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第23話 真衣サイド-06-

 ……話がまたそれてしまった。




 とにかくそんな連中でも唯の家族には違いない。




 心優しい唯はきっと彼らにすら同情する。




 だから、わたしはすんでのところで計画の実行を止めた。




 まずは唯の同意を貰わなければならないのだから。




 そのためには、唯と会わなければならない。


 


 あの豚どもがまだ無事だということは、玲奈ちゃんと栞さんも行動を起こさなかったのだろう。




 やはり、二人ともおかしい人間たちだが、唯の意思を尊重する……唯の同意を得る……という点だけは一応は信用できるのかもしれない。




 わたしが、玲奈ちゃんのことを観察するように見ていると、玲奈ちゃんはニヤリと笑って、次の言葉を紡いだ。




 そう……玲奈ちゃんたちのもう一つの条件を。


 


 それは抜け駆けをしないことだった。




 つまり、一人で勝手に唯に会いに行ったりしないということだ。




 わたしは玲奈ちゃんの話を抑えがたい興奮とともに聞いていた。




 正直なところ唯とまた会えるのだったら、他のことはどうだっていい。




 わたしにとっては、唯とまた会えることが重要だった。




 どうやら、玲奈ちゃんと栞さんの間にもすでに『協定』ができているらしい。




 わたしたちは唯の16歳の誕生日を迎えるまでは、先走って唯に会いにいかないという『協定』を結んだ。




 それが、玲奈ちゃんが……いえ二人がわたしに伝えた条件だった。




 それでも、玲奈ちゃんと栞さんたちが、なぜすぐに唯に会いに行かないのかは少し疑わしかった。




 だけど、彼女たちも彼女たちで色々とやること……唯を迎え入れるための最高の準備……があるらしい。




 わたしは当然いますぐにだって、唯に会いに行きたい。




 でも……わたしにだって、一応の仁義はある。




 栞さんと玲奈ちゃんが唯を見つけてくれたのだから、彼女たちの言い分をわたしは聞く必要がある。




 それに唯に関してはわたしたちは暗黙の了解でフェアにやっていこうという同意が昔から既にあった。




 だから、玲奈ちゃんもわざわざわたしに唯の居場所を伝えてくれたのだろう。


 


 玲奈ちゃんはともかくとして、栞さんはそういうところは特に厳しかったし。




 あくまで、選ぶのは唯……という訳なのだろう。




 当然、唯はわたしを選んでくれるにきまっている。




 なにせわたしは唯にプロポーズをされているし、付き合いだって二人よりも一番長いのだから。




 もっとも、二人は、選ばれるのは自分だと、思い込んでいる。




 彼女たちは少し……いやかなり思い込みが激しいから、客観的思考ができないところが難点だ。




 いずれにせよ。わたしは、玲奈ちゃんの提案に同意した。




 そして、わたしは唯の16歳の誕生日まで待った。




 待ち続けた。




 3年もまったのだ。




 今さら数ヶ月くらいどうということはない。


 


 わたしは待っている間に新婚生活……いえ唯を迎えるための準備を進めていった。


 


 まずわたしはアイドルを辞めることを決めた。




 もともと唯を取り戻すためにはじめた活動だ。


 


 目的を果たした以上、わたしがアイドルを続ける理由はない。


 


 ユカリさんにも活動をはじめた時にそのことは間接的に伝えていた。


 


 それでも、ユカリさんは猛反対した。


 


 彼女の反応は当然だろう。


 


 天塩にかけて育てたアイドルが辞めるのだから、


 


 結局……ユカリさんにはだいぶ迷惑をかけてしまった。


 


 それでもわたしなりになるべくユカリさんに迷惑をかけないようにはしたつもりだ。


 


 本当ならば完全に引退したかったけれど、一応『無期限活動休止』という形にした。


 


 わたしはこれから唯のパートナーとして、24時間365日、ずっと……生涯唯の側にいる。


 


 だから、アイドル活動に時間を割く余裕はないのだから……。


 


 ついで、わたしは唯が通うことになる高校への転校準備を行った。


 


 わたしは都内の中高一貫の女子校……いわゆるお嬢様学校というやつだ……に通っていて、そのままそこの高校に行くことになっていた。


 


 唯がいなくなってから、わたしは元々通っていた公立の中学から、この学園へ転校していた。




 両親はもともとこのお嬢様学校への進学を強く希望していて、わたしの公立中学への進学には強硬に反対していた。




 わたしは、同じような経歴の子女たちが集まる籠の鳥みたいでもともとこのお嬢様学校は好きではなかった。




 だけど、当時はわたしは唯を失ったショックで両親に逆らう気力もなかった。




 そういう訳で、わたしは、唯が両親の望むがままにこのお嬢様学校へ転校していた。




 そういう経緯があったから、当然両親はわたしの突然の高校の転校希望に猛反対した。




 両親からすれば、レベルが高い学校から、あえてレベルが下の……この言い方は唯を侮辱しているようで両親とはいえ腹が立ってしまった……しかも家から通うことができない郊外の高校に転校するのだ。




 その反応もある意味で当たり前と言えた。

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