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第21話 真衣サイド-04-

 だけど、わたしの心はいつまでたっても満たされることはなかった。




 あいかわらず唯は夢の中にしか現れない。




 わたしは忙しい合間に懸命に唯を探しているが、手がかりはない。




 唯が引っ越して、今住んでいる場所も連絡先もわからない。




 たったそれだけで、子供のわたしには彼を探す手段がなくなってしまう。




 本当は『家』……水無月家……の力を使っていればもっと早く唯を見つけることができたのだろう。




 だが、わたしは唯のことを両親には話していなかった。




 十中八九反対されるだろうからだ。




 両親や親族は、水無月家にふさわしいという男をわたしにそれとなく既に何度も紹介してきている。




 もちろんそんな男たちは単なる家柄とか経歴だけが立派な人ばかりで、わたしは全く興味がなかった。




 それに、これは後から知ったのだけれど、あの豚ども……いえ唯の家族は唯の居場所をあれからずっと意図的に隠していたのだ。




 当然、唯から連絡が来ることもない。




 わたしは次第に焦りがつのるようになっていった。




 夢の中の唯の顔は徐々に朧気になっていった。




 小学生の時に唯から失敬した……いえ借りた唯の服を抱きしめながら寝ても、もう唯の匂いはしない。




 わたしの部屋は唯から盗んだ……いえもらった数々の唯のコレクションで満ちているけれど、それでも唯の残り香は消えかけていた。




 ちなみに、『Version3』の唯の抱きまくらを制作したのはちょうどこの時だ。




 水無月家のグループ会社の粋を集めて制作してもらった。




 もちろん両親には内密にしてもらって……。




 わたしはこの頃には、アイドル活動のおかげか、少しばかり世渡り上手になっていた。




 そういう訳で子供のわたしでも、両親に隠れて少しは『家』の力を使うことができた。




 だから、『Version3』は少しは慰めになりはした。




 けれども、本物の唯とは比べるべくもない。




 とにかく……いつの間にか唯と別れてから3度目の冬がやってこようとしていた。




 3年という月日は人の心や記憶を変えるには十分過ぎるほどの時間だ。




 わたしの唯を思う気持ちは変わらない。




 それは絶対に間違いがない。




 でも……唯は……。




 唯はわたしとの約束をちゃんと覚えていてくれているだろうか。




 わたしと唯との結婚の約束を——。




 大丈夫……きっと覚えているにきまっている。




 だって、2020年5月8日、15時54分、唯は間違いなくわたしにこう言ったのだ。




『真衣が家にいたくないなら、俺のところに来ればいい』……と。




 唯の言葉は8年前から、一言一句わたしは自分の日記に正確に記録している。




 でも……わたしへのプロポーズを覚えていてくれても唯だって男だ。




 しかも、唯はかなり魅力的で、優しくて、たくましくて、話しが面白くて、わたしを常に守ってくれて、どんな時でもわたしの話を聞いてくれて、その時見せる笑顔だってとても……。




 ——とにかく唯は客観的に見て、とても魅力的な男性だ。




 つまり、唯は自然に女性の感心を引いてしまう男性なのだ。




 小学生の時だって、玲奈ちゃんや栞さんは唯に夢中だった。




 わたしが既に唯からプロポーズを受けているといっても、彼女たちは聞く耳をもたずに唯につきまとっていた。




 唯はあまりにも優しすぎるから、迷惑だと思っても、こういう女性たちに強く出られないのだ。




 だから、わたしが唯の代わりに対処しなければならない。




 3年前まではわたしが唯をこういう女性たちから守ることができた。




 でも……今は違う……。




 この三年間で唯のまわりにどれくらいの女……女狐たちが……。




 ……大丈夫……たとえ唯をたぶらかす女狐たちがいても、そんな女たちは——。




そんなわたしの焦る気持ちとは対象的にアイドル活動は順調だった。




 だけど、わたしの目的はいっこうに果たされることはない。




 そんな折、ユカリさんから、年末の紅白歌合戦に出演することが決まったという連絡をもらった。




 ユカリさんはいつにもまして、興奮気味だった。


 


 同時に、わたしもほのかに気分が高揚していた。




 これなら唯もわたしを見つけてくれるかもしれない。




 そう期待していたのだ。




 だけど、その期待はあっけなく裏切られることになった。




 年が明けてもわたしの生活は何も変わらない。




 唯がわたしの目の前に現れることはない。




 そんな折に、玲奈ちゃんから突然連絡があった。




 彼女に会うのは実に3年ぶりであった。




 ついこないだまで子供だと思っていた玲奈ちゃんはすっかり大人びていて、随分と女性っぽくなっていた。




 でも、玲奈ちゃんの変わりようよりも、玲奈ちゃんの話のほうがわたしにとっては衝撃的だった。




「唯お兄様の居場所をついに見つけたわ」




 玲奈ちゃんは、開口一番わたしにそう言った。

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