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【第7話】イネたちの演奏

【第7話】イネたちの演奏


《行動範囲》寺尾 寺尾上 坂井砂山 坂井東


夏も終わりに近づくころ 幼いふたりの道も いよいよ完成を迎えようとしていた


じつは道はすこし間違っていて


幼いふたりのめざす川のほとりは つくっている道よりも左側 左の斜面をくだったさきにあった


そこでイネたちは もうすでにみのりの時期を迎えていて 幼いふたりが来るのを まだか まだか と まちかまえていた


しかし 幼いふたりはまったくそれに気がつかない


もどかしくなったイネたちが 幼いふたりに手をふる


おーい そっちじゃないよ こっちだよ


と 風のちからをかりて 大きく手をふる


幼いふたりが はっとそれに気づく


「あー イネらー ひだり見てみ 」


「あー イネらー あっちらったんかー 」


幼いふたりは 道をつくる手をいったんとめて 左の斜面を全力で駆けおりた


まちかまえていたイネたちが 幼いふたりをおもいっきり抱きしめる


黄金色の笑顔で


おかえり と


強く やさしく 抱きしめる


幼いふたりは 嬉しくて嬉しくて 顔を合わせて 鼻水をすすりながら笑った


へへっ


へへっ


イネたちが よしよし と 幼いふたりのあたまを撫でる


くすぐったくて 気持ちいー


幼いふたりは しばしのあいだ


イネたちといっしょの時間を楽しんだ


ゆらめきに愛されて いっぱい ちからをわけてもらった のち


大声で叫んだ


「こっから道ひっぱっぞー!」


「おっしゃー!」


鼻水をぐいっとぬぐい 黄金色の中から ちからいっぱいに 飛び出す


ずっとつくっていた道が みえる


ラストスパートだ!


よーい どん!!!


草をちぎる 草をちぎる 泥にまみれて 草をちぎる


泥をはう 泥をはう 泥をこえたら 土をはう


土をはう 土をはう 汗をぬぐいて じゃりを噛む


ずっとつくっていた道が めのまえだ


「おっしゃー!」


「おっしゃー!」


ずっとつくっていた道に手が とどく


まるで握手をするかのように がしっ


幼いふたりの道が


ついに完成した!


幼いふたりは みんなに知らせたくて 走る


みんなの顔を 思い浮かべて 走る


みんなのいる うちへと 走る


「道できた!」


うちでは ふたりの姫様が何人かと一緒にエダマメを食っていた


幼いふたりは あっ と 思ったが それよりも みんなに道をみて欲しくてたまらなかった


幼いふたりが得意気に歩くうしろを 何人かがついて行く ふたりの姫様が そのあとを てちてち と 歩く


風をつたって幼いふたりの汗のにおいがする みんなで にこにこ と 幼いふたりのつくった道を歩く


つくりたての 左の斜面へ曲がる道を 幼いふたりが駆けおりる 手をふって 大声でみんなを呼ぶ


「おーい!」


幼いふたりに合わせて イネたちも大きく手をふる


黄金色の笑顔で みんなにむけて 大きく手をふる


みんなで いっせいに


黄金色の中へ飛び込む


ゆらめくイネたちが しゃら しゃら と 音楽を奏で始める


幼いふたりの道 の


完成 を 祝う


イネたち の 演奏


みんなでうっとりしながら イネたちの演奏に耳をかたむける


めを閉じると


イネたちのにおいがする


遠い昔にどこかでかいだことのあるような ほっとする 安心するにおいだ


幼いふたりを みんながたたえる 幼いふたりは へへっ と 笑う


「とんぼ!」


とんぼをみつけた幼いふたりがイネたちの中を駆けまわる


「それおれが見つけた!」


「なに言ってん おれらて!」


ふたりの姫様もつられて とんぼをおいかける


四人がむじゃきにとんぼをおいかける


みんな笑顔で見守る


帰り道に 小さな足あとが いっぱいついていた


日が沈み


夜が明けて


あらためて僕たちは みんなでそろって幼いふたりの道を歩いた


いっぽ いっぽ 幼いふたりの道のりを ちゃんと思い浮かべながら ふみしめて歩いた


幼いふたりが 僕たち全員をイネたちに紹介してくれた


幼いふたりがおじぎをして


ふたりの姫様がおじぎをして


みんなでおじぎをした


イネたちが にこっ と 微笑む


幼いふたりが


歌を歌う


黄金色に輝く


イネたちの演奏に


声をのせて


幼いふたりが


歌いながら


イネたちを刈る


みんなで歌って


イネたちを刈った


幼いふたりは 鼻水をすすりながら へへっ と 笑った

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