをこなす冒険者がいないのだ。
確かに他の町からはかなり離れているが、それは昔からのことだ。俺が子供の頃、ここもそれなりに活気があったから、ここが不便な場所であることは、ここを訪れる冒険者が減った大きな原因ではないのだろう。
恐らく最大の原因は一年前突如現れた魔王の存在だろう。この世界にはオークやゴブリンといった、人間に危害を与える種族が存在する。そのような種族を総称して私たちは魔物と呼んでいる。魔物たちは確かに危険だが、彼らは集団以上にまでまとまることはほとんどない。そのため竜など一部の強い種族を除き、国の軍隊や、ギルドの冒険者たちに簡単に討伐される。
しかし、ある日突然魔物を統率し、ただの群れではなく、軍勢に変えてしまう魔物が現れる。その魔物を私たちは魔王と呼ぶ。その魔王がギルラン王国北にある、ホルストン共和国首都エイリーンを占領したのだ。その結果、今現在世界中の冒険者、兵士たちが魔王討伐の旗をかかげ、北の方に集結している。そしてテーネは南の端にある町だ。これ以上は言うまでもない。
「メイヤー。俺はテーネを離れたくないよ。俺はここで生まれて、ここで育ってきたんだ。確かに田舎ではあるけど、みんな優しくて、助け合える素晴らしい町だと思ってる。」
「そうですね。私もそう思うっす。」
「そうだろう。だから一緒にこの町を立て直そう。」
「いやそれは無理っす。ここが潰れたらモヘンに行くっす。私はこんな小さな場所で埋もれるような器ではないです。なによりイケメンがいないっす!」
この後輩は、情を誘っても全く効かない。完全な実利主義者だ。
こんな話をしていたとき、入口からベルの音が聞こえた。3日ぶりの音に慌てて受付窓口に座り、顔にいつもの営業スマイルを張り付けた。
「こんにちは。ギルド テーネ支部へようこそ。今日はどう言ったご用件でしょうか?」
訪れた男性は少し緊張しているようだ。ゆっくり深呼吸した後、彼は口を開いた。
「冒険者としてギルドに登録したいのですが...」
その言葉を聞いて私はメイヤーの方を向く。メイヤーもこっちを見て、アイコンタクトで意思を伝えてくる。どうやらお互いに、考えていることは同じらしい。
(絶対に逃がしては行けない...!!)
「も、もちろんです!さっそく手続きを始めましょう。この紙に......」
・・・
「これで登録は完了です。これからは全てのギルドで依頼の受注が行えますよ。ただし、先程も説明しましたがあなたはギルドの定める冒険者ランクの一番下、Eランクの冒険者です。ですからあなたのランク、経験を加味し、依頼内容によっては受注を止める場合があります。ご了承ください。Dランク以上からは、ギルド側が受注を止めることはありません。また全てのギルドで、上階の方は宿泊できる部屋を用意しています。これは冒険者の方のみに貸し出しており、料金はブロンズ1枚となっています。寝るぐらいしか出来ませんが、宿を確保できなかった際に活用ください。これで説明は以上となります。他に質問はありますか?」
「いえ、特にありません。」
「ほんとにないっすか?何でも答えるっすよ。」
奥で聞いていたメイヤーがひょっこり顔を出す。冒険者の生存率は高くない。熟練者でもあっけなく死ぬことがある。新人ならなおさらだ。彼女は心配なのだ。新人冒険者は笑って答える。
「大丈夫です。自分の実力は自分がよくわかってます。」
「...わかりました。私たちはいつも受付におりますから、何かあればいつでもご相談ください。」
言い終えたあと、私は少し考え、やはり伝えることにした。
「冒険者さん!ええっと、確かセインさん...でしたよね。新人さんは特に魔物討伐などの依頼を受けようとしがちです。ですが私達からはあまりおすすめできません。まずは簡単な採取依頼の方からこなし、少しずつ慣れていくことを勧めます。あ...すいません。ちょっとでしゃばりすぎました。」
「...いえ、ご忠告ありがとうございます。優しいんですね。では明日、また来ます。」
そういってその男性は軽く会釈しながらギルドを去った。
「ふぅ、俺の対応どうだった?」
「完璧っすね。グッドコミュニケーションっす。さっきの新人さん。登録初日に依頼を受けなかったところ高得点っすね。冒険者は、逸る奴ほどよく死ぬっすから。まぁ防具も武器もなにも身に付けてなかったし、これから買いに行くんでしょうけど。」
新人冒険者は、最初は資金面で困窮しがちで、冒険者登録をした町に長くとどまる傾向がある。つまり継続的な戦力が手に入るかもしれないのだ。だが、その前に彼にはまずは生き残ってもらわなければならない。
結局この日は彼がギルドを訪ねたのみで、7時頃、俺達はギルドを閉めた。上のベッドを使う人がいないお陰で早く帰れるのは、この過疎化の唯一の恩恵だ。
「先輩お先~。」
「おう、気を付けてなー。」
