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第43話 真衣の家から脱出しなければ……

 そこにはダブルベットが置いてあり、枕が2つあった……気がする。




 一瞬だったし、目の前の眺望に目を奪われて、深く考えていなかったが……。




「はい、唯。入れたよ」




 真衣は、そう言うと、俺の目の前にマグカップを置く。




 真衣は、自分用のコーヒーも入れていたようで、俺の前の椅子に座る。




 と、俺はマグカップの模様を見て、思わず固まってしまう。




 ポップな男女のイラストがそれぞれ描かれていて、そのマグカップには「M」と「Y」という大きな文字が記載されている。




 ……いや……これってどう見てもカップル用のペアカップだよな……。




 それを見て、俺は確信した。




 真衣は、この家で彼氏と一緒に暮らしていると……。




 アイドルに……真衣に彼氏がいるのは、別に驚きではない。




 アイドルに彼氏がいないというのは、あくまで「設定」にすぎないのだから。




 実際のところ彼氏がいないアイドルの方が珍しいだろう。




 だが……いまそこは問題ではない。




 問題なのは、真衣は彼氏と同棲しているこの家に、なぜ俺をわざわざ呼び寄せたのか……ということだ。




 決まっている。




 彼氏と一緒になって、俺のことをはめるためだ。




 瞬間、俺の脳裏には以下の情景が鮮明に浮かんだ。




 筋書きはこうだ。




 俺が呑気に真衣の家で、リラックスしながらコーヒーを飲んでいるところに、彼氏が帰ってくる。




 いかにもチャラいオラオラ系の彼氏が俺をひと目見て、激怒する。




「お前! 人の女に何してるんだよ!」




 と、そう叫んで掴みかかってくる。




 そして、その後、彼氏は、真衣と指し示したように、「まあ……俺も鬼じゃねえ。誠意を見せてくれれば、許してやってもいい」


 と、突如優しく懐柔してくる。




 当然、二人は俺に例の要求をしてくる……。




 いや……しかし待てよ。




 さっき読んだ記事によると、真衣の彼氏は、金持ちの御曹子のはずだ。




 そんな男が、美人局みたいなことをするだろうか。




 いや……真衣はアイドルだったんだ。




 当然、真衣は金遣いだけではなく、男遊びも激しいのだろう。




 リアルなアイドルにはさもありがちなことだ。




 だから、記事にあった品行方正な御曹子では物足りずに既に別れているのかもしれない。




 そして、もっと刺激的なヤンキー系の彼氏に乗り換えているとしたら……




 すべてはつながった。




 が……となるとまずい……まずすぎるぞ。




 またしても俺は既に完全に真衣の罠にハマってしまっている。




 いや……だが……まだだ。




 まだ……間に合う。




 フフ……真衣のやつ……だいぶ詰めが甘かったな。




 こんなあからさまなペアカップを俺に出すなんて。




 「M」は真衣、「Y」は彼氏の名前……どうせユウタとかそんな感じだろう。




 やはり真衣はどこか抜けている。




 昔からそうだった。




 普段は冷静で完璧なように見えるのに、時として酷く幼い顔をのぞかせる。




 俺はそんな真衣をいつもフォローして——。




 って……昔話に浸っている場合ではない。




 真衣が彼氏を呼び寄せる前にこの家から脱出しなければ……。




 幸い真衣はスマホを操作している——彼氏に連絡している——様子はまだない。




 何故か不明だが、真衣は俺がマグカップを使って、コーヒーを飲んでいる姿をじいーっと食い入るように見ている。




 真衣のやつ……こんなあからさまなマグカップを出しても、俺が彼氏の存在に気づかないほど間抜けだと思っているのか……。




 いくら陰キャボッチの俺でも別に馬鹿という訳ではないんだぞ。




「……フフ……唯。そのマグカップ気に入ってくれたの?」




 と、突然真衣にそう声をかけられて、俺はギクリと肩を震わせる。




 俺はチラリと真衣を見る。




 真衣は何故かとても嬉しそうにして、俺の顔をニヤニヤと見ている。




 な、なぜだ?




 俺に彼氏の存在を気づかれることは、真衣にとっては問題のはずだ。




 それなのに、なぜこんなに嬉しそうに……顔を破顔させているんだ。




 まるで……大いなる目的を達成したようなそんなとてつもない満足感を抱いた表情をしている。




 は……ま、まさか……真衣は既に彼氏を——。




 と、部屋の中にチャイムがこだまする。




 俺は全身にぞわりと悪寒がした。




「あれ……宅配かな? 今日は何もこないはずだけど……ごめん、ちょっと待ってて」




「ま、待て……お、俺はもう帰る!」

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