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第4話 ボッチ飯を楽しんでいたら、幼馴染がやってきた

 だいたい……真衣はそんなに簡単に泣く……いや感情を出す女性ではない。


 


 小学校の時ですらあまり笑わなかったし、ましてや泣くことなんて見たこともない。


 


 だから、真衣は周囲から誤解されやすくて、しばしばトラブルに見舞われていた。


 


 そういえば、俺はそんな真衣のことを何度も助けていたな……。


 


 今考えれば俺は当時そういう気恥ずかしい正義感を持っていた。




 周囲で孤立気味の真衣のような女性たちを助けてまわっていたような気がする。




 だから、当時は真衣も含めてそういう女性たちと仲が良かった記憶がある。




 今から考えれば信じられない話だ。




 まあ……小学生のような物を知らない子供だったからできたといえるが。


 


 ……昔を思い出していてもしかたがない。


 


 俺の目の前のリアルを考えないといけない。


 


 久しぶりに再会した幼馴染の真衣はすっかり美人になっていて、俺を騙そうとしている。


 


 このウンザリするリアルをしっかりと直視しなければならない。


 


 俺はあやうく真衣のとてつもない美貌と涙を前にして、またもコロッと女性に騙されるところだったのだから。


 


 それにしても真衣のやつ……外見は随分と変わった……いや大人になったな……。




 小学生の時も可愛らしいとは思っていたけど、まさかあんなに綺麗になるなんて……。




 いや顔だけじゃない、長く綺麗な足……スタイルも抜群だった……。




 ヤケに良い匂いもしたし……。




 アレがリアルの女性の体か……柔らかかったな……。




 抱きつかれた時に真衣のしなやかな太腿が俺の足に絡んできて、胸だって無防備に俺に押し付けて、その柔らかい何とも言えない感触ときたら……。




 ご、ゴクリ……。




 今更ながら、俺は真衣に抱きつかれた時のことを脳裏に思い出す。




 陰キャボッチの俺だって人並みに欲望がある若い男だ。




 それに俺は別に品行方正な男じゃない。




 俺は人……女性を信用できない。




 だけど、真衣の外見はあまりにも女性として魅力的過ぎる。




 だから、俺の本能は悔しいけれど、そこに否が応でも反応してしまうのであった。




 俺はあわてて顔を振る。




 外見だけだ……。




 中身はあの人たちとたいして変わらない。




 俺もまだまだだな……。




 あんな目に合いながらも、俺は真衣の可愛らしい外面に一瞬とはいえ本能ではなく、理性……心も揺れ動いてしまった。




 とはいえ……俺はこの三年間、陰キャボッチとして、日々精神力を鍛えている。




 そのおかげで、なんとか真衣の陰謀に引っかからずにすんだという訳だ。




 からかうことができないとわかれば真衣は俺のことなど興味を持たないはずだ。




 と……俺はその時までは楽観的に考えていたのだが……。


 


 




 昼休み……俺はいつものようにボッチ飯を楽しむために、旧校舎へと向かっていた。




 教師に何も言われないことを良いことに俺は、結局昼休みまで、保健室にいたのである。




 真衣に抱きつかれた時はやっかいなことに巻き込まれたと思っていた。




 だが、それを口実に俺は半日堂々とサボれた訳だ。




 それを考えれば、不幸中の幸いと言えるかもしれない。




 それに、真衣に抱きつかれて、倒れた際に痛めた肩の痛みも今はなくなっていた。




 どうやら一時的なもので捻挫したとかそういう訳ではなかったようだ。




 俺は家から持ってきたおにぎりをパクつきながら、水筒から出したお茶を流し込む。




 そして、スマホ片手に『彼女』とチャットする。




 ふう……なんだかんだでいつもと変わらないな。




 静寂の中でのボッチ飯……やっぱりこれが一番落ち着くな。




 この旧校舎はもともと日当たりが悪いところに立っているせいなのか、昼間でも中は薄暗い。




 中の設備も使われなくなって大分経っているせいか、ホコリまみれで、ところどころ床が腐って抜け落ちてさえいる。




 そのため、生徒や教師たちも気味悪がっていて、滅多に近寄らない。




 つまり……孤独を愛する俺にとってはここはオアシスだ。




 誰もいない静寂の中、一人でいるのは本当に落ち着く。




 ここにいると、やっぱり俺は人が苦手なんだろうなとあらためて実感する。




 小学生までは学校でも家でも俺の周りには人が……女性たちがいっぱいいたが、彼女たちは家族を含めて全員俺の前から姿を消した。




 あの時は酷くショックを受けたが、今になって思えば一人の方が俺にはもともと性に合っていたのだ。




 真衣が突然俺の前に現れたせいか、久しぶりに思い出したくもない過去が俺の脳裏に蘇る。




 ……まったく真衣のやつ……なんだって今更俺の前に……。




 と、その時廊下で足音がした。




 旧校舎内は、静まり返っているために、音は非常に目立つ。




 見回りの教師か。




 まったく……せっかくボッチ飯を楽しんでいるというのに……。




 ちなみにこの旧校舎は当然本来ならば立ち入り禁止である。




 つまり、教師に見つかると面倒なことになる。




 俺はあわてて身をかがめて、隠れる。




 やがて音の主……人影が、俺がいる教室の中に入る。




「唯? どこにいるの?」




 その声は真衣だった。




 予想外の人物に俺は驚いていた。

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