俺はギルドを閉め、町の中心へ行く。町は人々で賑わっており路上に面した店から美味しそうな匂いがする。冒険者の過疎は進んでいるが、町は活気を失ってはいない。しかし、時間が立つほど、状況は悪くなっていくだろう。私は賑やかな町のなかで、一人溜め息をつく。行きつけの店で腹を満たし外へ出ると、見覚えのある顔が見えた。
「あれって...セインさん!?」
俺の視線に気づいたのか、彼はこちらを振り向き、こちらに近づいてくる。
「こんばんは。ギルドの受付の方でしたよね?確か...オレクさん。」
「覚えてくれてたんですね。セインさんはどうしてここに?」
「美味しいものが食べたいなと思ったんです。それにこの町の特産品が美味しいと聞いていたので、食べてみようかなと。とても美味しかったです。」
「え?セインさんは他の町から来たのですか?僕はてっきりここら辺に住んでいる方なのかと。」
「ここにきたのは一ヶ月前なんです。色々理由があるんですよ。」
そう言って彼は少し考える。その後、口を開いた。
「...一緒に酒でもどうです?」
俺は彼に同調した。
「...いいですね。私の行きつけの店に行きません?セインさんも気に入るかもしれないですよ。」
こうして私とセインさんで飲みに行く事になった。
・・・
「でさぁ~~。最近北の方でついに魔王が出てさ~。冒険者が根こそぎいなくなって、もう大変なんだよー。冒険者がいなくなっても依頼は減らないからさ~。」
俺はビールジョッキを勢いよく置いた。
「そうだなー。でもこればっかりはどうしようもないな。ギルドが潰れた後の就職先に当てはあるのか?」
「俺この町からなれたくないっす~。」
俺は4杯程度でベロンベロンになり、彼が聞き上手なのもあいまって、堅い話し方は一瞬で崩壊した。
「はぁー、こういうときにセインさんがいてくれたらなぁ~。」
「?俺のことを言ってるのか。」
「あぁ、いえ、違うんです。5年前ぐらいまで勇者ステラル一行にセインっていう人がいたんです。その人すごい強いらしくて、あの時は勇者さんの何倍も強かったそうなんです。しかも勇者一行のメンバーって大体が世界で有名な魔法使いだったり、竜の討伐経験を持っていたりするヤバイ人たちの集まりなんすよ。」
「そんなすごい経歴を持ってる人のなかでも一番強い人が、まさかの勇者の幼なじみ。もう当時は世界中の女子達がそれはそれは、キャーキャー言ってましたよ。無名から勇者を凌ぐまでにのしあがって、ついた名前は“努力の勇者”。そんな人がいたら一人で何件も依頼こなしてくれるんだろうなぁーって思って。でも5年前急に勇者一行から離脱してそれっきりっすよ。まさに伝説です。」
彼はなぜか申し訳なさそうな顔をする。
「そんなに褒めら...ゴホンッ、そんなにすごい人がいたとは。でもなんで彼のことを?それこそステラルさんとか、太陽団のメラルドさんとかいますけど。」
俺は少し誇らしげに話す。
「10年前、彼に命を救われたんです。実はあんま知られてないっすけど、ステラル一行の始まりの地って、実はここなんすよ。テーネの数少ない自慢できることです。そんで俺が町の外を歩いていたら突然グリフォンがやってきて、食べられる寸前で助けてくれたのがセインさんなんです。当時のセインさんはまだまだ最強とは言えなかったんすけど、俺のことを必死に守って戦ってくれたんです。」
「いやー、当時の私はもうそれはそれは熱心なファンになったもんすよ。一時期は彼の背中を追って冒険者になろうと考えてたぐらいです。ヒック。まぁ自分に才能がないのはすぐに気づいて諦めましたが。...この町に残ってるのは、もしかしたら彼に会えるかもしれないと思ってるのも理由のひとつなんすよ。」
「...会って、何て言うんだ?」
「まずは感謝の気持ちを伝えたいすね。ヒック。そんでどうせなら、冒険者に誘いたいっすね!うまく行けば、彼がこの町の象徴になってくれるかも!まぁ、そんなうまい話はないと思いますけど。ヒック。」
俺はそう言って笑う。
「...叶うといいな。いや、きっと叶うよ。俺が保証する。いや、俺が叶えてやる。」
セインさんの目は真剣そのもので一瞬ドキリとする。その目は10年前、俺を助けてくれた彼の目そのものだった。
「もしかして、セインさんって...いや、流石に違うっすよね。ハハハ。いいですねセインさん。あなたの名が広まったら、俺宣伝しますよ。“あの伝説のセインが帰ってきた!”つってね。」
俺の冗談に彼は笑う。
「あぁ、そうだな。それはいいや。」
こうして楽しい談笑の時間は過ぎていった。
「ではセインさん。さようならっヒック。」
「あぁ、今日は付き合ってくれてありがとう。」
俺は彼と別れ帰路に着いた。
「ふっ、久しぶりにいい気分になれたな。もうとっくに本人に伝えているなんて、夢にも思ってないんだろうな。...よっしゃ!明日から頑張るか。努力の勇者改め、再起の勇者だ...!」
読んでくれて感謝。プロローグ的側面が大きい一話でしたが、面白いと思ってくれると嬉しいです。投稿は不定期になります。