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第18話 真衣サイド-01-

 あまりにも緊張してしまって、寝ることができない。




 こんなことはわたしの人生で初めてだった。




 武道館でライブする時だって、紅白に出た時だって……もちろん緊張はしたけどここまでではなかった。




 いまわたしの胸には不安と期待……いや不安はない。




 期待と喜びしかない。




 だって、わたしは明日ついに唯に会うことができるのだから……。




 わたしはダブルベットの中で思わず嬉しさのあまりに悶絶する。




 そう……そして再会した唯と遠からずこの部屋で……いえこのベッドでわたしと一緒に……。




 わたしは隣に鎮座する人間大の大きな抱きまくらにしがみつく。




 もうこの『唯抱きまくらversion3』も必要ない。




 とはいえ、この抱きまくらには大分世話にはなった。




 わたしが隠し撮り……いえ撮った唯の全身の写真をフルプリントしたこの抱きまくらはたしかに唯の似姿に大分肉薄している。




 でもやっぱり本物には遠くおよばない。




 わたしが小学生のときに唯から失敬した……いえ借りた唯の私物で着飾ろうともやはりそれは変わらない。




 いくら抱きついても唯の匂いも感触もしないのだから……。




 それに……もうあれから3年も経っているから、唯も成長していて、あの時とは全然違っているだろう。




 わたしは天井を見上げて、大きなため息をつく。




 そう……唯との予期せぬ別れから3年も経ってしまった。




 唯の家の事情はある程度知っていた。




 唯のお母様とお姉様は、義理の家族だということも。




 わたしは正直あまり彼女たちに良い印象を抱いていなかった。




 でも、そのことが原因でこんなことになるなんて当時のわたしには想像ができなかった。




 少なくとも、彼女たちは、わたしの前では唯と仲良くしていた。




 わたしは、唯の家に遊びに行った時に彼女たちと、ときおり話すことがあった。




 そういう時、どうも彼女たちの言動には妙に演技がかったところがあった。




 わたしは、唯を見る女たちの視線には常に敏感だから、そうした違和感にすぐに気づいた。




 なにせ唯の周りにはいつも女たちがいる。




 例えば、栞しおりさんと玲奈れいなちゃん……




 いつしか腐れ縁ともいう間柄になってしまったわたしの邪魔者たち。




 彼女たちはわたしにとって都合の悪い女たちだけれど、唯のことを愛しているという一点のみについては一応信頼している。




 だから、特例としてわたしは彼女たちだけは唯の側にいることをしぶしぶながら認めていたのだ。




 とはいえ、いくら栞さんや玲奈ちゃんが唯のことを愛しているとはいえ、わたしの唯を思う気持ち……愛には遠くおよばないのだけれど。




 それに、彼女たちの想いは一方的なものであり、唯が愛しているのはただ一人わたしだけなのだ。




 栞さんも玲奈ちゃんもいくらわたしがその不都合な真実を言ってもわかってはくれない。




 彼女たちは自分たちこそが唯に愛されていると妄想している。




 誰がどう見ても唯はわたしのことだけを愛しているというのに……。




 例えば、唯は三人の中でわたしを呼ぶ時だけ声が高くなる。




 そして、わたしを呼ぶ回数が三人の中で日に平均して10%ほど多い。




 あるいは、わたしと目が合う回数、微笑みかけてくれる回数……それらもわたしの方が圧倒的に多いのだ。




 こうした具体的かつ客観的なデータが膨大にあるというのに、彼女たちはその揺るぎない真実……唯がわたしのことを深く深く愛しているということ……をかたくなに認めようとしない。




 ようするに栞さんと玲奈ちゃんは二人ともだいぶ思い込みが激しい。




 そして、二人とも自分のことを客観視できないという致命的な欠陥がある。




 唯もはっきり彼女たちに真実を言ってやればよいのだ。




『俺は真衣を愛している』と……。




 ああ……唯……唯……。




 わたしはその様子を想像して再び悶絶してしまった。




 唯のつぶらな瞳がわたしを見つめて、愛の告白を行い、わたしをきつく力強く抱きしめる。




 そして、このダブルベッドにわたしを押し倒して——。




 その日は……もうすぐそこまで来ている。




 明日には唯に再会して、この部屋で……。




 いえ……さすがにそれは早すぎる。




 わたしが節操のない女だと思われてしまうかもしれない。




 うん……やはりあせってはダメだ。




 まずは、唯としっかりと話して、この3年の空白を埋めないと……。




 でも……唯に求められたら、わたしはその時は——。

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