【第6話】夏休み
【第6話】夏休み
《行動範囲》寺尾 寺尾上
雨の中を カエルが飛びはねる カタツムリが気持ちよさそうに背のびをする
梅雨のくるまえに僕たちのうちは完成した
柱も屋根も みんなの気持ちが込められているから なんだか僕たちは 僕たち自身のおなかの中にいるようだった
とても居心地がいい
草はぐんぐんと伸びてゆく ひと雨ふるごとに びっくりするくらい伸びてゆく
雨がやむのをみはからって外へ行き カエルをつかまえたり 道にはえた草をむしりとったりして あっという間に夏が来た
幼いふたりの道づくりが
ついに始まった
入道雲に手のとどきそうな青空のもと 幼いふたりはまず 海へむかう道の途中に わかれ道をつくった
わかれ道のめじるしに 大きな石を置いた
右へむかえば海
左へむかえば川
幼いふたりはそのわかれ道を「ごちそうさんのわかれ道!」と 言っていた
右へ行けば海のサカナがとれるし 左へ行けば川のカワザカナやイネもとれる
幼いふたりは めをきらきらさせながら 僕たちに話をしてくれた
まいにち まいにち 道は少しずつ伸びてゆく
草もそれに続けと言わんばかりに伸びてゆく
幼いふたりは 汗びっしょりになりながら 草をむしりとり 道をつくった
夕日が沈んでも帰って来ないこともあった
でも 幼いふたりのうしろには道がしっかりとあったので みんなそれほど心配はしていなかった
幼いふたりは なんにも道をつくらずに帰って来ることもあった
道をつくる いざ草むしり というときに いろんなムシにでくわすものだから 夢中でそちらについて行く
道なんか忘れて
野原でムシたちと遊びまわる
幼いふたりの道は
野原で道草をしながら
道になる
けんかもする
スイカがころがっているので みつけたらいちもくさんに持って帰りたくなる
ふたりの姫様に自慢したくなる
うばいあいが始まる
どっちがさきにみつけたかで こぜりあいが始まる
こういうときは 足のはやいほうが勝つ
ひとたびスイカを手にしたら 勝ったもどうぜん
スイカを なにがなんでもはなすもんかと抱きかかえて 走って走って ふたりの姫様のもとへ持ち帰る
真夏のまっぴるま ふたりの姫様は暑いものだから外で遊んでいる
うちと野原のあいだらへんで 土をぺたぺたとさわったりして楽しんでいる
ほかのみんなはだあれもいない
みんな海や川に行っているので
ふたりの姫様は ふたりだけで過ごしている
そこへ 幼いふたりが もうれつないきおいで戻ってくる
「スイカ!」
足のはやいほうが どさっとスイカを土の上に置く
ふたりの姫様は なにがなんだかわからない
おくれてきた足のおそいほうが むきになって言う
「これおれが先にみつけた!」
足のはやいほうが言いかえす
「なに言ってん!おれらて!」
言いあらそいが始まる
ふたりの姫様は なにがなんだかわからない スイカがあるなら スイカをはやく食おう
けれど言いあらそいはおさまらない でたらめなへりくつが飛ぶ
「何時何分何十秒?地球が何回まわったときー?」
にらみあいになる
「おめなにきだしてん 」
「おめこそなにきだしてん 」
「なにきだしてんだやー!」
つかみあいのとっくみあいが始まる
ふたりの姫様はどうしていいのかわからない
どうしていいのかわからないから 逃げる
手をつないで 逃げる
ちょっと遠くのあたりまで逃げて そこでまた遊ぶ
土をぺたぺた 泥をぺたぺた つめたくて気持ちいい
忘れたころに 幼いふたりがあらわれる
泥だらけだ
「スイカ食おー 」
よくわからないけど 仲直りしている
四人でスイカをかこむ
スイカが割れる
ふぞろいに割れたスイカの中から
それぞれ食える大きさのを手にとる
「ごちそーさん いただきます 」
子供たちだけで
スイカを食う
泥だらけの手で
スイカを食う
余ったスイカは野原のすみにこっそり置いておく
スズメがそのうち食いに来る
スイカを食い終えた幼いふたりが
「じゃあのー 」
と 駆けて行く
道づくりの途中だからと 手をふって 野原のむこうに駆けて行く
ふたりの姫様は スイカを食いながらそのうしろすがたをきゃっきゃとみおくる
むし暑い夏の空たかーく
スイカのたねを 飛ばした