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【第8話】いなさと龍

【第8話】いなさと龍


《行動範囲》寺尾 寺尾東 小針 坂井東 坂井砂山 寺尾上 上新栄町 寺尾上一丁目


太陽の しづむのがはやくなる


僕たちは 胸を そわそわさせていた


龍がやってくる


もうすぐ 龍がやってくる


僕たちに プレゼントを届けるために


もうすぐ 龍がやってくる


龍は 僕たちのあこがれだ


龍は 風の中に住んでいて 風とおなじようにめにはみえないのだけど いつも僕たちのそばにいて いつも僕たちを見守ってくれている


あついあつい夏を 全力で駆けまわった僕たちのからだは へとへと だ


そんな僕たちが へとへと な まま さむい冬をこせるのか 龍は心配なものだから 僕たちに プレゼントを届けにやってくる


これで ひと冬 のりこえれ


てな具合に


冬のくるまえに


龍が 僕たちに


プレゼントを届けにやってくるんだ


僕たちは それを いなさ と よんでいて


まえのいなさを 僕は船の上でむかえた


まえの村での話だ サカナをとるために 遠くの海まで行かされていた僕は 船の上でいなさをむかえた


すごかった 龍はどんなところにもプレゼントを届けにやってくる


空から サカナがふってきたんだ


龍が 海にもぐり 海の中を ぐるぐる と かきまわして 空へのぼって そこから たくさんのサカナを ふらせたんだ 船はサカナでいっぱいになった


もうすぐ


ここで 僕が


ふたりの姫様と


みんなで 迎える


はじめての いなさ だ


まちどおしくて


そわそわ する


どんよりとした重たい雲が


空いちめんをおおいつくし


風が びゅうびゅう 吹いてくる


風はどんどんと強くなり


小粒の雨が ぱらぱら と ふり始める


外へ出ていたみんなが


あわててうちへ戻ってきて


うちの中で


みんなで火をかこむ


僕たちは 龍がまちどおしくて そわそわしているものだから かわるがわる 外のようすをうかがう


外は どんどん暗くなる


遠くのほうが ぴかっ と ひかる


空が


開くんだ


いなずまが走り ごろごろ と 音がしたと思った瞬間


どどーん と 大きな太鼓の音が鳴り響く


「すっげ!」


みんなで歓声をあげる


空からどしゃぶりの雨が野原いちめんにふりそそぐなか 龍が踊り これでもかというくらいの風がまきおこる


まちきれない僕たちはあわてて外へ飛び出し びしょぬれになってプレゼントをまつ


野原のむこうから たくさんのウサギたちがこちらにむけて駆けて来る


「いっぺこと来たー!」


僕たちは かたっぱしからウサギたちをつかまえる


龍からの プレゼント だ


おおよろこびで 僕たちはウサギたちをつかまえるだけつかまえる


龍が 川にもぐる


ものすごいはやさで 泳ぐ


川の水がどくどくとあふれ出し ほとりの野原や緑のはらっぱに 泥まじりの川の水がしみわたる


「よろっと行こてー!」


ウサギたちをつかまえるだけつかまえた僕たちは うちに戻り 火をかこみ びしょぬれのからだをかわかしながら ウサギたちといっしょに みんなで耳をすます


雨の音と風の音が 徐々にかるくなる


外のようすを ちらっとうかがう


遠くで 龍が はしゃいでいる


雨がやみ 風がおさまり


いなさ が やむ


いち夜あけると


大きな 青空がひろがっている


いいにおいの風の中 めいっぱい深呼吸をする 空気がいつもよりおいしい


僕たちはみんなで緑のはらっぱまで行った


空気をたくさん吸って息をはいたら 水びたしの草たちが笑顔でおいしい空気をたくさんくれた


ちからが みなぎる


川のようすが気になったので みに行くことにした


べちゃべちゃになった川のほとりの泥の上で たくさんのサカナが飛びはねていた


みんなで サカナをつかまえた


川づたいに歩き イネたちの演奏を聴いたところまで来た


あふれた川の水はひき むこうぎしは遠くまでぐちゃ泥になっていた


「あいやー でっけ泥だまりらな 」


「たねまこーて イネのたね でっけー田んぼになるろ 」


「らな!」


僕たちは 幼いふたりの道をとおりながら むこうぎしに大きな田んぼをつくる話をした


幼いふたりが 渡し舟をつくると言いだした やる 決めた と 言う


みんな賛成した ふたりの姫様が くすくす と 笑う


海をみに行った たくさんのサカナが なみうちぎわで ぴょんぴょん飛びはねていて それをウミドリたちがつついていた


龍は ウミドリたちにもプレゼントを届けてくれたんだ


僕たちは うちに戻り 野原に寝そべり 山をながめたり 西日を楽しみながら ぼーっ と 過ごしていた


西の空が少しずつ


おれんじ色から もも色に染まり


太陽が 山のてっぺんと重なった


もも色の空を背にした 太陽から


いっぽんの まっすぐな 明るい道 が あらわれた


山のてっぺんから 下までつづく


いっぽんの まっすぐな 明るい道 が あらわれた


僕たちはおどろいた


その明るい道のしょうたいは


僕たちのつくった道だった


僕たちのつくった 山のてっぺんにのぼる道が 太陽の明かりに照らされて いっぽんの まっすぐな 明るい道 に なっていたんだ


なんて美しいのだろう


もも色の 空があって


太陽と山が重なり合って


僕たちのつくった道が いっぽんの まっすぐな 明るい道 に なって


まさに いま そこ に ある


太陽は にこっと 笑い


明るい道は あっという間に 消えた


もうすぐ日が暮れる


僕たちは立ちあがった


立ちあがって 胸をはった


なにがあっても胸をはって生きていこう

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