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第48話 俺は再び罠にハマってしまったのか……

「えっと……し、栞さん……ど、どうも……お久しぶりです」




「真衣ちゃん、久しぶり、それにしても真衣ちゃん……随分と変わったね……すごい綺麗になったね。さすが人気アイドルをやっていただけあるよ」




「え、い、いえ……そんなことは……し、栞さんもすごい大人っぽくなってお綺麗です。……そ、それで……今日は何かご用でも?」




「フフ……ねえ真衣ちゃん、とぼけるのはやめにしようよ? なんでわたしに相談もなく、勝手に抜け駆けをして、唯くんと会っているの? 玲奈ちゃんから聞いたよね。抜け駆けはしないって……しかも……家に連れ込むなんて。アイドルをしているとこういうことをするようになっちゃうのかな?」




「つ、連れ込むだなんて……わたしは別にそんな……唯がただ来てくれただけで」




「でも……真衣ちゃん、昨日唯くんの家にも行ったよね? アレはどうなの?」




「な、なんで……それを……わ、わたしをつけていたんですか?」




「そんなのどうでもいいでしょ……わたしの質問に答えて」




「そ、それは……その……昨日は久しぶりに会ったからもっと唯と話がしたくて……」




「唯くんの家に勝手に押しかけて、唯くんを勝手に自分の家に連れ込んで……残念だね……真衣ちゃん。いつの間にかだいぶ下品な女になってしまったのね」




「な……な! わ、わたしはそんなつもりで——」




「それなら……あのダブルベッドはいったいなんなのかな?」




「あ、あれは……そ、その唯との将来のために……け、けっして今すぐどうのこうのするつもりじゃ——」




「もうそういう言い訳は必要ないかな。とにかく……早く唯くんを連れてきてくれないかな。唯くんはこれからわたしと……一緒に暮らすんだから」




「暮らす!? な、何を言っているんですか……一緒にって……どういうことですか? 唯はわたしと……い、いえ……そもそも唯は今一人で生活していますけど……」




「あんなところに……いつまでも唯くんをおいていけるわけないでしょ! ああ……ごめんなさい……唯くん……わたしがもっと早くあのクズどもを処分していれば——唯くんにあんな生活をさせずにすんだのに……」


 


「え……唯!?」




「唯くん……」




 俺は態勢を思いっきり崩して、二人の前にずっこけていた。




 そして、おそるおそる二人の方を見上げる。




 真衣は驚きの顔、栞ねえは少しばかりこわばった表情をしていた。




「ゆ、唯……あの……その……今の話聞いていたの?」




 真衣はどこか気まずそうにそう言う。




「えっと……まあ……その……」


 


 正直なところ俺は二人の会話をまるで聞くことができなかった。


 


 だが、おおよその内容はわかっている。


 


 大方、あの人たちから貰う予定の金の取り分を巡って二人で争っていたのだろう。


 


 真衣がどこかよそよそしいにもこれで説明がつく。


 


 しかし……栞ねえのこの態度は——。




「そっか……唯くん……話聞こえちゃったんだね? ならしかたがないか。後でちゃんと説明するつもりだったのだけれど……真衣ちゃんがこういうことするのなら、唯くんの安全のためにも計画を先にすすめないといけないしね……」




 栞ねえは悪びれた様子も見せずに、表情ひとつ変えずに俺をじっと見下ろす。




 開き直るつもりなのか……栞ねえ……。




 それにしても……栞ねえのこの無機質な微笑み……これが栞ねえの本性なのか……。




 ……負けてたまるものか。




 俺だって昔とはもう違うんだ。




 俺は背筋に冷たいものを感じながら、視線をそらさずに栞ねえの瞳を見返す——




 って……これは……。




 ……ところで、俺は未だに地面に膝をついている。




 栞ねえと真衣は、立っていて俺を見下ろしている。




 そして、栞ねえは制服のスカート姿で、真衣は私服だが同じくミニスカートを履いている。




 この構図が指し示すもの……。




 それはつまり……俺の目線の先には二人のスカートに隠されたものが——。




 誓ってもいいが、俺は栞ねえの目を見ようとした。




 だが、脳のある部分が俺の命令を拒否して、別の方向に視線を誘導してしまった……。




 そして、気がついた時は、俺の視界には栞ねえのスカートの中が映っていて——。




「フフ……あれから3年だもんね……唯くんも、もうすっかり男の子になっているんだね……」




 栞ねえは、手でスカートを隠す訳でもなく、ただ微笑して、俺を見下ろしている。




 俺は慌てて、視線をそらす……が、今度は別のスカートの中に俺の視線は誘導されて……。




「……ライブじゃないから、見せていいものじゃないけれど……いいよ……唯になら別に……見られても……今日は準備もしているし……」




 真衣は、そう言うと、頬を少し赤く染めながらも、俺を見下ろしている。




 俺はその段階になって、ようやく本能を押さえて、立ち上がる。




 そして、額に手をおいて、自分の愚かさに頭を抱える。




 これで……俺は真衣だけではなく、栞ねえにも弱みを握られてしまった。




 きっと……二人は覗き行為を理由として、俺を脅迫するのだろう。




 くそ……なんて俺は馬鹿なことを……。




 だが、いまさら後悔しても遅い。




 というかこのままここにいても事態は悪化する一方だ。




 ならば……ひとまずは逃げる……いや一時撤退するべきだ。




 俺は、真衣と栞ねえを前にして、踵を返して、玄関から飛び出す。




 そして、大急ぎで、タワーマンションから脱出する。

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